機械仕掛けの便利屋さん | 第1章 便利屋さんはトラブルメーカー
笹野葉ななつ

第4話 蠢き出した〈何か〉

「クソッタレがァ!」  悔しそうな怒声が、城下町の真ん中で響いていた。  凍てついていた石畳を叩くテラミスが、ふらつきながら立ち上がろうとする。固く握った拳を振り上げ、どこかへ去ろうとしていたカロルへ殴りかかろうとしていた。 「兄貴、もうやめましょう!」 「これ以上は身体が持ちませんよ!」 「うるせェ! 俺様は、あいつを殴らなきゃいけないんだァ!」  手下達に止められるテラミス。カロルはその姿を見ることなく、足を踏み出していく。  カロルの後ろを追いかけるように、エミリーがついてくる。テラミスが「まだ終わっちゃいねぇぜィ!」と叫ぶと、エミリーは小さな舌を出して威嚇した。  カロルはそんなエミリーを見ることなく、左手で軽く小突きリリアの隣へと立った。 「さて、行こうか」  カロルが告げた言葉に、リリアは息を止める。  なぜ、という言葉が浮かび上がる。しかしリリアは、思わず出そうになった言葉を飲み込んで違う質問をした。 「警察部隊に突き出さないのですか?」 「必要ねぇさ」  カロルはそれ以上、応えなかった。  去っていく大きな背中。だがそれはどこか寂しく、疲れ切っているようにも見えた。 「アニキィー、待ってよー」  そんなカロルを追いかけるエミリーは、どこか寂しい顔をしていた。  もしかすると、エミリーは何か事情を知っているかもしれない。  リリアはそう感じながら、騒いでいるテラミス一行に一礼して去っていった。 ◆◇◆◇◆◇◆ 「計画は順調か?」 「順調さ。裏切り者が出たこと以外はね」  暗闇に包まれた空間。ほのかに差し込む光を取り囲むように、七つの椅子が存在した。  その椅子には二人の男性と、一人の女性が座っている。 「オーロットは残念だった。あいつは元々、我々のことを快く思っていない節があったが――」 「元々? バァカ、あいつを利用するために引き入れただけだろう? まあ、あいつのことだから、僕達の計画に気づかない訳がないけど」  一人は黒いフードで頭を隠した男。  一人は白いスーツを着た童顔の小柄な男。  一人はウェーブがかかった金髪を暇潰しにいじっている女だった。 「なぜ、オーロットを引き入れたの? おかげで一番厄介な男に気づかれたけど?」 「隠蔽工作には必要だった。私の立場上、あまり表立って動けないものでね」 「その結果がこれぇ? 正直、笑えないんだけど」 「悲観しても仕方ないよ。それにこれは、想定内さ」  女は呆れたように息を吐く。  髪を大きく掻き上げながら、小柄な男に文句を言い放った。 「想定内? これがぁ? アンタわかってるのぉ? 結社でも私達に賛同してくれる派閥は少ないってこと。そもそもだけど――」 「言われなくてもわかっているさ。これは結社の方針とは大きく違う」 「国家転覆を目的とする結社とはな。だからこそ誇ろう、我々の成すべきことに」  誇らしく、声高らかに宣言する男達。  女はそれに、何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。 「……ま、別にいいんだけど。こっからは質問なんだけど、どうしてスマートに片付けなかったの?」 「そのほうが効率よかったからさ」 「ハァ?」 「目的とする人物。それは〈音無の狩人〉に所属している」  抱いていた疑問の答え。  それが解消され、女はスッキリとした顔をする。  むしろ答えを聞いて、何か企んでいるかのような怪しい笑顔となっていた。 「はぁーん、だからわざと動かしたのね。ま、そういうことならそっちに任せるわ」 「どこに行く?」 「ちょっとした挨拶。別にいいでしょう?」  女は有無を言わさず、立ち上がる。  頭を隠した男は、また悪い癖を出した女にため息を吐き出した。 「好きにしろ」  言葉を聞いた女は、小さく笑みを浮かべる。  そしてそのまま、闇の中へと消えていった。 ◆◇◆◇◆◇◆ 「おいおい、本当にこんなところで死んだのかよ?」  時計塔前大通り。そこは王城へと繋がるメインストリートである。  王族の誰かに大きな祝いごとが発生するたびにパレードが行われる大通りであり、そのために人々から〈パレードロード〉とも呼ばれている。  時計塔はそんな王族の者達を建国時から見守ってきたシンボルだ。  その目の前で、オーロットは死んだ。 「はい、記録に隠蔽などございません」 「あったら大問題だっての。にしても、なんでこんなところで……」 「それを調べるのが、あなたの仕事です」  バッサリと切り捨てるリリア。カロルはちょっとうんざりとしながら、資料に目を通した。  実況見分による調査でも、異質なものは見つからなかった。  そもそもの話、オーロットはコースを外した自動車に轢かれて死んだ、とある。  もしこの記録が正しいのであるならば、とんでもない間の抜けた死に方だ。 「怪しい点はなし。本当に事故死したのか?」  カロルはため息を吐きながら、周りを見渡した。しかし、特に変わったところはない。いつものように人々は賑わっている。  エミリーに関しては近くにあった移動販売店で、ソフトクリームを購入する始末だ。 「お待たぁ~」 「待ってねぇーよ。つーかお前、バイトに行かなくていいのか?」 「フッフッフッ、看板娘たるもの、ライバルの視察は欠かせないのです」 「あ、そー」 「あ、そうだ。アニキ、ゴチになりまーす」 「あぁ? 一体何を――」  エミリーはあるものを見せる。それはカロルが持つ財布だった。  カロルは慌てて懐を探す。しかし、どんなに探しても財布はない。 「て、てめぇ!」 「逃ーげろぉ~」  もはや働く気がないエミリー。それを追うカロルの顔は、怒りに染まっていた。  リリアはそんな光景にため息を吐き出しつつ、何気なく時計塔へと目を向ける。  するとそこは、修復工事が行われていた。 「そういや、あそこはいつから工事しているんだ?」  エミリーを捕まえ、ヘッドロックをカロルはかけていた。  泣きながら「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ」と叫ぶエミリーだが、カロルは取り合わずにもっと力をかけたのだった。 「うぎゃあァァ!」  悲鳴が響く。リリアもう慣れたのか、サラリと流してカロルの質問へ答えた。 「確か、オーロットが事故死した後だったはずです」 「なんで工事をしているんだ?」 「突然、妙な物体が時計塔にぶつかったとかどうとか、と聞きましたが」 「妙な物体ね。それは回収しているのか?」 「いえ。事件の関連性が低いと判断してしておりません。ですが、珍しい物体ということもあり、王都博物館の関係者が回収したはずです」  カロルは怪しげに笑みを浮かべる。もし考え通りなら、それはオーロットが死んだことと繋がりが出る。 「よし、じゃあ博物館に行くか」  カロルは方針を立て、移動しようとした。  その時だった。 【目標を発見。ただちにセーフティーを解除します】  何かが、青い空から急降下してきた。  白い雲を吐き出しながら、軌跡を描いてやって来る。  それに気づいた人々は、一斉に顔を上げた。  カロル達もつられて、空へと目を向けた。 『ああ、久しい。久しい狩りだ!』  それはぶつかる勢いでまっすぐと降り立った。  カロルは反射的にリリアとエミリーを抱きしめ、二人を飛び散る瓦礫から守ろうと背を向けた。 「グゥッ!」  小さな瓦礫がカロルの肩にぶつかる。  あまりにも痛かったのか、顔が歪んでしまった。  エミリーが思わず「アニキっ」と叫ぶ。  その直後、カロルは二人を抱きかかえながら右へと倒れた。  すると突然、轟音が風と共に通り過ぎていく。  エミリーが目を向けると、それは電信柱をへし折って地面へと着地をしていた。 『反応は二つ。特に大きい方を狙えという命令だったな』  それは、ゆっくりと顔を上げる。  鋭い目で倒れているカロル達を睨みつけていた。  顔を上げたカロルは、睨みつけているそれへ目を向けた。  鎧に身を包んだ黒く輝く身体。だがおかしなことに、鶏と思わせる頭があった。 「なんだ、ありゃ?」  人の形はしている。だが、頭の形がものすごくおかしい。  ズシン、と響く地鳴りからして重量は人一人よりは確実にある。 「まさか、オートマタか?」  カロルは嫌な予感がした。  そしてそれは、見事に的中する。 【解析完了。該当者の性別は女。特徴は赤みを帯びた茶色の髪を持つ者です】  電子音が響く。直後、鶏頭のオートマタはリリアへと顔を向けた。  カロルは反射的に視界を遮るように駆ける。  すると、鶏頭のオートマタは歓喜の声を上げた。 『その挑戦、受けて立とう』  右腕を地面へと突き立てる。  屈み込むように身体を丸めると、その背中から何かが突出した。  スラスター。そう呼ばれる促進機構が、カロルの目に入った。  何をするのか。  そんなの考えなくてもわかった。 『我が突進、受け止められるものなら止めてみろ!』  スラスターが炎を吐き出す。  その勢いに任せて鶏頭のオートマタは大地を蹴った。  まっすぐとカロルへ突撃してくる。  カロルはそれを見て、咄嗟に鶏頭のオートマタの身体を受け止めた。 「グゥゥゥゥゥッッ!!!」  カロルは手足に力を込める。しかし、どうあっても止まらない。  どんどんと後ろへ押し込まれていく。 「ガァァァァァッッッ!!!」  このままではどこかにぶつかる。  そうなれば生身のカロルではひとたまりもない。  だからカロルは、一か八かの賭けに出た。 「どっかに行きやがれ!」  カロルは右手を振り上げた。  そのまま鶏頭の顔面を殴りつける。  すると軌道がずれたのか、鶏頭のオートマタがすぐそこにあったブティックの壁へと突っ込んだ。 「ッ――」  カロルは思わず膝をつく。その顔はひどく歪んでおり、疲れの色も濃い。  心配したエミリーが「アニキ!」と叫び、慌てて駆け寄ってくる。  しかしカロルは、身体を支えようとしたエミリーの手を払った。 「まだ終わっちゃいねぇ。逃げろ!」  ゆっくりと、崩れた壁から手が現れる。  起き上がってきた鶏頭のオートマタは、カロルを睨みつけた。 『ワガハイの突撃を逸らすとは。これは感心する。いいだろう、これも縁。お主と遊んでやろう』  カロルは睨みつける。  だが鶏頭のオートマタは、それを楽しそうに眺めるだけだ。 「構築原則なんざないか、くそったれ」  忌々しげに言葉を吐き出して、カロルは立ち上がる。  それに鶏頭のオートマタは嬉しそうに笑った。 『我が名はケイメイ。時幻型二刻式ケイメイである。我が力を持ってお主の力を推し量ろう!』

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