Part 20-5 The Unexpected Situation 境遇

Around the Jacob Wrey Mould Fountain City Hall Park 237 Broadway, New York 13:55 13:55ニューヨーク市ブロードウェイ237番地 市庁公園内ジェイコブ・レイ・モールド噴水|傍《かたわ》ら  20ヤード先をプラチナブロンドの黒い|戦闘服《バトルスーツ》を着た|民間軍事企業《P M C》の女兵士が満載のアリスパックを背負いタン・カラーのアサルトライフルをまるで手慣れた毎朝の食事をする様に当たり前に肩付けし、市庁公園の四角い噴水の右を小走りに駆け回り込んでてゆく。  噴水の逆側を狩人の出で立ちをした耳の長いコスプレ女も大きなアリスパックを背負い同じアサルトライフルを構え短い歩幅を急激に繰り出し追いかける。  この人達は本当に民間企業のセキュリティなのかとNSA・NY支局即応課のヘレナ・フォーチュンはイオテックHHSⅢ518.2ダット・サイトを覗《のぞ》いていない左目で見つめ顔を強ばらせていた。  まるで軍の|特殊部隊《S O F》兵のようだ。  ヘレナは先行する2人があれだけ素早く移動しながら殆《ほとん》ど銃のレシーバーを揺らしてない事が信じられなかった。  自分の構えたSG751SPRーLBは脚を一歩送るごとにがくがくと上下左右に揺れまくる。  それでもこの後、あの脱線したサヴウェイにいた金髪の女を追い詰めまた戦闘になる。2人の民兵がなぜあの金髪を追いかけるのかヘレナは理解が及ばないが、警察官や街の人を多数殺し暴れまわっていた怪物に繋がる様な気がした。  彼女は足音ですぐ後ろの両|傍《かたわ》らに新人のメレディス・アップルトンとヴェロニカ・ダーシーが遅れまいと懸命に駆けているのを石畳の足音で意識した。  木立の先にルネッサンス様式とアメリカン・ジョージアン建築様式を融合させた国内最古の市庁舎パレスが見えており、その正面石柱の間から銃撃騒ぎに避難し遅れた職員ら数人が11段の階段を駆け下りて来るのが見えた。その最中に市庁舎の方からハンドガンの連続した乾いた銃声が響き階段を駆け下りていた1人が振り向き足を踏み外し派手に前へ転んだ。  先を行くプラチナブロンドの女兵士が左手を振り、直後、それを見た耳の長いコスプレ女が市庁舎パレスの左手へ駆け出した。そうしてプラチナブロンドの女兵士がヘレナらの方へ腕を振りその指で2人へコスプレ女の走る左へ、1人に自分について来いとハンドサインを繰り出した。  メレディスとヴェロニカはアサルトライフルを構えたままコスプレ女を追いかけ始め市庁舎手間の広場に巡らされたフェンスを飛び越え、ヘレナはプラチナブロンドの女兵士を追いかけた。  直後、またハンドガンの銃声が続けざまに響き、それがことのほか近い事にヘレナは心臓がバクバクし始めた。  逃げた金髪女は素手だったのに銃声が続いているのは誰かから武器を奪っている事がヘレナには想像できた。こんな事ならアーマー・ベストを着て来るんだったと後悔し始める。  去年の冬に生まれて初めて銃で撃たれた。  肋骨の1本にひびが入ったが幸いに一命はとりとめた。あの時はスーツの下にアーマー・ベストをしっかり着ていた。  ツキに見放されてる自分の走る市庁舎右側にあの金髪女が必ずいて、今回も自分は撃たれるんだと揺れるダット・サイトを覗《のぞ》き込んでヘレナは泣き顔になった。  だが前を行くプラチナブロンドの女兵士はウエットスーツの上にはアーマー・ベストを装着していない。怖くないのだろうか? それとも兵士というものは何かしらの脳内物質でそんな事も感じないのだろうか? 考え方が違うとか、訓練の賜物《たまもの》だとかじゃない。  自分とは住んでる世界がまるで違う種族。  ヘレナはゼエゼエと荒く息をしながら木立の間の遊歩道を抜けた刹那、足下を横切り走る2匹のリスを眼で追いかけた。  つがいのリスが彼女の近くの木に駆け上り姿を消しヘレナが振り向くとプラチナブロンドの女兵士は観光客の市庁舎入場料を払う小屋脇のフェンスを飛び越え、庁舎前のスティーブ・フランダース広場に入り込んで広範囲へアサルトライフルを振り向けているところだった。  ヘレナは慌ててアサルトライフルを|負い革《スリング》で胸の前に提げると、料金所から睨《にら》まれていないか気にしながら、しくじった高跳び競技者の様に胸の高さのフェンスにしがみつき乗り越えた。  彼女はしっかりと両足を地面につきSG751SPRーLBのピストル・グリップを握りしめフォアエンド・ピカティニレールに付けたヴァーチカル・グリップをつかみバレルを振り上げた。そのレシーバーレールに付けられたダット・サイトの赤い68MOA(:100yard先の71.22in(:約180㎝))リング内にあの死肉を喰らった金髪女がいた。  肉食獣の様な金髪女はまだ十に届かない女の子を片腕で胸の前に抱きしめ引き上げ市庁舎の角に半身隠れる様に立っていた。  人質を!  ヘレナ・フォーチュンは愕然《がくぜん》となりマズルを下ろしかかったその須臾《しゅゆ》、猛然とプラチナブロンドの女兵士が射撃を開始し金髪女の方へ脚を繰りだした。  聞こえるのは短く乾いた不規則な銃声ばかりだった。  マリア・ガーランドは足止めとなっていた警官らの2人を昏倒《こんとう》させ、脇でシルフィー・リッツアが1人を気絶させると間髪入れずに胸に提げていたFNーSCARーHのピストル・グリップとヴァーチカル・グリップをつかみバットプレートを右肩に押し付けながら駆けだした。  市庁舎パレスの方から聞こえる|発砲音《ガンショット》からハンドガンばかりで警官達が公園に乱入し市民に危害を及ぼしだしたヴェルセキアに振り回されているとマリーは想定した。  1秒対処が遅れる都度にあのショッピングセンターの惨劇が繰り返される。  噴水池の右手を小走りに駆けだしマリーは即座にシルフィーが反対へ回り込みフォローに入ったと気づいた。指示を出さずとも長年特殊戦を共に経験した|戦友《バディ》の様だと呆れ、共有した彼女の記憶にある高戦術戦士という矜持《きょうじ》が本物だと一瞬思った。  マリーは木立の間を北へ連なる遊歩道を進みながら振り向けたアッパーレシーバー・レイルの45度オフセットアダプタに載せたトリジコンRMRタイプ光学ダットサイトFOV(:光学照準器視野)に木の幹に身体を隠し市庁舎を覗《のぞ》き見る男性を見つけ|脅威度《スレット・チェック》を瞬時に見極め再び向かう先──市庁舎の方へマズルを振り向けた。  気の緩《ゆる》みが|付随的被害《コラテラルダメージ》に繋がる。それでもあの怪物に対しコンマ数秒の差がこちらの敗北を意味し人さし指をトリガー・ガードにでなく引き金のカーブ側面に添え軽く曲げていた。  70ヤード(:約64m)の遊歩道を小走りに駆け抜け木が開けて市庁舎パレス前の広場が見えてきた。  その正面に並ぶ大きな石柱の間から数人の男女が走り出て石段を駆け下り市庁舎の裏手からまた間髪的な銃声が響き階段を1人が転がり落ちた。その大人らが西に面したブロードウェイへ逃げて行くと広場はもぬけの空となった。  歴史的建造物である全米で最古の市庁舎は入場料を取り観光客に解放されている。  マリーはニューヨークに住むようになり3年で初めてパレス前に人がいないのを眼にした。即座に左手を振り上げハイエルフと背後のNSA捜査官2人へ市庁舎左側面を指し示し、残ったNSA職員について来いと合図した。そうして右手1つでバトルライフルを保持したまま広場を観光客から仕切るフェンスに左手をかけ跳び越えバトルライフルを構え直した。  市庁舎左へ向かうシルフィーらが次にフェンスを越え広場に入り込んで、マリーの背後で1人の女NSA職員がフェンスを乗り越えた直後だった。  横に長い市庁舎の右手角に動いたものを見つけマリーは寸秒で対象をダット・サイトのFOVへ流し込み中央の半透明の三角形のグリーン・ダットに相手の顔を捉えた。12.9MOAサイズのダットよりもほんの僅《わず》かに金髪女の顔が上下にはみ出していた。マリーはその差から無意識に女までの距離を58ヤード(:約53m)だと判断した。  市庁舎パレス角からゆっくりとヴェルセキアがマリーらを睨《にら》みつけながら姿を現した。  姿を見せたヴェルセキアが子供を──女の子を前に羽交い締めにし胸の前に抱き上げていた。  |魔法障壁《マジックウォール》を張れる魔物が人質を取る意味合いは1つだった。  弱みにつけ込んできている!  マリーはサイト越しに相手の顔を捉え続けどう対応するか迷った。シルフィーらは市庁舎裏手を警戒しやがてヴェルセキアの背後に回り込んでくる。だがそれを期待し待っている余裕はない。  怪物は易々と女の子の首を折る事ができる。  化け物が子供を抱き上げていない右腕をマリーらの方へ振り上げようとした瞬間、マリーはクリーチャーが|高速《ファースト・》|詠唱《チャンティング》なしで魔法を操れる事を思い出し金髪女の頭部めがけ猛然とM933|徹甲弾《A P》を撃ち込み間合いを縮め始めた。  ダット・サイトのサイティング・ライン下を凄まじい勢いで空になったカートリッジが蹴り出され踊り飛んでゆく。  コンマ1秒に1発近いミリタリー・ボールが金髪女の顔へ吸い込まれてゆく。  その正確無比の銃弾すべてが、精霊シルフの青いシールドにも護られずにヴェルセキアの顔の前で力を失い地面に落ちて金属音を上げていた。  怪物は力なき抵抗をあざ笑う様に赤い唇を歪めると上げた右腕の先で指を打ち鳴らした。  マリーは攻撃系魔法に備え|魔法障壁《マジックウォール》を意識し、直後、一瞬何が起きたのか理解できなかった。  まるでトラックにでも正面からぶつかられた様に両足のコンバットブーツの底が石畳を捉えられずに一気に背後に弾かれた。そのまま女NSA職員にぶつかり2人してフェンスまで飛ばされ柵をなぎ倒した。呻《うめ》きながらマリーとヘレナが身体を起こしかかった矢先に化け物がマリーへ大声で告げた。 「面白くないなぁ────がっかりだぞ」  そう言い放った直後、ヴェルセキアは抱き上げていた女の子の頭を右手1つでつかみ空中に吊り上げた。 「お前さんなら────こんな肉の壁に怖じずに爆裂魔法を打ち込めると思った────んだがな」  首1つで身体を吊された女の子が痛みから泣き始めた。 「うるさいだけの|楯《シールド》は────」  石畳に腕を立てたマリーは見上げた先で怪物がしようとしている事が受け入れられずに唖然となった。 「────必要ない!」  ヴェルセキアは手首の一振りで子供の頸椎《けいつい》をへし折り亡骸を近くの木の幹へ放り投げた。  それを見つめマリーは唇を震わせ石畳についていた手のひらを握りしめた。  もっと戦闘力があるなら────。  覚えたての魔法攻撃を自在に操れたなら────。  あの惨殺者を容赦せずに倒せたものを!  あの女の子を救えなかったのは自分の責任だわ!  怒りがあらゆるエレメントを呼びつける。  マリーは理性の欠片がそれをこの都心部で行ってはならないと責め続けている事をねじ伏せ呟《つぶや》いた。 "Not so much...If you want an explosion..." (:そんなにも──爆裂魔法を喰らいたいのなら────)  突如《とつじょ》|殺戮獣《ビースト》の前の空間が歪み始め、光すらドップラー・シフトし尾を引きそれに気づいたヴェルセキアは顔を強ばらせ後退《あとず》さった。 "...Break down crying, Supreme Atack Magic !!" (:泣きわめけ──至高の攻撃魔法の前に!)  理性が弾け飛ぶ寸前、マリア・ガーランドの右耳のイヤープラグにアン・プリストリから無線通信が入った。 "Major-a, Fuckin' Ready-e OK-ey !" (:少佐ぁ! でっかい糞をぉ 用意したぜぇ!)

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