Part 34-2 My Prey 俺の獲物

Trinity Church 75th Broadway Lower Manhattan, NYC 20:30 午後8:30 ニューヨーク市 ロウアー・マンハッタン ブロードウェイ75丁目 トリニティ教会  降車したフィールドが戦域でなく完全な鉄火場だとシールズのマクニ・ステンフィールド軍曹は通りを眼にして、三十人以上の者達がうずくまり一様に脚を押さえ呻《うめ》いてる状況に敵が多数なのかとストックのバットプレートを肩付けしたH&K HK417アサルトライフルのセレクターに指を掛けフルオートに切り替えた。  背中と左右は仲間に完全に任せ四人でカーゴトラックから離れながら歩道沿いを身近な負傷している者達へ移動し、百二十度ほどの視界全体に神経を張りつめながら教会前の通りに脅威となる対象を探した。  だが武装した者どころか立っている人すらおらず彼は高まった緊張感だけを維持しながら、死角となっている遮蔽物へ次々とダット・サイトに捉え続けていた。  通りには路肩近くに不規則に止まっているSUVが十台以上あり、ビルの角だけでなく敵が隠れている可能性は多数あった。  それにこれだけの負傷者を出した相手はスナイピングの可能性があり、ステンフィールド軍曹は地上だけでなくビルの上階にもマズルを振り上げ窓が開いてないかを確認したが上方からの驚異は今のところ確認できなかった。だが拭いきれない圧迫感を感じ続け経験から彼は脅威が必ずあると信じて疑わなかった。  四人が一番近くにうずくまっている二人のスーツ姿の男女に近寄るとステンフィールド軍曹は二人の傍らにMP5サブマシンガンが落ちているのを眼にしてあたりに9ミリの空薬莢が多数転がっているのをどう解釈したらいいのか苦慮した。  カートはその呻《うめ》いている二人の周囲に満遍なく落ちていた。  まるで四方八方から敵に攻撃され闇雲に応射した様相だった。  救護経験の長いシールズの一人がスリングで胸の前にアサルトライフルを下げながら片|膝《ひざ》を地面についてその男女に声を掛け始めた。まるでそれを待ち構えていたとでもいったタイミングで一番遠い四十ヤード先の車の反対側から黒い人影が躍り出た。 「2時方向、SAWガンナー!」  その脅威が右手にしたマシンガンを眼にした瞬間、ステンフィールド軍曹はスロートマイクへ怒鳴り声を放ちながら敵目掛けトリガーを操り三点射し、更に自らが傍の車に脚を繰り出し、遮蔽物を確保してさらに打撃を与えるべきか判断しようとした。  だが彼が見たのはその距離からでもはっきりと分かるブロンドの長髪が一度左に波打ちそのケープの様な幕に彼が放った三発が呑み込まれ、直後に敵が放った一弾がステンフィールドの右肩に命中し右に振られたアサルトライフルのレシーバーに敵の二発目が命中し完全に手からグリップをもぎ取られてしまった。  だがそれだけではなかった彼が驚いたのは左右から援護射撃に加わった二人も同じ様に銃を弾かれてしまい、その時になって敵がフルオートで放っている一発いっぱつがまるで狙撃の様に操られ計算しつくされ連続した攻撃となっている事実に、聞き慣れたその連続する銃声から一分間に一千百発の射撃レートで発砲している一激ごとなのだと信じられずに唖然と敵を見つめた直後に反射動作から左手で逆手にグリップを握り胸のホルスターからシグ・ザウワーM17を引き抜こうとした刹那、今度は左肩を撃たれ身体を振り回された。  だがそれでも軍曹はその女が遮蔽物のない逆側の歩道を目指し駆け出している様を眼で追い続けていた。  すぐに集中砲火を浴びるとみていた先で敵はいきなり脚を踏み変えその踊ったブロンドにまたぞろ数発のブレットが呑み込まれ、その文字通りの脅威は先頭のカーゴトラックへ凄まじいマズルブラストを引き連れ駆け出し始めた。  マリオン・ルーフら第5セルの五人はPFUの燃料が切れかかるぎりぎりの距離でトリニティ教会の面するブロードウェイ南端の手前に次々に着地すると飛翔装備をビルの合間の廃棄物置き場に隠し電子擬態装備を使い教会前まで駆けた。そうして見えてきた光景に困惑した。  アンが電子擬態装備を使わないどころかヘッドギアも着けずにブロンドの長髪を振り乱しSAWをフルオートで乱射しながら駆け回っていた。  数十人の兵士らと交戦していながらアン一人で兵士らを混乱させ一台のカーゴトラックを火だるまにしていた。  真っ先にロシア人のガンファイター──ブラディスラフ・コウリコフがP90を引き抜き大柄な身体を前屈みにしながら構え駆け出そうとしたのをセル・リーダーのマリオンは腕を右横に伸ばし押し止めた。 「行くな、ブラッディ!」 「なぜだ!? アンが殺られてしまうぞ!」 「よく見ろ! あのイカレ女、笑いながらマシンガンを撃ちまくってるだろ!」  リーダーから言われブラディスはしばらく駆け回るアン・プリストリを眺めていた。  確かに遠目に見える彼女の高笑いこそ聴こえてこなかったが口角を吊り上げ久しい雨で増水した川魚の様に生きいきと駆け回っていた。  いいやそれ以上だと彼は両肩をすくめレッグ・ホルスターにサブマシンガンを戻した。  マリオンはチーフに援護を要請され頼まれ来てはみたもののアンが“狩り”をしているのに割って入る度胸がなかった。 「お前ら、A・Pの援護をしないほうが身の為だぞ」  彼がぼそりと言うとマーガレット・パーシングが信じられないとばかりに彼に顔を向け尋ねた。 「どうして? リーダー何を?」  STARSに入ってまだ月日の浅い彼女はリーダーが躊躇《ちゅうちょ》している理由が理解出来なかった。 「あの女はな、狙っている獲物を盗られると、誰だろうと殴りつけるぞ。本気で殴るんだ」  説明しながらマリオンは顎《あご》を砕かれかかった痛みを思いだしていた。その彼らが見ている先でシールズの複数の激しい射撃に追い込まれる様にアンがカーゴトラックの並ぶ道端とは逆のビルの間に駆け込み追いかけた弾着の痕がそのビルの角までえぐり、マリオンが決心した。 「A・Pはヘッドギアを着けてない。皆、EM(:電子擬態)であいつに気がつかれない様に後方からシールズの連中を排除するぞ!」  その直後、マリオンの姿がかき消えると、リーダーの決意に引きずられる様に見続けていた第5セルの残りの四人も火器をホルスターから引き抜きながら姿を背景に溶け込ませた。  アンはビルの間に駆け込み通用門のわずかな窪《くぼ》みに身を隠しながらわずかばかり肩で息を数回貪ると分隊支援火器からマガジンボックスを取り外し銃からリンクでぶら下がる数発残った7.62ミリ・ボールを乱暴に取り除き左肩に下げたベルトから予備のマガジン・ボックスを引き抜き銃へ弾帯を装填し始めた。  シールズの連中が予想以上に手こずらせるのを認めながら、それでこそやりがいがあるとニヤつき掛かったその時だった。  いきなり通りからサプレッサーに籠《こも》った聞き慣れた軽く異様に速いサイクルレートの唸る様な発砲音を耳にして眉根を寄せた。  P90! 「誰だァ! 俺の獲物をォ横取りする奴ァ!?」  巻き舌で吐き捨てながら叩き付ける様にマシンガンへボックスを取りつけたアンは、両眼を吊り上げ通りへ駆け出しながら再びシールズへ弾丸を浴びせ始めた。

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