第27話 悪い夢

 何度も見る光景。それは忘れられない出来事ともいう。  これは夢である。  目覚めれば忘れてしまうような、そんな淡い存在だ。 「残念だ、本当に残念だ」  痛みが駆け抜けていた。  持ち上げられた身体。どうにか抵抗を試みるものの、力が入らない。 「お前はとても強い。だが、優しすぎた」  身体を持ち上げているドクロの仮面は、ある方向に視線を移した。  するとそこには、戦いに巻き込んでしまった女性が立っている。  その女性が妖しく微笑んだ直後、顔に手を当てた。  メリメリ、と音が響く。  剥がされた顔からは、全く違う顔が出てきた。 「全く、急に呼び出すからどうしたのかと思ったよ」 「手に余る奴だったからな。何、報酬は弾むさ」  見覚えのある男は、とても悪い笑顔を浮かべていた。  その笑顔を見て、ようやく罠にハマったということに気づく。 「さて、こいつはどうするんだい?」 「殺すに決まっている」 「まあ、普通はそうだよね。でもキング、僕にとってもいい考えがあるんだけど?」 「へぇー、いい考えね。どうせ趣味の悪いことだろ?」  軽口を叩かれた優男は、笑いながら「ご名答」と返事した。  キングと呼ばれたドクロ仮面は、身体を地面に叩きつけるように下ろす。  あまりの衝撃と痛みで、持ち上げられていた男の意識が飛びかけた。 「死なないんだ。強いんだね」  優男はニヤニヤと笑っていた。  先ほどの一撃が、致命的なものとなった。  完全に身体が動かなくなる。  それにも関わらず、男の意識はまだあった。 「その強さ、仇となるよ」  言葉の意味を理解できなかった。  優男はそんな男の顔を眺め、笑う。  そして、一つのナイフを取り出した。  輝く刃が、よく手入れされていることを証明する。  薄っすらと、艷やかな光が、妙な恐ろしさを醸し出していた。  優男は笑う。  ニィッと、楽しそうに顔を歪めさせた。  そして、その刃を男の顔に突き立てた。 「――っ」  ラウジーは思わず飛び起きた。  広がる殺風景な部屋。無機質な光景の中で彩りとしてあるのは、近くの店で買ったカーペットと白いカーテンぐらいだ。 「またか……」  何とも言えない気分になる。  まるで体験したことがあるような、リアリティーがある夢だ。  これまでの人生、ラウジーはあんな経験をしたことがない。死にかけたことは確かに何度もあるが、死んだ経験なんてない。  そのはずなのに、悪夢は時折やってくる。 「参ったな、本当」  まるで一度は死んだことがあるかのような夢だ。  しかも、最悪な殺され方だった。  ラウジーはひとまず、生きていることに胸を撫で下ろした。  喜びを感じつつ、ベッドから降りた。 「汗で身体がビチャビチャだ」  着替えるためにクローゼットを開く。  しまい込んでいたシャツを手に取り、取り替えようとした。  その瞬間、テーブルに置いていた端末が唸り出した。 「どうした?」 『ご報告が三つほどあります』 「わかった」 『一つは、リリアーヌの力が戻りました。  二つは、それに伴いカロル・パフォーマンに変化が起きました』 「カロルに変化? それは何だい?」 『本人曰く、リリアーヌと同じようにドライブなしで使える力を手に入れた、だそうです』 「何だよ、それ?」 『これ以上は何とも。直接確かめたほうが早いかと』 「わかった。それで、三つ目は?」  相手は、少しだけ間を取る。  呼吸を整え、そしてラウジーにあり得ない報告をした。 『リリアーヌ及びカロル・パフォーマンが襲撃された際に、未発見の遺物が発見されました。おそらく結社〈ウロボロス〉が保有していたものだと思われます』  ラウジーの目の色が変わる。 「場所は?」 『王都の南西。いわゆる〈倉庫区画〉と呼ばれている場所です』 「遺跡の場所か。なるほど」  ラウジーは勝ち誇ったかのように微笑む。  カロルに感謝しつつ、電話先の相手に一つの指示を言い放った。 「調査員を全員集めろ。駄々をこねたら僕の名前を出して、強制命令だと言ってもいい」 『承知いたしました。ただちに集めます』  因縁のある敵。  今まで隙を見せなかった相手が、尻尾を出した。  それはとんでもない罠かもしれない。だがそれでも、この好機を逃す訳にはいかない。 「さて、大仕事だ」  ラウジーにとっての大きな戦いが始まる。  それが、思いもしない試練を生むとは知らずに。

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