機械仕掛けの便利屋さん | 第4章 黒き翼は詩に導かれて
笹野葉ななつ

第22話 黒翼の子ども達

 リリアと一緒に取りかかる最後の仕事。それはこれまでとは全く違うものだった。 「失踪事件の再調査?」 「そっ。ここ最近、唐突に人がいなくなることが多いのよ。今月に入っておよそ二十人はいるかな」 「王都だけか? だったら気になる数値だな」 『確かに妙に多い数字だ。私のデータによると月の平均値より十ほど多い』 「ふーん。っで、どうしてお前に任されたんだ?」 「一度は痕跡が辿れなくて打ち切りになったんだけど、私が暇になったから回ってきた案件なのよ。もし私がこうなってなかったら、掘り出されることもなかった事件とも言うわね」  リリア自身に対しての皮肉に聞こえる言葉だった。  カロルは気にせず、渡された資料に目を通す。行方不明になった者達は、それぞれに事情があり、バラバラな職業であり、家族の有無にも共通点はない。  単なる偶然か、と考え始めた瞬間にある名前が目に飛び込んできた。 「エスカ・クレイツ?」  思わず名を口にしてしまう。するとリリアが、ちょっとだけ不思議そうな顔をした。 「どうしたの?」  リリアの問いに答えず、カロルは資料を漁る。懸命にめくっていると、目に止まった人物のプロフィールが掲載されたページへ辿り着いた。  そこに記載されていた写真を見て、カロルは一つの確信を抱く。 「やっぱりか」  見覚えのある赤毛の少女。  リリアよりも顔は幼く、まだまだ子どもっぽさが残っている。  その隣には見覚えのあるクソガキがいるが、気にしない。  カロルはプロフィールに改めて目を通した。そこには現在の職業として、〈フラワーショップの店員〉と記載されていた。 「知り合い?」 「まあな。前にいた施設の後輩って言やぁいいか」 『ほぉ、君に後輩がいたのか。初めて知ったな』 「あのな、お前は俺のことをどう思ってるんだよ?」 『ぐーたらな男だと思っている』 「てめぇ!」 「施設って、もしかして〈黒翼の子ども達〉のこと」  カロルは一度リリアに目を向ける。ちょっと唸った後、不機嫌そうにしながら「そうだ」と頷いた。するとリリアは慌ててカロルから捜査資料を奪い取る。  まじまじと捜査資料を見つめる。その姿はどこか、セシアと似ていた。 「もしかしてこの人達――」 「ちゃんと調べなきゃわからねぇし、推測の域は出ねぇ。だけどおそらく全員〈黒翼の子ども達〉に関係する奴らだ」  リリアは言葉を失っていた。  黒翼の子ども達。それはかつてリリアも世話になった教育施設である。社会的に存在しない、もしくは圧倒的な弱者である子どもたちの才能を伸ばし、社会貢献できる人材に育てることが目的でもある。  リリアにとっては第二の故郷であり、温かな思い出が詰まった場所だ。 「俺も世話になったことがある。事件が起きるまでは関わりもあったな」  カロルの言葉にリリアの顔が曇った。  黒翼の子ども達。そこには多くの子ども達が集まる。だからこそいつしか歪んでしまった。  数年前、一つの事件が発覚する。それは多くの子ども達が臓器売買によって命を落としていた、というものだった。  当時の院長は『施設を運営するためには、お金が必要だった』と言い訳をしていた。  だが、実際は院長の私腹を肥やすためにお金が必要だったことが判明する。結果的には施設と組織は解体され、現在は記録しか残っていない状態だ。 「結果的にバカによって〈黒翼の子ども達〉は消えた。今でもその名前を忌み嫌う奴らがいるしな」 「彼女はその時に?」 「ああ。あとそこに写っているバカもな。あの時はまだかわいげがあったもんだ」  カロルは苦笑いを浮かべていた。  写真の真ん中に建つ少女と、その腕を絡め取られている少年。  少年には微かにだが、面影が残っていた。 「まあ、テラミスのことは置いておこうか。にしても、なんでまた〈黒翼の子ども達〉の関係者が狙われているんだ?」 「わかったら調査しないわよ」 「それもそうだな。ところで、エスカはいつ失踪したんだ?」 「約一ヶ月前ね。捜索届が出されたのは最近みたいだけど」 「ふぅーん」  カロルはそう言って動き出す。リリアはそれを見て、慌てて荷物をまとめて追いかけた。 「ちょっと、当てはあるの?」 「ちょうどいいバカがいる。そいつに話を聞こうかとな」 「話してくれるかしら?」 「無理矢理にでも吐かせるさ」  見つけた一つの糸口。それを頼りにカロル達は動き始める。  そんなカロル達の姿に、アイは優しく見守っていた。 ◆◇◆◇◆◇◆  雑多する大通り。そこを抜けて、ちょっと脇道に入った場所にある酒場があった。  そこでは昼間からアルコールを摂取している者達がいる。見かける顔はどれもロクでなしと表現できる男が多かった。  そんな酒場で働く少年がいた。 「テラミスぅ~、もっと酒を持ってこい~」 「うっせェ! だったらツケを全部払いやがれ!」 「肴はまだか、肴はぁ!」 「もうちょい待ってろィ!」 「虫が入ってたぞ、テラミスぅ~」 「んなのいるかィ! 入ってても飲みやがれィ!」  忙しそうにあくせくと働くテラミス。そんな姿に店主は涙を流していた。  なぜ流しているのか。理由は簡単だ。  テラミスが真面目に働いてくれているからだ。 「おいちゃん、嬉しくて倒れちゃいそう」 「クソジジイ! ビール十個追加だァ!」 「もう嬉しすぎて悲鳴あげちゃうね!」 「聞いてんのか、クソジジイ!」  ワイワイと、ワイワイと賑わう店内。テラミスは悪態をつきながらも一生懸命に働いていた。  そんな中、とある客が訪れる。 「テラミス」  職場の先輩に当たる男性から、テラミスは声をかけられた。  その男性は妙なことにとても面倒臭そうな顔をしている。 「お前に客だ」  指し示された方向を見る。するとそこには、見覚えのある少女と忘れようとも忘れられないバカが立っていた。 「あぁん?」  テラミスは思わず怪訝な表情を浮かべた。だがそれを見た先輩は、すぐに「やるなら裏でやってくれ」と声をかける。  テラミスは仕方なくといった態度で返事をすると、先輩は安心したような顔をして仕事へ戻っていった。 「よぉ、テラミス。いい感じにあくせくと働いているな」 「何の用だィ、クソ野郎。オレサマはてめぇと違って忙しいんだィ」 「まあまあそう言うな。ちぃと聞きたいことがあるだけだからさ」 「聞きたいことだとォ?」  カロルはそう言ってテラミスの肩に腕を回した。  真剣な眼差しをしつつ、小さな声で訊ね始める。 「その髪、いつからしてんの?」  瞬時にテラミスの中で何かが切れた。 「あァ!?」 「あ、他意はねぇよ。単純な好奇心だからさ」 「余計に始末が悪ィ!」 「じゃあ質問を変えよう。カッコいいって思ってんの?」 「ぶっ殺すぞ、てめェ!」  仲よくケンカを始めるカロルとテラミス。  リリアはそんな二人を見て、ついつい痛そうに頭を抱えてしまう。 「あのね、からかいに来たんじゃないでしょ?」 「え? 違うの?」 「アンタね、仕事をするために来たんでしょ! 目的が変わってない!?」 『まあ落ち着け、リリアーヌ。これがカロルなりの緊張のほぐし方だ』 「おい、バラすんじゃねぇーよ。恥ずかしいじゃねぇーか」 「てめぇら、用事がねぇならとっとと帰れィ!」  本当に怒り始めるテラミス。カロルはそれを見て、「わーった、わーった」となだめ始める。  しかしテラミスは、一度火がついてしまったためか今にも殴りかかりそうな勢いだった。  リリアはそんな光景を見て、仕方なく割って入る。 「エスカ・クレイツさんのことを知ってますか? 私達は彼女について聞きに来ました」  テラミスはリリアの言葉を聞き、表情を変えた。  一度カロルに目をやると、真剣な顔つきで見つめ返しされる。 「ここだとうるせェ。こっちに来い」  何かを理解したテラミスは、カロル達に移動するようにと告げる。  カロル達はその言葉に従い、そのままテラミスを追いかけていったのだった。

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