懐恩 | 第4章 再生
龍 明道

再生(14)

 タクナンが二万の兵で攻撃を仕掛けると、百人ほどの渾日進の兵はたいした抵抗もせずに北東に退却を始めた。呂日将が予想したとおり、こちらが勝ちに乗じて深追いすることを狙っているのだろう。その先にある九嵕山に軽騎兵を潜ませているのは間違いない。 「とことん付き合ってやる」  タクナンはほくそ笑んだ。 「九嵕山がやつの墓場だ」  敵は巧みに防御と逃走を繰り返した。追討に手加減は加えていなかったが、あと少しというところで捕らえそこね、大きな打撃を与えることが出来ない。そのじらすような動きに、タクナンは舌を巻いた。呂日将の助言がなかったら躍起になって罠に誘い込まれていただろう。  こうして三十里ほど追い続け、九嵕山の麓に至った。タクナンが、最後尾の兵も遅れることなくついて来ているのを確認した、そのとき、左手の山肌が轟音とともに崩れた。 「来たぞ!」  タクナンは冷静に合図をした。兵はすかさず山に対して鶴翼の陣形をとる。  こちらに向かってくるのは土砂ではない。  水煙をあげながら駆け下りて来る軽騎兵だ。  その気迫に、さすがのタクナンも肌が粟立つ。  兵士たちが浮足立っているのをひしひしと感じる。  このまま突っ込まれればあっという間に崩され、彼らの餌食になることだろう。後は呂日将を信じるしかない。  敵軍の中ほどに、大将の旗が見えた。  渾日進はあそこにいるのだ。  槍を持つ手に力が入る。  渾日進の軍が山の麓に達したとき、西の山影から走り出してきた騎馬隊が、矢のようにその脇腹を刺し貫いた。  突撃が、止まった。 「逃がすな!」  タクナンは前進を命じた。

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