05.言い忘れてたかな

「それで、いなくなったのは誰なんです?」 「あ……え!?」  多少落ち着いたように見えた|手嶋《てじま》さんも、再び|環《たまき》さんに見据えられて舌をもつれさせる。 「|咲々芽《ささめ》さんたちにどこまで聞いているのか分からないけど、ここへ来たということはそういう相談なんでしょう?」  まだ紅茶の残っているティーカップをテーブルに戻しながら、ようやく、小さく頷く手嶋さん。  私から話そっか?という|花音《かのん》の親切ごかしな申し出にも「いえ、私から……」と、今度ははっきりと首を振る。  花音は花音で、どんな内容でもいいので会話のネタが欲しかったのだろう。  人の話を静かに聞いている……ということが何より苦手なのだ。  手嶋さんの返事を受けて、やや不満そうに紅茶を口に運んだ直後、「アチッ!」といって慌ててカップを口から離す。 「紅茶、熱過ぎだよ咲々芽~。あたしバカ舌なんだよ!」 「猫舌でしょ」  そんな花音のマジボケにクスリと笑って少しリラックスできたのか、ふうっ……と小さく息を吐いてから、ぽつりぽつりと手嶋さんが語り始めた。 「消えたのは……私の弟です」                ◇ 「なるほどねぇ……」  三十分後、手嶋さんの話を聞き終えた環さんが、目を瞑ったまま静かに頷く。  合間合間に多少の質問は挟みながらも、基本的にはずっと静かに、そして興味深そうに話を聞いていた。 「ぶっは――っ!」  止まっていた呼吸が再開したかのように、花音がソファーの上で仰け反る。  思いのほか真剣な環さんの様子に、手嶋さんが話している間、さすがの花音もほとんど口を挟めずにいたのだ。 「こんなに長い間、|他人《ひと》の話を黙って聞いてるとか……苦行だよ、苦行!」 「三十分くらいで、大袈裟だなぁ」 「三十分沈黙の刑なんてもう……拷問といっても過言じゃないよ。DVで訴えたら勝てるんじゃない!?」 「勝てるか! 請求棄却だよ!」  |花音《こいつ》は一体、どうやって授業を受けてるんだろう!?  そんな私たちのくだらないやりとりを気に留める風でもなく、少しの間、何かを考えるように腕組みをしていた環さんだったが……。 「うん、面白い。調べてみる価値はあるかもしれない」  そういって、冷めた紅茶を一気に飲み干したあと、何かに気が付いたように環さんが言葉を続ける。 「あ、ごめんね、面白いなんて……不謹慎だったね」 「い、いえ、大丈夫です」 「雪実さんは、うちの事務所が失踪者専門で調査しているというのは聞いているのかな?」 「はい、少しですけど……」 「それじゃあ、失踪者の中でも、特に〝神隠し〟と呼ばれるようなケースについてのみ請け負っているというのも?」 「あ、いえ、そこまでは……」と、手嶋さんが目を丸くしながら首を振る。  まあ……当然だよね。  いきなり〝神隠し〟なんていう言葉を聞かされても、常識的な思考を持ち合わせた現代人であれば、呆れて失笑するのが普通だろう。  言葉に詰まった手嶋さんと代わるように、すかさず反応したのは花音だ。 「神隠し、って言うと……あれですか? 隠れ里みたいなところに迷い込んで行方不明になっちゃう、っていう……」 「そうだね。昔はそんな風に考えられていたし、現代でも同じような考えを持っている人だって、いないわけじゃない」  花音の質問ににこやかに答えながら、環さんがキッチンの方を振り向く。  夕飯を作り終えた|周《あまね》くんも、キッチン脇の柱に寄りかかりながら、手嶋さんの話を途中から聞いていたのだ。  もちろん、彼女には断ったうえでだけど。 「あまねくん。お茶をもう一杯、頼めるかな」 「うん」  周くんが空のカップを受け取ってキッチンへ戻るのを見届けて、環さんが話を続ける。 「私の家は……まあ、実家の田舎ではかなり名の知れた旧家なんだけど、代々特殊な能力を持った子供が生まれる家系でね」 「特殊な能力……超能力みたいなものですか?」と、花音が小首を傾げる。 「うん、まあ、そう言っても差し支えはないかな」  すごい! と、胸のまえで両手を合わせて感動する花音。  実は花音、オカルト的な話題がもともと大好きで、以前から私もよく、UMAだのUFOだのという話を無理矢理聞かされたりしていた。  そんな素地もあったので、環さんの話にすぐに食い付いてきたのはとくに不自然でもないんだけど……。  意外だったのは手嶋さんの方。  超能力だの異能だのなんて話を聞かされれば、『この人、大丈夫か?』と思われたりするのが世の常だ。  しかし、手嶋さんも花音のように合掌して……とまでは言わないまでも、興味津々といった様子で身を乗り出し、環さんの話に聞き入っている。  意外と彼女も、オタク系女子と言われるような人種なんだろうか? 「ということは、環さんにも、何か凄い能力が!?」 「うーん……、うちの家系ではそれほど珍しくもない能力だからね。凄い……かどうかはよく分からないけど……」  そこへ、新しく紅茶を淹れたカップを持って周くんが戻ってくる。  ありがとう、といって受け取ると、一口だけ飲んでカップをテーブルに戻し、話を続ける環さん。  お茶を飲むだけの何気ない動作だけど、とても|嫋《たお》やかで上品な動き。  親戚とはいえ、分家の私はサラリーマン家庭で育ってすっかり庶民だけど、本家の古めかしい因習のなかで育てられた環さんの所作には、本物の気品が漂っている。 「まあ、詳しいことはまた追々教えてあげるけど、私の能力は……いわゆる、世間で言うところの〝隠れ里〟を特定すること、及びそこに立ち入ること、かな」  なるほど~、と、花音も感心したように頷いているいけど、ちゃんと分かっているのか? 「家系で……ということは、じゃあ、あまねくんにも何か特別な力が?」  矢野森さん、鋭いね! と、嬉しそうに微笑みながら環さんが説明を続ける。 「そうだね。もっとも、私とあまねくんは母親が違うのだけど」 「あ、そうなんですか……」 「しかも、私は実家から追い出された身だからねぇ。家系とはいっても、今、正式に家の跡継ぎとして認められているのはあまねくんの方なんだよね」  それを聞いて周くんも口を開く。 「追い出された、っていうより……環は自分から出ていったようなもんだろ」 「そんなことはないと思うけど……」 「親父だって世間体もあるし、本当なら環に継いで欲しかったんだよ。周りだってみんな、口には出さないけど、兄を差し置いてなんで弟が?って思ってるよ」  突然、ガチャン! と音がして、テーブルの上にティーカップが転がる。  幸い中身は空だったので紅茶が零れることはなかったが……。  花音がソーサーの上にカップを戻そうとして、誤って手から滑り落としてしまったらしい。 「え……? 兄を差し置いて、って……ええ!?」  素っ頓狂な声を上げながら周くんと環さんを順に見やり、さらに、呆然とした視線を私に向ける。  いや、今回ばかりは花音だけじゃなく、隣の手嶋さんも同じような動き。 「あ―……、え―っと、もしかして言い忘れてたかな? 環さん、男性なんだよね」

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この作品の評価

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ひとこと機能で返信の代わりにできますね、遅まきながらやっと発見しました。まだ使い方を調べないと(;^ω^) そろそろ連載再開が出来そうなので此方も色々実験しています 表紙絵が無いのは文章で勝負できるので助かっていますが、捕捉の地図やファンアートも紹介できないので、画像のアドレスを張って評判を見ています。 お問い合わせで張り付けていいかも丁寧に解答してくれました。思いついたアイデアは聞いてみるのがオススメ(^_^)/

2019.04.05 11:20

みさご

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◇が今後も視点切り替えの合図になりますか? 視点を切り替えると作品に立体感がでますね^^

2019.03.22 11:34

みさご

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返信機能がなかったのでお礼が言えませんでしたが、思えば感想で返信ができましたね^^; 誤字報告有難う御座います<(_ _)> お蔭様で早期に訂正ができました^^

2019.03.20 12:09

みさご

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感想有難うございます 指摘の部分は誤字です(/ω\) すごく助かりました!(≧▽≦) その上誤字を見つけるまで詳しく読んで貰えたのも非常に嬉しいです 有難う御座います<(_ _)>

2019.03.02 10:26

みさご

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こんばんわ(*´ω`*) URLの番号にそんな仕掛けが^^; 取り敢えず初コメントを頂き有難うございます こちらもまだチェック中や書き足しがありますが 落ち着いたら一気によんでみます(^_^)/

2019.02.26 23:32

みさご

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