ある台風の日に

 私の彼氏は鈍くさい。一緒に暮らすようになって随分経つが、EDで私を性的に満足させることも出来ない癖に、自分の頭の良さを鼻にかけ、皆馬鹿ばっかりだ、などと驕り高ぶった事を言う。いい加減ウンザリしてきた私は、そろそろ潮時かしら? と思い始めていた。    その日は台風の影響で、朝から土砂降りだった。駅へと向かう間に足元は濡れて、夏の蒸し暑さと雨によるじっとりとした空気が私の肌に纏わり付いた。まるで生ぬるい水の中を泳いでいるかの様だった。私は憂鬱な気分で会社へ向かった。    仕事も思うように捗らなかった。私はどんよりとした頭で思った。   「やっぱり、雨の日っていうのは何事も上手く行かないものかしらね? 皆不機嫌そうだわ」    窓から外を見ると、激しさを増した雨が窓ガラスを叩き付けている。強風の中降る雨はまるで水のカーテンの様で、風景を遮断していた。今の私の心の中を反映しているかの様である。それにしても、何だってあんな男を好きになってしまったのか? 我ながら自分の男を見る目の無さに呆れてしまう。帰ったら別れ話を切り出してみようかしら?     仕事が終わり、私は重苦しい思いで帰路に付いた。電車に揺られながら、どうやって彼氏に別れる意図を告げようか? と、そればかり考えていた。上手い言葉を見つけられないまま、自宅近くの駅に着いた。    駅を出ると、道路は浸水していた。濁った水が川のように流れている。   「長靴を履いてくれば良かったわ」    そう呟きながらアパートへと向かう。ふと、遠くへ目をやると、雨の中傘をさしてじっと佇んでいる彼氏の姿が目に映った。私は水と格闘しながら彼氏の元へと近付いた。   「何やってるのよ? 私、今日は貴方に話があるの。とりあえず部屋へ帰りましょうよ」    そう声をかけた。   「うん。ここのマンホール蓋が開いちゃってるんだ。君が落っこちやしないか心配で、待ってた」   彼氏は弱々しく笑った。    おう……。貴方にそんな優しさが有ったとは。私は胸を揺さぶられた。もしかして、私が思っていたよりも良いところが有るのかも?   「それで、話しって何だい?」   「……うん。いいわ、話はまた今度にする」   そう言うと私達は無言でアパートへ帰った。      

ブックマーク

この作品の評価

1pt

彼氏さんのいいところが見つかってよかった!

2019.10.31 14:17

皐月原 圭

1

Loading...