魔法との遭遇

「も、もう駄目れふ……」  半袖のシャツにクロのハーフパンツ、くるぶしソックスにランニングシューズ姿のククレアナは、全身汗びっしょりになり、フラフラと獣道をふらついていた。  シャツは白地に「剣魂」と達筆な筆文字が印字されており、ハーフパンツには「ヴァル女」の文字が印字されている。    ついに地面にへたり込んだククレアナ。  それを、かなり前方まで進んでいた剣奈々は、戻ってくると 「どうした? その程度のジョギングでへばっていたらヴァル女のトップにはなれんぞ?」  そう言いながら、ククレアナを見下ろしていた。  かなりの早さで進んでいたにもかかわらず、剣は汗一つかいておらず、息も全く乱れていなかった。  そんな剣を懸命に見上げながら、ククレアナは ……わ、私別にヴァル女のトップなんて目指してませんからぁ  と、言おうとしているのだが、  息がまったく整わないため一言も発する事が出来ないまま、その場にへたり込んでいた。 「どうした剣? また門前が脱落したか?」  剣の後方から、神野が駆け戻りその横でそう声をかけていく。  すると、そんな神野の後方から 「ひ、ひどいですよぉ……わた、わた、私はまだ倒れてませんからぁ……」  ヘロヘロになっている門前が近くの木を伝うようにしながらよろよろと神野の後方に姿を現した。  剣は、そんな門前を見つけると 「うむ、倒れていない。いい根性だ」  そう言うと、右手の親指をグッと立てた。  それに気付いた門前は 「えへへ……」  と笑いながら、親指をグッとたてて、返そうとしているのだが  手がプルプル震えているため、うまく握れていないのだった。  そんな一同を見回しながら、地面にへたり込んだままのククレアナは ……そ、そうだ、魔法で体力を回復しよう……ついでに体力強化とか付与しておけばこの、わけのわかんない訓練もどうにかやり過ごせるはず 「おい」  こっそり魔法を発動しようとしていたククレアナに  その顔をのぞき込むようにして剣が声をかけた。 「はいぃ!?」  その、あまりのタイミングに、ククレアナは思わず飛び上がっていく。  すると、剣は 「初日だからな、無理はするな……だがな、女子プロレスは体が資本だ。しっかり体力をつけておかないと、お前が怪我をしてしまうからな。まぁ、徐々に慣れていけばよい」  そう言うと、ククレアナの小柄な体をひょいと抱き上げ、背におぶっていく。  すると、それを見た神野がすこし慌てたように 「奈々は、膝と腰がまだ治りきってないんでしょ? 私がおぶるわよ」  そう言ったのだが、  そんな神野に、剣は、 「ではすまんが、お前はあいつを頼む」  そう言って森の方へ視線を向けた。  その視線の先へ神野が視線を向けると、  そこには、倒れてこそいないものの、木にもたれかかったまま白目を剥いている門前の姿があった。  その手は、いまだに不完全なグッ! ポーズのままプルプル振るえ続けていたのだった。  そんなククレアナを、白い目で見つめながら神野は 「……あなたねぇ、4ヶ月はウチで修行しているでしょうに、昨日入門したばかりのククレアナと同じあたりでぶっ倒れるなんて、何考えてるのよぉ?」  そう、ブツブツいいながらも、門前へ向かって歩いて行く。  そんな神野の前で、門前は 「同じあたりではないのです……わた、わた、わたしは、もすこし進んだのです……そして、倒れてないのです……」  そう言いながら、力なくフフフと笑っていく。  そんな門前の横にたった神野は、  門前のこめかみのあたりを人差し指でついた 「お、おおう!?」  その一撃で、激しく横によろめく門前。  だが、かろうじて倒れることだけは阻止し、どうにか体勢を立て直した。 「ふふふ、この、この、この、この程度の攻撃で、この門前薫子、た、たた、倒れるわけには……」  そう言葉を続けていた門前のこめかみを、神野がさらについて 「いや……あの……その……そんな……あ~れ~……」  つんつんと突きまくられ、徐々にグルグル回転していく門前。  そんな門前を、  神野は白い目で見つめながら、つつきまくっていく 「この程度では倒れないんでしょぉ? ほらぁ、耐えなさぁい」 「あ、あわわ……」  その光景を、剣の背から見つめていたククレアナは、走りすぎで真っ青になっていた顔をさらに白くしながら見つめていた。  そんなククレアナを背負ったまま、剣は 「神野よ、先に行くぞ」  そう言うと、獣道を再び走り始めたのだった。  そのスピードはかなりのもので、ククレアナを背負っているというのに、それをまったく感じさせない軽快な走りをしていたのだった。 ……ホント、この人、すごいですねぇ  そんな剣を、背負われている背中から見つめながら、ククレアナは感心したように息をもらした。  すると、それを察したのか、剣は、気持ちその顔をククレアナの方へ向けると、 「まぁ、あれだ。お前も初めてのロードワークであれだけ走れたのなら、筋が良いといえるだろう。この調子で頑張れ」  そういい、ニコッと微笑んだ。  ククレアナは、そんな剣の表情に、ドキッとしながら 「あ、は、はい! が、がんばります!」  頬をやや赤くそめながら、そう元気に応えたのだった。  が、その数秒後 ……あ、るぇ? わ、私、なんで女子プロレス頑張る方向で返事してるの!?  剣の背で、ハッとなるククレアナだった。 ◇◇  その後、たっぷり1時間、獣道をロードワークした4人は、倉庫へと戻っていた。  4人で走ったとはいえ、その大半の時間、ククレアナと門前は、剣と神野の2人に背負われていたのだが…… 「剣、膝と腰はどう?」  ククレアナを降ろしたばかりの剣に、神野が、背の門前を豪快に放り投げ 「あだだぁ!?」  派手に尻から落下して悶絶しているのを尻目に歩み寄っていった。  そんな神野の前で、剣は、大きく屈伸をしていく。 ……痛っ  その時、剣の膝に激痛が走った。  だが 「うん、なんともない」  剣は、何事もなかったかのように立ち上がると、立ったままストレッチを始めていく。  だが、  その一瞬の激痛の表情を見逃さなかった神野は 「今日はそこまでにしといたらぁ? ここでは4人しかいないんだから、無理して壊れられたら大変なのよぉ?」  そう言いながら、剣の前で腕組みしていく。 「あの~、ちょっといいですかぁ?」  そんな会話をかわしていた神野と剣の間に、不意にククレアナが歩み寄って来た。  ククレアナは、剣の前に座り込むと、その膝のあたりを見つめながら 「こないだから時々言われてましたけど、剣さんはお怪我なさっているんですか?」  そう声をかけていく。  その言葉に、剣はやや言葉に詰まりながら 「い、いや、これぐらいなんともない」  そう言ったのだが、  そんな剣の横で、神野は大きなため息をつくと 「怪我も怪我、大怪我よぉ。巡業中にぃ、膝にヒビがはいったってのに、奈々ってば、それを隠して試合に出続けてねぇ、挙げ句、両膝を粉砕骨折する大怪我、その時持病のヘルニアまで悪化させちゃってねぇ……1年近く歩くことすらままならなかったのよぉ」  そう言いながら、剣の膝に軽く蹴りを入れていく。 ……ぬ!?  そんなに強い一撃でなかったにもかかわらず、剣は一瞬、倒れ込みそうな勢いでガクンと崩れ落ちていった。 「……だいたい、ロードワーク出来るようになったのも最近なんだから、まだ無理しちゃだめだってぇ」  そう言いながら、剣に肩を貸す神野。 「だ、だがだな……」  しかし剣は、不服そうに頬を膨らませ、床を見つめていた。  そんな剣を、神野は苦笑しながら見つめていった。 「大丈夫よぉ、あなたが治るまでの間くらい、この関節冷女、神野五月雨様がぁ、なんとかしてあげるわぁ」  そう言う神野に、剣は目を閉じ 「迷惑かけるな」 「……何を今更ぁ」    と、2人が、肩を組んだ体制で、そんな会話をかわしていると。 「あの」  剣の膝のあたりに手をかざしていたククレアナは、2人を見上げながら 「回復魔法をかけましたけど、どうですか?」  そう声をかけた。  その言葉に、目を点にする剣と神野 「お前、そんなことを言うがな、この怪我はそんなに簡単に治るものでは」  そう言いながら、一歩前に踏み出した剣 ……ん?  その違和感に、剣は思わず唖然とした  その違和感を確かめるために、剣は神野から肩をはずすと、その場で何度も屈伸を繰り返していく。  たっぷり10分、屈伸を繰り返した剣は、  そんな剣を、いつ止めようかと、オロオロしながら見つめていた神野と門前へ視線を向け 「痛くないぞ!」  そう、声をあげた。 「は?」 「はい?」  その言葉に、目を点にする神野と門前。  すると、その2人の前で、剣は高笑いしながらサンドバッグへ向かっていくと、それをすさまじい勢いで蹴りまくっていく。  その蹴りは、  膝に怪我を抱えているものではあり得ないほどの威力で、サンドバッグを襲っており、  その一撃ごとに、サンドバッグは、まるで紙切れのように宙を舞っていた。  わはははは、と、高笑いしながらサンドバッグを蹴り続けている剣を見つめながら、神野は 「あ、あれ? 何がどうなったのかしらぁ?」  そう、呆けたような言葉を発した。  すると  ククレアナは、そんな神野を笑顔で見あげると 「魔法で治療しました。あれぐらいなら治療できますよ」  そう言い、ニッコリ笑っていく。  神野は、そんなククレアナへ視線を向けると 「魔法で治せたのぉ!?」  そう、びっくりしたような声をあげていく。  そんな神野に、ククレアナはにっこり微笑むと 「はい、見てのとおりばっちりです」  そう言いながら、いまだに高笑いしながらサンドバッグを蹴りまくっている剣を指さしていく。  そんな剣を、しばしジッと見つめる神野。 「ねぇ、ククレアナちゃん?」 「はい、なんですか?」 「その魔法って、病院の何科にいったら治療してもらえるのぉ?」 「あ、いえ、回復魔法はですね、使える魔法使いにかけてもらうのが、この世界では一般的でして、病院では……」 「で、ククレアナちゃんは、その回復魔法が使えるのねぇ?」 「はい、勉強しましたので」  エヘヘと笑うククレアナ。  すると、神野は、そんなククレアナの両肩をガッシと掴むと 「ククレアナ、あなたは今からヴァル女の練習生兼リングドクターよ、よろしくねぇ」  満面の笑顔でそう言った。  そんな神野の笑みの前で、ククレアナは 「は、はいぃ!?」  ただただ、その目を丸くするしかなかったのだった。 ……り、りんぐどくたぁ!? って、な、なんですかぁ!?  困惑するククレアナ。  その後方では、いまだに剣が高笑いとともにサンドバッグを蹴りまくっていたのだった。

ブックマーク

この作品の評価

2pt

この感想はネタバレを含みます。感想を表示する

女子プロモノいいですね♪可能なら豊田真奈美のあの技っぽいの小説での描写が読みたいてすリングの上をクルクル回っているホールドする『ジャパニーズオーシャン……(技名が長いので省略)』

2019.12.27 22:40

楠本恵二

0

Loading...