SantoStory:Fragments | 2019年11月
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002: Happy Birthday (3)

 とまあ、普通やったら、これで終わりと思うやろう……。  もちろん俺もそう思ってたわ。あとはラブラブハッピーエンドやないか。全部語らんでええわ。お|察《さっ》しくださいやわ!  そやのに帰宅したらな、我が家のセキュリティが破られていたんや。  |怜司《れいじ》兄やんに! 「おぉー、お帰り|享《とおる》ちゃん。なんやデートやったんか。悪いけど、うちの|坊《ぼん》が絵ぇ描きたいのやて。アトリエ使わせてなー」  いつものダルそうな|美貌《びぼう》で、|怜司《れいじ》兄やんは事務所に入ってすぐの、客用のチェアに長い足を組んで座り、もくもく|煙草《たばこ》吸うてた。  ここ禁煙やぞコラァ! ノー・スモーキング・プリーズ‼︎  その兄やんの足元には、黒ダスがハフハフ言うて嬉しげに集まり、元のご主人様を恋しがってるみたいやった。  けど兄さんは邪魔くさそうに黒ダスを|蹴《け》っ飛ばし、吸いかけの|煙草《たばこ》をポイッと床に放った。  何やっとんじゃワレェ‼︎ と|享《とおる》ちゃん思ったけど、|吸殻《すいがら》は黒ダス何号かが空中キャッチして食うた。  死ぬぞ⁉︎ お前⁉︎ そんなもん食うな⁉︎ 体おかしなるぞ⁉︎  俺は青ざめて見たけど、|怜司《れいじ》兄やんは涼しい顔やったわ。 「|本間《ほんま》先生、今日が誕生日やろ?」  |怜司《れいじ》兄やんは白いお首を|揉《も》みながら、色っぽいポーズで言うた。  無駄に色っぽい。なんやこいつ。常に色っぽいんや。  アキちゃんはそれにドギマギしちゃったように答えた。 「そ、そうやけど……」  なんで|噛《か》み|噛《か》みなんやジュニア。殺すぞ。  その答えを聞いて、|怜司《れいじ》兄やんはにやあっと笑った。 「誕生日プレゼント、持ってきたんや。|暁雨《ぎょうう》さんがな。まだ作ってる最中やけどな」  天井を視線で指して、|怜司《れいじ》兄やんはそう言うた。  たぶん、アキちゃんのおとんの|暁雨《ぎょうう》さんが、二階のアトリエにいるて言うてんのやろうな。 「俺、絵描くのに邪魔や言うて追い出されたんや。|酷《ひど》いやろう。先生はいつも亨《とおる》ちゃんと仲良しでええなあ。俺も先生に乗り換えようかな?」  にやにやしながら|怜司《れいじ》兄やんは言い、アキちゃんは青ざめてた。 「俺はあいにく先生に誕生日プレゼント何も用意してへんしな、しゃあないし体で払おうか。|貰《もろ》うてくれる?」  |怜司《れいじ》兄やんは客用チェアで悩ましいポーズやった。アキちゃんの顔色は青色から紫色になり、俺の顔色は暗黒面に落ちた。  それを見て、|怜司《れいじ》兄やんが急に吹き出して笑った。 「アホか。何をマジにとってんのや。そないなことするわけないやろ。俺は今夜は坊々の相手で忙しいのや」  にこにこして|怜司《れいじ》兄やんはトレンチコートの中の胸ポケットから、新しい|煙草《たばこ》を一本取り出し、例の、あのアキちゃんのおとんとお|揃《そろ》いの銀のライターで火をつけた。  銀の|蜻蛉《とんぼ》の飾りがついててな、古いもんやけど、ええもんみたいや。|怜司《れいじ》兄やんはそれをすごく大事にしてる。  別に何がどうって言えへんのやけど、大事なんやなっていうのが分かる|扱《あつか》い方や。  それって別に、ライターが好きなんやなくて、アキちゃんのおとんが好きなんやな。  そういうのええなって、俺はいつも|羨《うらや》ましいんや。  俺もずっとアキちゃんのこと、大事にしてやれたらいいな。 「絵、まだかな。遅いなあ。いつまで描いてんのや……」  |怜司《れいじ》兄やんは椅子で|煙草《たばこ》吸いながら、一人でぶつぶつ文句言うてた。  一人で居てんのが|寂《さび》しいみたいやった。  この人らは、俺とアキちゃんが買い物に出かけた後に来たのやろうし、兄やんも、そんなに長くは待ってへんはずやけどな?  せいぜい、一時間かそこらやろ。  そんな早くに絵なんか描けるもんかよ、と俺が思ったときやった。  ぱたぱたと革底の|靴《くつ》の足音がして、アキちゃんのおとんが階段を降りてきた。  ちょっとレトロな|植民地《コロニアル》風の曲がった階段や。曲線が美しい。  そこからおとんが降りてくるんを見て、|怜司《れいじ》兄やんはパッと椅子から立った。驚いたみたいに。  ほんで、花が咲くように、にこーっと笑ったのや。 「坊、もう描けたんか? 早かったなあ。急がんでよかったのに」  めっちゃ優しい声で、|怜司《れいじ》兄やんは甘い砂糖菓子のように|蕩《とろ》けて言うた。  そのゲロ甘さに俺とアキちゃんは棒立ちで、顔色がまた一段と悪うなった。ほぼほぼ|瀕死《ひんし》や。 「待たせて済まんかったな、|朧《おぼろ》。アキちゃんにこの絵、置いて帰りとうて」  |暁雨《ぎょうう》さんは今日は黒いコートやった。もうコート着てる。すぐ出て行くつもりらしいわ。  でもその手にはまだ、巻かれた絵の|軸《じく》を持ってた。 「はい。これ。やるわ。誕生日おめでとう」  おとんは、|無造作《むぞうさ》にアキちゃんにその絵の|軸《じく》を渡して、アキちゃんとそっくりな顔で微笑んでた。 「大きゅうなったな、|暁彦《あきひこ》。おとん嬉しいわ。お|登与《とよ》がな、誕生祝いに持っていけって、家で|託《ことづ》けてきたのやけど……」  |暁雨《ぎょうう》さんはそう言うてチラリと、にっこにこして待ってる|怜司《れいじ》兄やんを見やった。 「|朧《おぼろ》。あれは?」  キュンキュン来るので忙しい|怜司《れいじ》兄やんに、|暁雨《ぎょうう》さんは聞いた。  それでハッとしたんか、|怜司《れいじ》兄やんは二ミリほど正気に返り、ああそうやったって思い出した顔で、自分のトレンチコートの|懐《ふところ》に手を入れた。  そして|鯛《たい》を引っ張り出してきた。  |鯛《たい》⁉︎ |懐《ふところ》に|鯛《たい》が⁉︎  お前どういう体してんのや⁉︎  それは俺でも一抱えはあるなっていう、ご立派な真っ赤っかの|鯛《たい》でな、|相当《そうとう》に|目出度《めでた》かった。  重さもかなりやと思うのに、|怜司《れいじ》兄やんはそれの尻尾あたりを、|華奢《きゃしゃ》な指の片手だけで軽々と持ってた。  化けもんやなこいつ! 知ってたけど! 「めでたいやろ」  |淡々《たんたん》と|暁雨《ぎょうう》さんは言うた。  アキちゃんは青ざめたまま、こくこくと|頷《うなず》いていた。 「でもな、アキちゃん。おとんはずっと知ってたのやけどな。お前は誕生日に|尾頭付《おかしらつ》きの|鯛《たい》が出てくるのは、ちょっとアレやったのやろ。ほんまは誕生日ケーキがええのやな?」  おとんは切々と、アキちゃんの切ない胸のうちを語ってくれた。  それ、いつの話やねん。アキちゃんが子供の頃の話やな?  アキちゃんもう二十三歳やで。大人やわ。  それとも、そういうのって人は永遠に大人にはならへん部分やろか。 「お|登与《とよ》は|鯛《たい》がええのやて信じてるのや。許してやってな。代わりに、おとんがバースデーケーキの絵を描いといたしな」  絵か⁉︎  まだ言葉もない俺の前で、アキちゃんはこくこくと何度も|頷《うなず》いていた。 「ありがとう。おとん。俺、嬉しいわ」  アキちゃんは子供みたいに、おとんに感謝していた。 「チョコレートか白いクリームかで、おとん悩んだのやけどな、|朧《おぼろ》が白がええやろて言うさかい、ショートケーキにしといたしな。それでええか? あかんかったら描き直すのやけど……」  おとんは心配げに言うて、アキちゃんはそれにブンブン首を横に振ってた。  ショートケーキでええわて言うてんのやろな。  アキちゃん、甘いもん食わんのやけどな。お誕生日ケーキていうたら、白いホイップクリームにイチゴが乗ってるやつやなって思うてるみたいや。  そういうの、アキちゃんの知ってる普通の子は、みんな誕生日に買ってもらえたのやろうな。  誕生日ケーキか。そんなん要るんや。もう大人やし、要らんやろと思ってな、亨ちゃん、お誕生日ディナーは用意したけど、ケーキは無かったな。  要るやろて⁉︎  すんません! 気の利かん|蛇《へび》で! 俺のアホ!  けど、まあ、ケーキが|被《かぶ》らんでよかったやんか。さすが神。俺は神やな。  |亨《とおる》ちゃんがうっかりしちゃったおかげで、おとんのケーキが引き立つやないか。なあ?  アキちゃんはちょっとドキドキしたふうに、渡された絵の|軸《じく》をそろりと開いていった。 ――つづく――

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この作品の評価

3pt

かおる様 またまた新作ありがとうございます! さっそくお昼休みに読ませていただきました。 とおるちゃんとあきちゃんが幸せそうなのもうれしいですが、 おぼろちゃんが暁雨さんと幸せそうなのもとってもうれしいです。 特に白川編でおぼろちゃん、こんなことが過去(白川編)にあったんだ、 神戸編の時は想像できなかった、こんなにつらいことてんこ盛り、 たいへんだったねええ、と毎日おぼろちゃんかわいそう、、、 というなかで、 こんなに甘いお話を読ませていただけると、白川編今はつらいけど 大丈夫、このあとあまいあまい未来が待ってるぞ! と安心して読み進められます。 紅葉がきれいなのはうれしいのですが、寒さも厳しくなって まいりましたので、どうぞかおる様、無理なさらず。 たとえ、更新がSTOPしても、まだまだ京都編からもう一度 読み直すターンを繰り返してお待ちしますので、 くれぐれもご無理のないようにお願いします。 もう一度読み直すターンはカクヨムさんとふじょさん、 両方読み直すことができるので、当分大丈夫です! いつもありがとうございます。 かおる様にチョコレートを一年分とか送りたいです。 方法があったらぜひ教えてください!

2019.11.19 12:06

h2otiyo

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かおる様 ありがとうございます。 とてもとてもうれしいです。 言葉がでてきませんが、短いお話もこれから書いていただけると 楽しみが増えます。 今はふじょさんの神戸編とカクヨムさんの白川編の更新を 毎日楽しみにしながら、カクヨムさんで京都編から順に 再読をしています。 こんな可愛らしいお話がときどき書いていただけたら もう天にも昇る気持ちです。 うまく気持ちを文字にできませんが、 寒くなってきたのでどうぞお身体お大事になさってください。 ほんとうにありがとうございました。

2019.11.08 08:38

h2otiyo

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