第17話  みかん畑の霊園

台風15号の被害に遭われた方々に心からお見舞い申し上げます。 千葉県の広域で停電が続いていますが、私の友人一家も千葉県市原市在住です。 友人宅は近くの大木が倒れ、もう少しで自宅に当たるところだったそうです。 怪我が無かったのが幸いだったのですが、友人の安否確認は、停電やドコモの通信障害のためスマホでかろうじて昨日1回と今日1回短時間できただけでした。 緊急に連絡が必要な方々が大勢いらっしゃると思いますので、頻繁に電話は出来ませんが、気が気ではありません。 同じようにご家族や友人を心配していらっしゃる方々も多いと思います。 それらの方々がご無事なのを祈るばかりです。 今回の台風の被害に遭われた方々に改めてお見舞い申し上げます。                           2019年9月10日 ________________________________________________ 母さんは、空間拡張が上手くいったからか、すこぶる機嫌がいい。 「 母さん、機嫌がいいね。」 「 だって、さっきの店長さん、私にメロメロだったでしょう。私ってやっぱり魅力があるのね。ふふふっ・・・」 母さんのにやけ顔が止まらない。 ワゴンARは、最初16万円だったが、5万円も値引きしてくれたのだ。 「ああ、母さんは、とても美人だよ。俺は母さん似で良かったよ。」 取り留めの無い話をしながら、最初の目的地に着いた。 古い寺だった。 母さんは、両親が年を取ってからの一人娘だった。 母さんが大学を卒業して就職した頃は、すでに二人とも亡くなっていた。 当然、まだ生まれていない俺に祖父母の記憶は無い。 祖父母の遺骨は、本家が引き取って本家の墓地に埋葬された。 「 お父さん、お母さん、ずっとお墓参りしなくてごめんね。」 俺と母さんは、しばらくの間、手を合わせていた。 母方の本家には寄らなかった。 祖父母が亡くなった時も、すでに当主は祖父の甥であったが、その後も代替わりがあった。 母さんが墓参のとき、挨拶に行っていたが、次第に疎遠になったとのことだ。 俺が児童養護施設にいたときも誰も来なかった。 母さんも、 「 生きていれば、もう51才よ。この姿で、〈・・|栞《しおり》です・・・〉と挨拶に行けば、幽霊が出たと大騒ぎでしょうね。」 と、笑っていた。 祖父母の墓参りの後、次の目的地に向かった。 そこが今日の本当の目的地で、父さんと母さんの思い出の地だ。 そこは背後に山が連なり、その山々の|麓《ふもと》地帯と言える場所だそうだ。 麓だが、小高い丘と言える標高で、前面には平野が広がる見晴らしの良い場所だそうだ。 母さんは、職場の友人たちとバードウォッチングに来て、同じくバードウォッチングに来ていた父さんとそこで知り合ったそうだ。 田園が広がる道を進むと、やがて道は、わずかだが少しずつ傾斜して|上《のぼ》って行くのが分かった。 目的の丘の下に空き地があったので駐車し、丘の上へと歩いて上った。 歩いている途中分かったのだが、丘は段々畑のようになっていた。 畑は全く手入れされておらず、放置されているようだった。 畑の中には伸び切った草の間に整然とした並びのみかんの木々があった。 元はみかん畑だったのだろう。 父さんと母さんの思い出の場所の上の土地にも、元はみかん畑と思われる2枚の段々畑が続いていた。 父さんと母さんの思い出の場所は、霊園になっていた。 四十ほどの区画に分けられた小規模な霊園だった。 霊園の入り口から入った通路の中ほどで、二人の老人が話していた。 二人は、横の|空《あ》いた区画を指さして何か話していた。 俺たちは二人に挨拶してすれ違い、霊園の中に進んで行った。 「 この|辺《あた》りは山の中だったのに、みかん山になっていたのね。そのうえお父さんとの思い出の場所が、霊園になっていたなんて驚いたわ。」 俺も驚いた。 霊園の|縁《ふち》まで行くと、それからはきつい斜面が下まで続き、行き止まりは水が満々と湛えられた大きな池になっていた。 池の先は、見渡す限りの田園風景が広がっていた。 あの池は、溜池として利用されているのかもしれない。 はるか彼方には、横に細く伸びた蒼い海が見えた。 先ほどの老人たちが、こちらを見ていたので挨拶をして帰ろうとしたら、一人の老人が話しかけてきた。 俺たちの推測は、ほぼ当たっていた。 二十年ほど前、この辺りは一斉にみかん山として切り開かれ、段々畑が出来たのだそうだ。 だが、みかん景気は十年ほどで終わり、その後は放置されたとのことだった。 この場所に霊園が出来たのは、丁度みかん山が放置された頃で、かれこれ十年になるとのことだった。 話しかけてきた老人は、この霊園のオーナーと、ここの管理を任された人だった。 「 ところで、今立っている横の区画を購入する気はありませんか。」 霊園のオーナーが突然、尋ねてきた。 彼によると、彼の弟夫婦のために空けていたが、弟夫婦は仕事の関係で北海道に移住することになり、戻って来ないので本当に空いてしまったとのことだった。 その区画は、10坪あるとのことだった。 ( 10坪? 広さは具体的にどれくらいだろう? ) はてなマークを頭に浮かべていると、 「 余裕でたたみ20畳はありますよ。」 「 えぇぇ! そんなにあるんですか? 周りがみんな同じような広さだし、こうやって中に立ってみると、そんなに広く感じませんが・・・ 」 「 はははっ、皆さん、そうおっしゃいます。」 老人は、金額も言った。 「 永代使用料と10年間の管理料合わせて、200万円で結構です。ただし、こんな格安はありません。くれぐれも他の人には内緒に願います。」 さらに、建墓は指定の石材店に限ること、墓石の様式や形も石材店の指導に従ってもらうこと等の説明が続き、最後に墓石だけでこの広さだと《《2,000》》万円はするだろうと|宣《のたま》わった。 速攻で断ろうとしたその時、 ( 拓馬!! 買って!!! ) 「 買います・・・ 」 母さんの強い思念に負けてしまった。 鶯が〈 ・・ホーホケキョ・・・ 〉と、のどかに鳴いていた。 ( ・・もう9月なのにまだ鳴いている・・暑いからかな・・・ ) 俺は、現実逃避を始めていた。 俺は、あまりにも多額な墓石代にも拘わらず、霊園に申し込んでしまった後悔で途方に暮れた。

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