第14話  不思議な青年

山科拓馬28才 彼は、自身を犠牲にして孫の龍馬を助けてくれた。 それにしても、彼は不思議な青年だ。 孫を|庇《かば》って、トラックの衝撃を全て受けたにも関わらず、入院1ヶ月で退院した。 喜ばしいことだ。 だが、あの生命力と運には驚きの一言しかない。 彼の意識が戻ると、直ぐに話が出来るようになった。 彼は、大人しいが純粋な青年だ。 誰でも私の名を聞くと、好印象を得ようと自分をアピールする者が多い。 だが、彼は野心も卑下も無く、淡々と自分の境遇や仕事のことを話してくれた。 私のことを尊敬し、信頼する気持ちが強く伝わってきて、私は胸が熱くなった。 だが、それだけでは無かった。 私は、どんなに忙しくても一日に一度は、たとえ一時間でも彼を見舞った。 その時見た幾つかの事だけでも、彼の才能には驚くしか無かったのだ。 ナースや医師たちが、日に何度も彼の検査データを見ながら彼に質問をしていた。 彼は、普通の受け答えをしていたのだが、何度も聞かれているうちに、ふと、医療の専門用語を口にして医師たちに答えたことがあった。 その日は、それで終わった。 ところが、翌日から医師たちは、さり気なく医療の専門用語を交えて彼に質問するようになった。 彼は、最初こそ戸惑った様子だったが、諦めたように普通に答えていた。 医師たちは、時々英語やドイツ語を交えていたにも拘らずだ。 私は、これでも一応、英語、仏語、独語が話せる。 ビジネスでも通訳がいらないほどだ。 それで、彼の退屈しのぎにと雑誌や新聞を差し入れたのだが、これら3か国語の雑誌や新聞も持ち込んでみた。 彼を試すようで心苦しかったが、好奇心に勝てなかった。 以外にも彼は、素直に喜んでくれた。 それら外国の雑誌や新聞を楽しそうに読んでくれたうえ、私たちは、その感想まで語り合った。 彼は、実力を決してひけらかさなかったが、彼の語学力は私より上だと思う。 彼は、医薬品の卸販売会社に勤めているので、医療用語やそれに関連して外国語の勉強もしていたのだと言った。 私は、彼の努力や才能は正当に評価されていないと思った。 もっと驚かされる事があった。 私は、幼少の頃から武術を学んできた。 弥一郎も龍馬も私と同じ師から学んでいる。 山崎家は武士の家として、家訓の第一は文武両道だ。 ある日、私の武術の師が、病室を訪ねて来られた。 龍馬が入院していると聞かれ、龍馬の見舞いと出来るなら拓馬君にお礼を言いたいと来院されたのだ。 病室の外に待機している私の警護の者が、師の来訪の旨を私に伝えた。 「 御師は、お年を召されているのではありませんか? 私は構いませんので、是非、中にお入りください。」 拓馬君の言葉で、私は病室の外に出て、師と一言二言挨拶を交わしたうえ、病室へご案内し、両者の紹介をした。 しばらく、三人で今回の件や武術の話をした後、私は師を見送るため師と病室の外に出た。 「 弥太郎、あの御仁が、何の武術の心得も無いと云うのは本当だろうか・・全盛期の頃の|儂《わし》であっても勝てる気がしないのだが・・・」 私は、啞然とした。思いもしない言葉だった。 師は、かつて「 師の前に師なし、師の後に師なし 」と言われたほどの武術家だった。 私の驚きは、彼は何者だろうと云う気持ちに変わっていった。 それは、医師たちも同様だったみたいで、彼らは事故の検査以外に、血液、体液、さらにはDNAの採取と検査の許可を拓馬君に願い出ていた。 以外にも彼は、あっさりと許可をした。 結果は、何も特異なものは無く、彼は全く普通の人間だった。 私は、腹心の部下に、彼について調べるよう指示をした。

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