第0話 動き出した運命より

『いいかい? 君の悪いところは予測できることすら考えないところだ』 「っせぇ! 説教は後で聞いたやるから、とっとと力を貸せ!」  時計塔前に広がる大通り。そこで、大きな声が放たれた。  一つは体格のいい男。照りつける日差しから肌を守るためか、赤いロングコートを羽織っている。  もう一つは、男の首から下げているペンダントから聞こえていた。 『乱暴な男だな。それでは目の前にいる〈敵〉と変わりないだろ?  私を作り上げたマスターからの情報では、君は確かに粗暴で手のつけられなかった男だとあった。  だが、それも成長すれば変わるという期待感もあったが――』 「んな御託はいいから、協力しろよ!」  やれやれ、とペンダントは呟く。それに男は明らかに苛ついている様子だった。  だが、不思議とその表情は楽しそうでもあった。  先ほど見せていた暗さはなく、むしろどこか嬉しそうにも見える。 『まあいい。後々その当たり考察はするとしよう。それで、君は何を成し遂げたい?』 「あぁ?」 『君が今成さなければならない目的を聞いている。可能であれば私は応えよう』 「んなの決まっているだろうが」  男は滑りながら振り返る。  同時に追いかけてきていた〈何か〉に向かって、右の拳を突き出した。  カウンター気味に放たれた拳は、飛び込んできた〈何か〉の顔面を打ち抜く。  しかし、すぐに体勢を立て直して後ろへと下がっていった。 「やっぱ〈アークデバイス〉なしじゃあ、キツいか」  男は思わず顔を歪める。  同時に、殴った影響からか包み隠していた右手の手袋が破れた。  むき出しになる銀色のフレーム。機械的な質感の輝きが放たれる中、男は赤いロングコートを脱ぎ捨てる。  肩まで銀色の輝きを放つ右腕。それを見た〈何か〉は、小さな唸り声を上げた。 「守りたい者がいる。だからあいつを、ぶっ壊す」 『いいだろう。なら話は簡単だ』  男の言葉を聞いたペンダントは、白銀の輝きを放ち始めた。  それは何を意味するのか。目の前にいる〈何か〉は、その驚異に気づいている様子だった。 『ドライブに私をはめ込め。そうすれば対抗しうる力を得る』  言葉を聞いた男は、首に下げていたペンダントを左手で握った。一度だけ振り返り、意識を失っている少女へ目を向けた。  かつて苦楽を共にした相棒。その面影がある少女は、ただ静かに眠っている。  もし相棒が生きているなら、と何度も考えたことがあった。だが、どんなに悔いても失ったものは戻らない。  だからこそ男は、手にした〈希望〉をもう手放さない。 「いくぞ、アイ。俺はもう、覚悟はできている!」 『いいだろう、カロル。君の覚悟を見せてもらおう』  カロルと呼ばれた男は、チェーンを引き千切る。  ペンダントを肩にある装着部位にはめ込むと、一対の翼が生まれた。 「……天使?」  眠っていた少女が、目を覚ます。  まだ朧気な頭。だけどそれでも、ハッキリと目に映したものがあった。  銀色に輝く翼。それはとても美しくもあり、だけどどこか冷たさが漂っていた。

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