殺戮惑星 | 僕たちは箱舟で生まれた――だから空を知らない
バラキ中山

 それから一時間ほどして、すっかり体力を回復したダイチ達は森の中を再び歩き出した。  安田の提案によりスリーマンセルを二組――足の遅い者と早いものを組み合わせて一緒に行動することにより、全隊での足並みをそろえての行軍だ。高橋の独断的な先導で進んでいた時よりも、幾分速度は落ちている。  ダイチ達三人はマサコたちと組まされた。確かにハリガネのようにやせ細ったミユキは体力的に不利だが、それでも今の行軍スピードならついていけないことはない。 「その荷物、持ってやるよ」  三崎が手を出すと、ミユキはさすがにためらうそぶりを見せた。 「だって、そんなの、申し訳ないよ。それでなくても私、みんなの足を引っ張ってるのに」  三崎はわざとらしいしかめっ面を作って、だけど声だけはおどけて答えた。 「やれやれ、たかが荷物を持ってやるだけなのに、大げさだな。もしかして、優しくされるとほれちゃう感じか?」  それはコロニーで流行っている映画のワンシーンをまねたものだ。主演はコロニーの若い女子に人気のある男性アイドルで、コロニーっ子ならだれもが一度は見たことがあるほどの大ヒット映画なのだ。  だからミユキも、すぐに元ネタに思い当たって小さく笑った。 「やだあ、ずいぶんぽっちゃりしたヨシタクね」 「痩せたら、ヨシタクよりいい男だろ?」 「よく言うわよ」  笑顔をかわした流れで、三崎はミユキの荷物を引き寄せる。 「なんだ、全然軽いじゃないか。これなら僕の荷物のおまけ感覚で持てるね」  ミユキの荷物をひったくって、三崎はどんどん歩き始める。身軽になったミユキの横にはガタイの良いアサコがついて、さりげなくその手を引いた。  ダイチの隣にマサコが身を寄せる。 「なんだか、すまないわね」 「何が?」 「ミユキのことを助けてもらっちゃって」 「作戦上の協力体制ってやつだよ、気にしなくていいよ」 「そうなんだけどさ」 「あ、どうしても気になるならさ、交換条件といこうよ」 「交換条件?」 「そう、交換条件。この星にいる間、僕は全力で君たちを守る。そのかわりさあ、コロニーに帰ったら一緒に映画を見に行ってくれないか?」 「それって、デートね」  マサコがくすくすと笑った。 「いいわ、映画ぐらい付き合ってあげる。その代わり、ポップコーンはあなたが買ってね」 「ちぇっ、ちゃっかりしてるな」  もしもここがコロニーの大通りであれば、二人の会話は年頃の男女にありがちな、あまりにも陳腐なナンパに聞こえたことであろう。しかしここは、未開の惑星の、葉陰濃い密林の中なのだから……。 「そうね、その交換条件、のんであげる。ただし、コロニーに帰ることができたならば、ね」 「ああ、もちろん、コロニーに帰ることができたならば、約束だからね?」  二人にとって重要なのはデートの約束でも、ピカデリー座の売店で売っているポップコーンをキャラメル味にするか塩味にするかでもなく、『コロニーに帰る』と言葉にして言うこと、それそのものなのだ。  だから明るい声をかわしながらも、二人の頬は緊張でわずかにひきつっている。  明るい会話の途切れることが怖くて、マサコはわざとはしゃいだ声をあげた。 「ねえ、映画、今なら何を上映してるかしら?」  その声は雷鳴に似た低い音にかき消された。  雷鳴? いや、違う。何か大きな獣の唸る声だ。

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