第29話 裏切り者と呼ばれるかつての戦友

◆◇◆◇◆◇◆ 「久しぶりだね、ロランス」  王都のとある一角に存在する地下牢獄。その一つに存在する牢屋の前に、ラウジーは立っていた。  見上げるロランスは、大きなアクビを零す。それを終えると手錠された両手を起用に使い、パンを頬張っていた。 「笑いに来たのか?」 「半分はね」 「なら帰れ。俺は見世物じゃない」  ラウジーは床に座り込む。そしてロランスと同じ視線になって、話を切り出した。 「君らしくないね。なぜ、慎重な君が捕まったんだい?」  パンを運ぶ手が止まった。  ロランスはラウジーに目を向ける。そして、楽しそうにしながらも呆れたような笑顔を向けた。 「相変わらず鋭いな。だから俺は、お前に嫉妬した」  ロランスの言葉に、ラウジーは冷たく見つめる。  かつて出世争いをした仲だ。時には協力し、事件を解決したこともあった。  しかし、今のロランスとラウジーは立場が違いすぎた。 「もう半分の用件を言うよ。何が目的なんだい?」 「目的? そんなのわかっていればこんな目に合わないさ」 「はぶらかせないでよ。君ほどの男が、ただ機械を守るためだけに戦って捕まった訳じゃないだろ?」  ロランスは笑う。それはあまりにも聞き心地が悪いものだった。  だがそれでも、ラウジーは耳を傾ける。ロランスが何かを告げるまで、待った。  するとロランスは、呆れたようにため息を吐く。 「お前は変わらないな。だからこそ、俺は悲しい」 「それはどうも」 「わかった。俺は俺の目的を遂げよう。それで満足だろ?」  ロランスは立ち上がる。  ただ真剣な目つきをして、ラウジーを見つめた。  そして一つの言葉を告げた。 「役目は終わりだ――あるバカが、お前にそう告げろと言っていた」  ラウジーは怪訝な表情を浮かべた。  どんな意味を込められてなのか。そもそも、なぜ自分が指定されたのか。  だがそれよりも、誰がそう告げろと指示したのかが気になった。 「それは誰からの言葉なんだい?」 「これ以上は言えない。知りたければ、真実を追え」 「真実?」 「そうだな。俺から言わせれば、事件ではなく〈世界の真理〉だ」  ラウジーはますます顔を濁らせた。  ロランスが言いたいこと。それが全くわからない。  だが拷問にかけてもロランスは語ることはないだろう。付き合いの長いラウジーは、そのことをよく知っている。 「わかった。アドバイスありがとう」  ラウジーはそう言って立ち上がった。  そのまま去ろうとしたその時、ロランスが呟く。 「できれば、辿り着かないで欲しい」  どんな想いがこめられての言葉だったのか。  その意味を考えることなく、ラウジーは地下牢獄を後にした。 ◆◇◆◇◆◇◆  大通り。そこから外れた道へと、ラウジーは入る。  本来ならばカロルとの待ち合わせをしているカフェに行くところだ。だが、本日はいろいろと立て込んでいる。 「やぁ、どうも」 『なんすか? まだ出勤時間じゃないっすけど?』  気だるそうな声が電話越しから放たれていた。ラウジーはそれに苦笑いしつつ、『この前のデータの解析なんだけど』と会話を切り出す。  すると気だるそうな声は思い出したかのように、声を上げた。 「もしかして、進んでない?」 『んな訳ねっす。ちゃんと解析して解読したっすよ』 「そうかい。じゃあ、その結果を聞かせてくれないかい?」 『え? 今っすか?』 「もう仕事は終わったんだろ?」  気だるそうな声は電話越しに大きなため息を吐いた。ラウジーはますます困ったように笑うと、突然ドタバタと音が響き渡る。 『ったく、もうちょいタイミングを考えてくださいっすよ』  文句を言われつつも、ラウジーは言葉を待った。  すると気だるそうな声は、ため息を一度吐き出して言葉を放つ。 『ええっとっすね。まずラウジーさんからもらったデータっすけど、あれはすぐに解読できましたよ。かつて存在した文明の大衆文字といえばいいっすかね。それが使われてたっす』 「アルデンス文字だね。っで、どんなことが書いてたの?」 『あとでメールで送っていいっすか?』 「ダメ。重要そうなところだけでいいから、今言って」 『……わかりました。そうっすね、特に気になったものは二つっす』  気だるそうな声はそう言って、一度咳払いをした。 『まず一つ。これはラプラスの言付に関することっす』 「へぇ、そんなのもあったのか。儲けものだね」 『解読通りなら、ラプラスの言付はゼノウィズ濃度を感知する試験紙とあったっす。空間にあるゼノウィズの濃度が高ければ青く染まり、反対に薄ければ赤く染まるそうっすよ』  つまり、保管していたラプラスの言付はゼノウィズの濃度が下がったことで赤いマークを出したということになる。  だが、それが何を意味するのかラウジーにはわからなかった。 「なるほど。いいことを聞いた。それでもう一つ気になったことは?」 『神話にも出てくるもの、と言えばいいっすかね。そいつの名前が記載されていたんすよ』  気だるそうな声は一呼吸だけ間を置く。そして、気になったもう一つのことを語り始めた。 『ラウジーさんは機神〈ロデュード〉のことを知ってますか?』 「確か、レベナント経典に載っている神話に出てくる神様だろ?」 『そうっす。それがなぜか、この解読したデータにも出てきたんすよ』 「ふぅーん。っで、それがどうしたの?」 『読み解いた限りなんすけど、どうやらロデュードは救いの神として崇められていたそうなんすよ』 「救いの神だと?」  ラウジーはその言葉に一つの違和感を覚えた。  レベナント経典。そこに載っている機神ロデュードは、世界に絶望を撒き散らす神として記されていた。もし復活すれば、世界にいる全ての人間は食われ、終わると言われるほどの畏怖の込められようだった。  だからこそ、レベナント経典に載っている神話を知る者からすればおかしな記載だった。 「詳しく聞かせてもらいたいな」 『俺っちも語りたいところっすけど、時間がきちゃったっす』 「時間? もしかして、妹さんが来るのかい?」 『そうっすよ。もう最悪っすよ。せっかくのワンマンライフを楽しんでいたっていうのに!』 「自堕落な生活をしているから、心配されたんじゃないの?」  気だるそうな声は言い返さなかった。  それどころか、そのまま通話を切る始末である。  ラウジーはついつい、やれやれと頭を振った。しかし、これ以上突っ込もうにもできない状態である。 「まあ、彼女は彼女で大変なんだろう」  そう呟いて、無理矢理納得した。  ひとまずいろいろとヒントを掴めた。同時に気になることもできたが、それは後で調べることにした。 「さて、次はっと」  ラウジーは忙しそうに動き出す。  刻一刻と、運命の時が近づいていることなど気づくことなく。

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