Part 15-3 Level 5 レベルファイヴ

Heli-Port NDC HQ Bld.Chelsea Midtown Manhattan NYC, NY. 13:14 13:14 ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン ミッドタウン チェルシー地区 NDC本社ビル屋上ヘリポート  傾いたカーゴルーム後部開口部に腕組みで仁王立ちのマリア・ガーランドは激しく壊れたヘリポートの鉄製の階段を駆け下る兵を見つめながら、作戦指揮室から駆けつけて傍《そば》に向かい立つ情報2課エレナ・ケイツから報告を受けていた。  エレナはとんでもない報告をしなければならないプレッシャーにマリアが激昂《げきこう》するのではないかと身構えていたが肩すかしを食らい逆に動揺していた。 「──でありますから、目下のところメリーランド幹部クラスの自宅を様々な手段で調査中。ホワイトハウスは2度目の核弾頭発射を阻止すべく空母打撃群3部隊を現場海域に急行させ、先行現着する第2空母打撃群に遅れロシア北方艦隊がその場に──」  ワシントンに核弾頭が落とされ幸いにも不発弾だったという報告に顔色一つ変えないこの指揮官が先任フローラ・サンドラン以上に扱い難いとエレナは内心思ったが、それが報告を言いよどむ事となるとマリーが穏やかに促した。 「続けなさい」 「──3課を除き情報6課までのリーダーすべて同意見で、現場海域で大規模な戦闘になり混乱に乗じてメリーランドを占拠したロシア海軍兵が核兵器を再度使用すると見ています」 「訓練中の第2、第3中隊を召集。メリーランド士官の人質奪回作戦を貴女《あなた》が立案指揮し、士官家族が人質となる事実確定時点で分散投入。テロリストらが密な連携を取っている懸念があるため同時突入を決行。ヘリボーン航空機が不足するため部隊輸送はNDC傘下のヘリとパイロットを本社権限で徴用《ちょうよう》。ありったけ動員して構わない」  エレナは命令に驚きうろたえた。 「私が作戦立案と指揮を────ですか!? それに第2と第3は新規隊員ばかりで訓練に入りまだ短期間で仕上がりにはほど遠いと」 「構わない。新規隊員でも元は皆《みな》戦闘のプロだから現場をこなせると判断します。人質に取られている家族は恐らく多くても8から9家庭以内だろうから分散投入の小隊に第1中隊からベテランをリーダーとして2名ずつ加えます。それからエレナ──」  聞き洩《も》らすまいと情報2課|課長《GM》は顔を強ばらせマリア・ガーランドを見つめた。 「作戦立案といっても各地の状況をそれぞれの小隊リーダーに洩《も》らさず伝え|襲撃作戦《DAO》のタイミング取るだけだから不安がらない。貴女《あなた》にできるのは最大限の有益な生きた情報提供と緊急時の作戦中断権限の行使だけだから。逐次経緯を報告しさえすれば大まかな指示は私が下します」  それが大変以外の何ものでもないとエレナは思い、もうそこから抜け出せる糸口はないのだとため息をつきそうになった。だが自分以上に大変なのはこの人だ。人質奪還に第1中隊からそれだけ割り振ると、ウォール街北地区の怪物に少数で対応しなければならなくなる。 「よろしいんですか、チーフ? ローワーマンハッタンの怪物騒動で警官らに多数の死傷者が出てるんですよ。そこへ少人数で対処に赴《おもむ》くなんて危険過ぎます」  黙ったままの指揮官に見つめられエレナ・ケイツは眉根を寄せた。困惑の理由はマリーの悪戯っぽい微笑みだった。 「悪い物事が起きるときには状況は得てして重なるわ。同時対処は個人の限界でもあり、私はあなた達を信頼し任せられる。私がその時────」 「一番の貧乏くじを引いても神罰は下らないと思うわ」  情報2課GMは心底驚いた。  この人はフローラ・サンドランと同じ結果に立つとしても、そこに至る道がまるで違う。フローラは兵士を消耗品と考え絶えずその供給に心血を注いで作戦を成功させていたが、この人マリア・ガーランドは部下を大切にし過ぎる! "Yes ! Commander !" "We will keep you informed of the situation and release the hostages." (:わかりましたチーフ。状況をあなたに知らせ、人質達を助け出します)  エレナ・ケイツが立ち去ると、戦術攻撃輸送機の周囲を調べ回っていたビクトリア・ウエンズディがマリーのもとに歩いて来て声をかけたのでマリーは顔を振り向けた。 「報告します、チーフ。飛行に支障はないのですが、機関砲のターレットが故障。ターレットが固着し自由に回転させられないのと右主脚が収納不能ぐらい────です」 「困るわね。機体やヘリポートの損害の事じゃなく、ナンバーワンのパイロットがこんなミスを作戦時にやらかす事が────よ」 「すみません。めったにやらかさないんですが」  苦笑いして頭を掻いたビッキーをマリーは軽くたしなめた。 「当たり前でしょ。|度々《たびたび》やられたらかなわないわ」 "Hey, silfurhærð kona !" (:おい、銀髪女!)  エルフ語の呼びかけにマリーが貨物室へ顔を向けると椅子に座ったシルフィー・リッツアが横に座るアリスを指差し尋ねた。 "Stúlkan sem nefndi sig Alice segir mig 'bunny-girl' ." (:このアリスと名乗った少女が私を|バニーガール《・・・・・・》と言うんだ) "Hvað þýðir það ?" (:どういう意味だ?)  マリーは呆れて瞳を游《およ》がせると差し障りのない理由を返した。 "Ein af starfsgreinum kvenna í þessum heimi. Ekki hafa áhyggjur, Shilphy" (:この世界の女性の職業の1つよ。気にしないで) "Er til mikill álfur í þessum heimi !?" (:この世界にもハイエルフがいるのか!?) "Það er engin slík manneskja ! Þú ert sá eini." (:いるわけないでしょ! あなた1人よ)  マリーがつい本音を言ってしまうとハイエルフが食いついた。それに機首側の席に座るミュウが押し黙ってシルフィー・リッツアの方を見てることの方がマリーには気になった。 "Það er Mótsögn ! Hvers vegna, Af hverju er aðeins atvinnugrein ?" (:矛盾するぞ! なんで職業だけがあるんだ?)  マリーは苛《いら》ついて右手のひらをシルフィーへ向け質問を止めさせ、ハイエルフの横に座るアリスに命じた。 「アリス、話が拗《こじ》れるから、シルフィーをバニーガールって言わないの!」  少女は舌をちょろっと覗《のぞ》かせおどけるとマリーに尋ねた。 「はーいぃ! ねぇねぇ、チーフ。今、さっき話してた言葉──何語なの?」  マリーは軽く頭《かぶり》振り少女に約束した。 「アリス、色んな問題が片付いたら話せるように教えてあげるわ」  ヘリポートの階段を駆け上がる複数の足音にマリーが振り返ると第2セルのジャック・グリーショックと第4セルのコーリーン・ジョイントがFGM-148のミサイル本体が入った携行ラウンドと照準ユニットを入れた袋をスリングで背に下げ駆け上がってきた。2人を筆頭に次々と第1中隊のもの達が戻り傾いたハミングバード後方に集まるとマリーは皆《みな》を見まわした。  アン・プリストリには急遽別な兵器を現場へ持ってくるように言いつけたので居ないのは承知だったが、顔ぶれにジェシカ・ミラーの姿がなくマリーはサブリーダー代理のロバート・バン・ローレンツに尋ねた。 「ジェスは?」 「アンについてきました。止めたんですが」  勝手な、とマリーは露骨にムスッとした表情を浮かべすぐにその表情を隠した。 「皆《みな》聞きなさい。合衆国海軍戦略原潜メリーランドが襲撃され占拠されたのはすでに聞き及んでいると思う。ワシントンに搭載されたトライデントが撃ち込まれた」  数人が動揺の面もちになり、何人かは生唾を呑み込み、幾人かが眼を細め事態に懸念を抱いたことを顔に表した。 「原潜乗員が大人しく服従しているわけもなく、我が情報部は複数の士官家族が人質に取られているとみている──」 「──そこで訓練中の新規中隊第2、第3中隊を召集し8小隊規模に再編し事態対処に当たらせる」  ロバートが口を開きかけそれをマリーは視線一つで黙らせた。 「そうだ! まだ新規2中隊は完全なコンディションでない。そこで諸君2名ずつに各小隊の指揮を頼《たの》みたい」 「チーフ! まさか貴女は単独でローワーマンハッタンのあのクリーチャーを何とかしようとお考えなのか!?」  今度は止める間もなくアンの相方ケイス・バーンステインが鋭く問うた。 「私1人じゃない。ビクが|航空支援《CAS》してくれるし、アンとジェスが重火器を用意し駆けつける」 「あの開発中の火炎兵器を街中で使うのか!?」  ロバートから言われ、マリーはそんなことが出きるわけないと即座に否定した。 「いいや、あれは下手をすれば簡単に1ブロックが焦土になる。通常兵器で対処する。諸君が用意してくれたジャベリンと銃弾は私が1人で|あれ《・・》に撃ち込む。どうか────」 「皆《みな》がメリーランド乗組員の家族を全員助け出してくれる事を望みたい。そうすれば私はあの怪物退治に専念できる!」  誰も何も言いださない事にマリーは不安を抱き始めたが、次々に部下達から「|了解《Roger that》」と返事が出されロバートが皆《みな》に命じた。 「カーゴに全FGMー148ユニットと用意してきた弾薬すべて、FNーSCARーHを6挺、|ビームライフル《HPBR》2挺とエネルギーパック、Mー18クレイモア、DM51ハンドグレネードすべてをアリスパックに入れ用意! さあ! 急げ! 急げ!」  各人が兵器弾薬を運び込む傍《かたわ》らでマリーに英国陸軍特殊空挺部隊の中佐だった男が寄って来て耳打ちした。 「ダメなら逃げ出すことも必要だぞ」  マリア・ガーランドは苦笑いすると意思とは真逆の事を小声で答えた。 「ええ、そうするわ」  そう告げ、彼女は振り向き機首奥で立ち上がっていた手持ち無沙汰のミュウに命じた。 「ミュウ、貴女は人質救出チームの最も困難な現場に行き隊員達のサポート! それとここしばらくパティの精神リンクがないの! あなたの精神リンクが届かないのはわかっているけれど呼びかけ続けて! 私にコンタクトしろと伝えて!」 ──了解ですチーフ。くれぐれも無茶はしないで下さい。 『ありがとう。これらの件が決着したらミュウ──』 ──はい? 『精霊魔法を教えてあげます』  ロビンズ・エッグ・ブルーの瞳を丸くしたミュウ・エンメ・サロームが黙ったままマリーの横を通り過ぎてカーゴルーム開口部からヘリポートへ跳び下りると次々に他のものもそのそばに立ち女指揮官へ振り向いた。 「ビク! 離陸! ローワーマンハッタンへ!」  マリーが怒鳴った直後ハミングバードの周囲に爆風が沸き起こり、半壊したヘリポートが大きく揺れるとスターズのほとんどのものが手すりに飛びついてしがみついた。  遠ざかるNDC|本社《HQ》から視線を逸らし、マリア・ガーランドは腰掛けたままのシルフィー・リッツアへ振り向くとエルフ語で告げた。 "Komdu, Shilphy ! Ég mun halda fyrirlestur um hvernig nota má nútíma vopn með flýti." (:さあ、シルフィー! 速攻で現代兵器使用方法をレクチャーするわ) "Andleg hlekkur á 5. stigi...Vertu tilbúinn !!" (:レベル・ファイヴ精神リンクよ。覚悟しなさい!) "Bíddu eftir mér...Hvað er stig 5 !? ...Vinsamlegast útskýrið !!" (:待て! レベル5とは何だ!? 説明しろ!)  シルフィー・リッツアは自分の種族に1人だけいた1000歳の老シャーマンと眼の前の迫る銀髪女の目つきが瓜二つなことに思わず身構えてしまった。

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