第1話  失恋

田島遥と初めて会ったのは、高校3年生の文化祭だった。 友達とはぐれて不安そうにしている彼女に声をかけたのが始まりだった。 俺たちは直ぐに打ち解け、何度かデートした頃は互いの家族のことなど何でも話し合った。 彼女は、俺の住んでいる町から30kmほど離れた田舎に住んでいた。 父親は、地元の名士で資産家だった。 裕福だと云うことだったが、父親の意向で彼女は大学には行かず、高校卒業後は父親のコネで有名な企業に就職が決まっていた。 俺は、両親は既に死んでいて5才から児童養護施設にいることを話した時、彼女の反応が心配だったが、 「 これからは、私がずっと側にいるね。」 と、言われた時は不覚にも泣いてしまった。 俺が就職した会社は、地元の市にある医薬品の卸販売会社で、主に病院や薬局を営業で廻るのが俺の仕事だ。 朝から暗くなるまで忙しかったが、少しも苦にならなかった。 なぜなら彼女の職場が隣の市だったからだ。 俺と彼女は一緒にガラケーを買って、いつも連絡し合っていた。 日曜は毎週デートしたかったが、忙しくて一度もデート出来ない月もあった。 デートの日がとても待ち遠しかった。 2年が経った。20才になった俺は彼女に結婚を申し込んだ。 「 君を愛しています。俺と結婚してください。必ず幸せにします。今、頑張って貯金もしているから。」 月並みのセリフしか言えなかったけど、彼女は少し考えた後、 「・・ええ、分かりました。・・夢が広がるわね・・・」 と、答えてくれた。 それから次の休みに婚約指輪を二人で買いに行く約束もした。 俺は、嬉しくてその夜はなかなか寝付けなかった。 翌朝、彼女からメールが届いていた。 「 昨日のことはお受けできません。ごめんなさい。」 俺は、何度も電話をしたが着信拒否をされた。 その日、俺は定時に退社して彼女の会社に向かった。 彼女の会社に着いた時、彼女がちょうど会社の建物から出てきた。 「 遥!」 「えっ、・・・」 「朝のメール本当?」 「ええ、本当よ。」 「どうして・・昨日はOKしたんじゃなかったのか?」 「だって、あなたと結婚しても、ただ食べていくだけでしょう。・・昨日は、ああでも言わないと帰してくれなかったでしょう。もう電話もメールもしないで。会社にも来ないで。これ以上付きまとったら警察に言います。」 「・・・・」 高校を卒業して2年、彼女は変わっていた。 俺は、それまで住んでいた会社に近いが、風呂なし、トイレは共同、家賃3万円のぼろアパートから狭いが、1DK、風呂もトイレも付いている家賃10万円のアパートに引っ越した。 貯金は出来なくなったが、心機一転したかった。 あれから8年が経ったが、彼女はいない。 好意を示してくれた女性はいたが、どうしてもこちらから積極的にはなれなかった。

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