機械仕掛けの便利屋さん | 第6章 勇ましく踏み出す意味
笹野葉ななつ

第34話 小さな一歩

「いやぁ、まさかあそこまでしてやられるとは思わなかったな」  光が届かない空間の中、ドクロ仮面を被った男が苦々しく笑っていた。  バルメチスはそんな男を眺めながら、呆れたように息を吐き出す。 「気をつけてくれよ。あれは一応、ラウジーそのものだったんだからね。頭の回転に機転、戦闘能力までそのままだ。それを考えずに突っ込んだ君が悪いよ」 「久々にやりたくなっちゃってね。やっぱり、こういう命のやり取りはいいもんだよ。もうね、背筋がゾクゾクときて楽しい」  バルメチスはますます呆れたように頭を抱えた。  目の前にいる男。こいつはただの戦闘狂だ。命のやり取り、特にギリギリの戦いを好む正真正銘のバカである。  ドライブの関係もあるが、刺されたり撃たれたりすれば痛くないはずがない。にも関わらずその痛みすらも一つのスパイスとして考えている恐ろしい奴でもある。 「キング、僕達の目的を忘れたのかい? もしそうなら、僕は厳しい決断をしなければならない」 「厳しい決断ねぇ。君こそ忘れていないかい? この計画は、遊びじゃないってことを」  それはとても意外な言葉だった。  バルメチスは思わず怪訝な表情を浮かべる。キングはそんな顔を覗き込み、ニカァッと笑った。  それはあまりにも不快で、目障りな笑顔だった。 「これは政治的なゲームじゃない。やるかやられるか、だけの戦いだ。  俺達がやられれば、世界は終わる。そうでなければ世界は救われる。ただそれだけの話。  お前はそのことを理解しているのか?」  とてもつまらない言葉だった。戯言と捉えてもいい。  しかし、相手はキングだ。無下にすればそれこそ命はない。 「わかっているよ。だからこそ僕は君達の誘いに乗ったんじゃないか?」 「本当か? 俺から見るとお前は、ただの目立ちたがり屋だが?」 「ただの目立ちたがり屋が、社会的にも死ぬと思うかい? あんなに輝くステージに僕は立っていたんだよ?」  バルメチスはそういって、言葉をはぐらかした。  キングはそれに、少しつまらなさそうな顔をして納得する。 「そうか。なら俺は、お前を手元に置こう」  キングはそう言ってどこかへ去ろうとする。  だが、その去り際に一度だけ足を止めた。そしてまっすぐと前を見たまま、バルメチスが最もムカつく言葉を吐いた。 「俺達は英雄にはなれない。なれるとしたら、死神だ」  キングは去っていく。その背中を見送った後、バルメチスは激しい舌打ちをした。 「バカなことを言うなよ」  世界を救おうとしているのだ。  みんなに讃えられて当然のことを、しようとしている。  だが、キングはそれを否定した。  とてもムカついて、イライラが止まらない。 「いいさ、そっちがその気なら、こっちも考えがある」  キングを、そしてマーナを出し抜くためにもバルメチスは動き出す。  光差す空間。そこからバルメチスは消える。  そんな様子を、マーナは気付かれないように眺めていた。 ◆◇◆◇◆◇◆ 「何しに来た?」  地下牢獄。その一角にカロルは立っていた。対峙するのは牢の中にいるロランスである。  カロルはまっすぐとロランスを見つける。その顔を見たロランスは、その理由に気づきつつも敢えて問いかけた。 「ラウジーは、死んだのか?」 「ああ」 「そうか。残念だな」 「お前、こうなることを知ってただろ?」 「そうだ」  カロルは表情を変えない。ただ静かに、ロランスを睨みつけていた。  カロルもわかっているのだ。これ以上は不毛だということを。  だがそれでも、言いたいことがある。 「なんでだよ。アンタは、どうしてラウジーさんを困らせるんだ?  ライバルだったからか? それとも、そんなにいけ好かなかったのか?」 「……どっちもだ」 「なんだと?」 「あいつは俺にとっては、友であり、ライバルであり、戦友であり、競争相手であり、好きだけどとてもムカつく奴だった。  一緒にいると心が温まる。俺はそれを嫌った。だから、敵対する関係になった」 「だからって――」 「あいつに勝つには、正反対の存在になるしかなかった。あいつと少しでも同じでは、俺はあいつの影に隠れたままだった。  今ではそれを、間違いだったと思っている」  ロランスはまっすぐとカロルを見た。  カロルはそんなロランスを見下した。  ヒントとなるヒントは得られていない。しかし、ロランスがどんな人物なのか知っただけでもう、十分だった。 「アンタの死刑は確実だ。よくて強制労働だろうな。どっちにしろ、この先は死ぬか奴隷だ」 「そうか。それは残念だ」 「俺はラウジーさんじゃない。だから、アンタのことなんて助けない」 「それでいいさ。俺は少し、ヤンチャしすぎた」  ロランスは笑う。その笑顔に、カロルは煮え切らない思いでいっぱいになった。  カロルはそのままその場を去る。  ロランスに目を向けることなく、振り返ることもなく。 「カロル」  外で待っていたリリアが声をかけてきた。  カロルはとても不機嫌そうにしながらも、「ありがとよ」と声をかけた。 「ねぇ、どうだった?」 「どうもこうもねぇーよ。ヒントらしいヒントはなかった」 「なかったって――」 「だが、動機は掴めた。あいつは、ラウジーさんに嫉妬していた」 「嫉妬って、そんな理由で?」 「そんな理由さ。ただきっかけになっただけだ。だけど、そのきっかけが大事なんだ」  カロルはリリアと共に、地下牢獄から去っていく。 「リリア、もう少し付き合ってもらってもいいか?」 「いいけど。今度はどうするの?」 「ラウジーさんが担当していたものを見る」 「それって、全部?」 「ああ」  ラウジーを殺した相手は狡猾。だがそれでも、どこかに尻尾を出している可能性がある。  それにラウジー自身が、何かヒントを残している可能性があった。  だからこそ、見落とすことはできない。 「わかったわよ。とことん付き合ってあげようじゃない」  リリアは呆れつつも、カロルの隣を歩く。  その姿は、かつて歩んだ二人のものと一緒だった。  アイはそんな二人を見て、微笑む。  同時にこうも考えていた。  私の役目はもう終わりに近い、と。 ◆◇◆◇◆◇◆  そこは、もはや懐かしいとしか表現できない場所だった。  巡回するオートマタは機能を停止しており、力なく身体を壁へ預けていた。  その中心に、マーナがいた。ボロボロのソファーに全ての体重を乗せ、グラスに注いだワインの香りを楽しんでいた。  そろそろ口に含んで楽しもうとしたその瞬間、何かの気配を感知する。 「あらぁ~、来たのぉ~」  マーナは楽しげに笑った。  その視線の先に立つ少女、いやエミリーはとても怪訝な顔をして睨み返していた。 「契約しに来た」  その言葉は、とても小さなものだった。だが、マーナはとても嬉しそうに笑う。  ゆっくりと立ち上がり、エミリーの後ろへと回り込む。そして、その身体を抱きしめ、耳元で囁きながら質問した。 「どういう風の吹き回しなのかしらぁ?」  エミリーは視線を逸らす。そんなエミリーを見て、マーナはクスクスと笑った。 「恥ずかしがらなくていいわ。それにアンタも、所詮はこっち側の人間だったってことだしねぇ」  身体を預けるエミリー。マーナはそれをいいことに、首筋を舐め始める。  エミリーが思わず小さな吐息を零すと、マーナは嬉しそうに笑った。 「いいわよ、契約しても。でもわかっているでしょう? もしそんなことをしたら、アンタは光を浴びることができなくなる。それに、アンタの全てが私のものになる。  その覚悟は、あるのかしら?」  エミリーはその問いかけに対して、迷わずに頷いた。その顔は、いつも見ているものとは違う弱々しいものだった。  だからなのか、マーナは少しつまらなさそうな顔をした。 「やっぱ、いいかな」  思いもしない言葉が放たれる。思わず振り返ると、そこにはマーナの姿はなかった。 「全く、何思い詰めているのよ」  エミリーはソファーへ振り返る。そこにはとても残念そうにしているマーナの姿があった。 「たかがおっさんが殺されただけでしょ? それだけで闇に戻ろうなんて、ホントバカじゃない?」 「お前、本気で言ってんのか!?」 「アンタこそ後悔はないの? 思い残すこともないなら、別にいいんだけど?」 「からかってんの?」 「それはこっちのセリフ。もう少し考えたほうがいいわよ。あ、言っとくけど、あのおっさんを殺したバカの仲間だからね、私」 「なっ」  エミリーは言葉を失う。そんなエミリーを見て、マーナはクスクスと笑った。 「確かに絶望した顔を見るのもいいけど、そこまで悪趣味じゃないしぃ~。どちらかというと、バッチバチになっているアンタの顔が好きだしねぇ~。  でもまあ、曲がりなりにも覚悟を決めてきてくれたしね。だからいいものを、あ・げ・る」  マーナはワインを飲み干す。  すると同時に、一つの円陣がエミリーの手元に広がった。そこから現れたのは、一対となる短剣だ。 「これは――」 「アンタが置いていったものよ。名前は確か、〈ライメイ・ナルカミ〉だったかしら?」 「どうしてお前が持っているんだよ?」  エミリーは思わず訊ねる。するとマーナは人差し指に口を当て、笑った。 「ひ・み・つ」  それは、とてもおぞましい妖艶な笑顔だった。 ◆◇◆◇◆◇◆  静かに佇む巨大な機械。カロルはそれを見下ろしていた。  エスカが死んでいた場所に目を向ける。そこは確かに清潔感が漂う空間となっていた。 「開かないほうがいいです。死にますから」  同行してくれた女性が、カロルにそう注意を促した。  カロルはその忠告を聞き、「わかった」と返事する。 「ねぇ、この機械って動くの?」 「試したことがないので、何ともです」 「動かせるとしたら、どこになるんだ?」 「おそらくになりますが、あそこかと」  女性は機械の胸部分に指を差した。  カロルとリリアはそれを見た瞬間、ついつい唸ってしまう。 「まあ、無理に動かさなくてもいいんじゃない?」 「性能がわかんねぇーから、どんなものなのか見たかったんだけどなぁ」 「下手に開くと食われる可能性がありますからね。もう少し調査が進んだらご報告します」  カロル達は女性の言葉に、素直に頷いた。  ラウジーが残したもの。それを探しているが、どうしても見つからない。  調査を改めてしているが、どんなに探しても見つかりそうもなかった。  カロルは何気なく機械の顔を見る。勇ましくもどこか悪い顔をしており、カロル的にはなかなかに悪くないデザインだと思った。 『薄気味悪い顔をしているな』 「そうか? 俺的にはカッコいいと思うけど?」 『私は君の顔を言っている』 「はぁ?」  アイとの軽口を叩く。  ふと、何気なくリリアに目を向けた。女性と真剣な話をしているその姿は、セシアとは違う凛々しい顔つきであった。  ほのかな光を跳ね返す肌と茶色に染まった長い髪。身を包んでいるスーツが、とても似合っていた。  そんなリリアを見て、カロルはついつい優しく微笑んでしまう。 『いい顔だな』 「そうだな。結構真剣に取り組んでいる」 『これも君のことを言っているが?』 「はぁ?」  カロルは思わずアイに目を向けた。  怪訝そうな表情を浮かべていると、アイは笑った。 『君も、男なんだな』  カロルはその言葉にさらに顔を歪めた。  そして言い返すように、他愛もない言葉を口にする。 「お前は人らしくなったな」  他愛もない時間。アイはそれに、楽しげに笑っていた。

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