機械仕掛けの便利屋さん | 第3章 イツワリビトの仮面
笹野葉ななつ

第15話 真実への断片

◆◇◆◇◆◇ 「いい、絶対にここで待っててね!」  リリアはちょっと怒り気味に言葉を放った。  とある飲食店。いわゆるファミリーレストランと呼ばれる場所に、リリアは入っていく。  カロルはそんな後ろ姿を見送りつつ、あくびを一つ溢して手を振っていた。 「ったく、なんで私が――」  ちょっと不満げにしながら、リリアは扉を開く。  聞き慣れたベルの音を耳にしながら、そのまま一番奥から一つ手前のテーブルへと向かった。  いつもと変わらない丸い木のテーブル。黒く染められた椅子へ腰を下ろすと、近くにいたウェイターに声をかけた。 「いらっしゃいませ。ご注文はいかがいたしますか?」 「カフェオレを一つ。そうね、今日はホットをいただこうかしら」 「本日は温かいお飲み物を飲む必要はないと思いますが?」 「こういう時こそ飲むものでしょ? 情報屋さん」  リリアのその言葉に、ウェイターは笑った。  メガネの奥から見える瞳を鋭くさせ、ゆっくりと腰を下ろす。対面するように座ると、ウェイターだった男は頬杖をついた。 「言っておくが、最近は相場が高い。払えるか?」 「ご心配なく、どうにかなるから。それよりも聞いてよ! 私、すっごい面倒な奴を押し付けられたのよ! 何よあいつ、やる気ない癖に人をこき使うし!」 「愚痴は別料金だが、どうする?」  思いもしない指摘に、リリアの顔が歪んだ。  一度気を取り直すように咳払いをする。渋々、情報屋に溜まっていた鬱憤をぶつけるのをやめ、リリアは本題へと入った。 「アークデバイスを探している。型番とかわからないわ。でも、粘性のある液体を排気エネルギーとして出すものってことはわかっている。何か心当たりはない?」 「情報量は一つ百ゴールド。端末を使って調べるなら、一ゴールドだ」 「なっ!? ちょっと、なんでそんなに値段が張るのよ!!」 「相場が上がったと言っただろ? 端末を貸してやるだけでもありがたいと思え」 「ちょっと、それでもアンタ仲間!?」 「俺はビジネスマンだ」  リリアは頭を抱えた。目の前にいる男は、明らかに非協力的である。しかし、それでも手を貸してくれるのは、〈音無の狩人〉と今までの付き合いがあるからだろう。  リリアはすごく面倒に思いながらも、仕方なく近くに置かれていた端末を手に取った。  ディスプレイに画像が映る。同時に『やっほー、ナビゲーターのリリィだよ~』という甘ったるい声が放たれた。  見た限り、とてもかわいい。だが、どこかあざとい。  ピンク色の髪をツインテールにし、フリフリとしたフリルがたくさんあしらわれたドレス。  大きな目に、それを覆うメガネ。そこから作り出されるにへらっとした笑顔が、とてもムカついた。 『調べたいことがあったら、検索にかけてね。あ、ジャンル検索もできるから、よかったら使ってねぇ~』  リリアはとりあえずわかっていることを検索にかけてみた。 【エネルギー排出 粘性液体 アークデバイス】 『あ、ごめんね。見つからなかったよぉ~』  リリアは思わず奥歯を噛んだ。不思議とリリィが怯えたが、気にすることなく違う条件で検索をかける 【エネルギー排出 粘性液体】 『一件がヒットしたよ。見るぅ~?』  すぐさま詳細データの確認へと入る。するとリリィは『せっかちさんなんだから』と頬を赤らめながらちょっと呆れ気味に言い放った。  少しだけ左の眉をピクッと上げる。だが、どうにか感情を抑えつけてデータが表示されるのを待った。 『あなたが探していたのはこれかな?』  並べられるデータ。そこに表示されていたのは、ある〈デバイス〉だった。  フェイクマスクと表示された名前。特性としては対象となる人物の生体情報を取り込むことで、そっくりそのままの姿になることができるというもの。  生体情報の情報量が多ければ多いほど、その人物の姿になっていられる時間が長い。だが、使用している間は不思議な霧を発生させることから、〈ミラージュミスト〉とも呼ばれているとあった。 「ミラージュミスト……」  リリアの中で大きな引っかかりが生まれる。ミラージュミストの特性は知らない。しかし、もしそれが粘性の排出液となるなら、この情報は限りなく当たりだ。  しかし、なぜこのデバイスが〈アークデバイス〉でないのか気になる。情報の限りでは攻撃的ではない。だが、十分に危険性が高い代物だ。  そんなものがただの〈デバイス〉でいいのだろうか。 「いい情報が見つかったか?」  情報屋がそう訊ねると、リリアの思考が止まった。  確かに引っかかりを覚えた。だが今は、仕事に集中しなければならない。 「一応。にしても、相変わらずあざといナビね。どうにかならないの?」 「ならんな。あと言葉には気をつけろ。俺は大好きだ」 「あのね、アンタの趣味で魔改造されたら堪らないのよ?」 「ふっ、これだから女は。メガネっ娘のよさがわからないとはな。片腹痛いわ!」 「あとで上にチクっとくから、楽しみにしてなさい」  笑顔で切り返すと、情報屋は「ああ、無情」と力なく肩を落とした。  リリアはそんな情報屋を眺めながら、端末を元に戻そうとする。その瞬間、ある項目が目に入った。 【登録者 バルメチス・ハイジェン】  表示された名前に覚えがあった。だが、どんな人物なのか思い出すことができない。 「ねぇ、いいかしら?」 「百ゴールド」 「じゃあチクるから」 「わかった。何が聞きたい?」 「バルメチス・ハイジェンって、どんな人?」  リリアの言葉を聞いた瞬間、情報屋は目を丸くした。  少し考えた後、真剣な眼差しを向けて話し始める。 「一言で言えば、カメレオン俳優だ。そうだな、お前がまだ十にも届かないあたりに、有名だった人物と言っておこう。  彼は演技力が高く、非常に評価されていた。出演するドラマや映画、舞台はその人気ゆえに必ずヒットになるとも言われていたな」 「そんなにすごい人なんだ」 「だが、ある事件によって彼は死んだ。社会的にもな」 「それって、どういう――」 「彼はハイジャックをしたんだ」  リリアの顔が強張った。  なぜ飛ぶ鳥を落とすほどの人気と勢いがあった俳優が、そんなことをしたのか。思わず訪ねようとした瞬間、情報屋が語り始める。 「彼は結社〈ウロボロス〉の人間だったんだ。絶対的な地位に立ったのも、結社の信者を増やすためだったとされている。  だが、彼はなぜか結社の意向とは違う行動をした。それが結果的に、彼の地位を奈落へ落とす出来事となった」  情報屋は天井を見つめる。懐かしむようにしながらも、悲しいものを見ているかのような目をしていた。 「彼の作品、演技、そして笑顔はどれも素晴らしいものだった。だが、彼はもう存在しない。  彼を語ろうにも、社会は許さないだろうな」  つまり、バルメチスは本当の意味で〈死んだ存在〉である。  情報屋は暗に、そう語っていた。 「ところで、どうして彼のことが聞きたくなった?」 「ちょっと引っかかって。でも、もういないなら別にいいかな」  リリアはため息を吐いた。  当たりだと思った情報だが、その可能性が限りなく低くなった。一つの収穫であるが、残念な結果である。 「ありがとね。あ、今回もツケといて」 「お前、一ゴールドもないのか?」 「嫌ならチクるけど?」 「楽しみにしているから、ちゃんと払えよ」  リリアはカロルの元へと戻る。  収穫はあった。しかし、それは確実に犯人に繋がる情報ではない。  とても憂鬱な結果だが、それでも前進したことには変わりない。 「あ、先ほどはどうも」  そう考えながら戻ると、見覚えのある人物が立っていいた。  それは性懲りもなくにへらっと笑っている。 「ネイクゥーさん、いかがされたのですか?」  調査権限を剥奪し、謹慎処分にした刑事。  その男が、妙な笑顔を浮かべてリリアへと近寄ったのだった。

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