魔女と球児 | 黒手配書
旭山リサ

救いのマリー

 マリーたちが事件に巻き込まれた日の夜。  都内各所のイベント会場へ、痴漢【ソックリア】について注意が喚起された。  翌朝、午前七時に、警視庁特殊課、捜査本部の電話が鳴った。  電話の主は、「ダウンタウンプール」の警備担当、トップから。  夏のみ営業の屋外レジャー施設だという。 「注意喚起のあった人物と、よく似た人間を見かけた警備員がいる。監視カメラを確認したところ、それらしい人物が映っていた」  勝はすぐさま、|宿木《やどりぎ》 |円《えん》をプールへ向かわせ、情報収集にあたらせた。本当は、勝みずから現場へ向かいたかったのだが。 「お忙しいところ、恐れいります。夜の虫展示会、警備の者ですが…」 「夏フェスの警備担当ですが…」  各イベントの警備担当者から、相次いで連絡があったのだ。  宇佐兎の「アニメコスモ展」で痴漢事件が連日起こり、ニュースになった。  コスモ展のスタッフが「入場者が減った」と嘆く姿がテレビに映された。  「風評被害」を恐れた他の夏イベントの主催者は、すぐさま警察との連携を強めようと考えたのだ。  夏は稼ぎ時。一定期間しか開かれない展示会などは、お客さんが入らなければ赤字になってしまう。警察から【痴漢ソックリア】について情報を得た、各イベントの警備スタッフは、血眼になって手配犯を探した。  ソックリア以外にも、性犯罪の指名手配犯の目撃情報も寄せられた。 「マリー・ローゼンクランツの似顔絵に、大助かりだ。褒賞モンだぜ」  勝は、通話の「切」を押して、微笑む。 「ローゼンクランツ家の人は、なにかと得意な〝才〟がありますね。ラルフさんの魔法や予知、修得言語数…彼はまさに〝ウィザードの王〟です。いとこのマリーさんもまた…素晴らしい画才をお持ちです」  智子は感嘆する。 「この絵には、魔法がかかってんのかもな」  勝は、ソックリアの似顔絵を、じっと見つめる。 「救いのマリー」 「たしかに」  智子がうなずく。 「いや、今の言葉は俺が考えたわけじゃないんだ。ラルフさんが言っていたんだよ。ローゼンクランツ家には〝マリー〟と名のついた人間が家を守ると伝えられているって。守る、だけではなく、救いだとも、彼は話していた」 「事実、救われています。ただの、おとぎ話ではないようですね」  智子は笑んで、また鳴り出した電話の受話器を取った。 「はい……はい……ええ、そうです………え? 不審物?」  智子は、話を聞きながら、メモを取る。 「恐竜パレード展示会のスタッフからです。恐竜の模型に変なものが仕掛けてある、と」 「智子。ただちに、展示会場へ向かってくれるか」  智子は「了解」と言うと、きびきびした動きで、本部を出た。

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