自分語り

小さい時、親が離婚した。小さい時と言っても、俺はあの夜のことを鮮明に覚えているから、少しは歳をとっていただろう。あれは、今思い出しても強烈な夜だった。 ◆ ◆ ◆ 「ひっ!」 何枚もの皿が割れる音を聞いて、僕は悲鳴をあげる。悲鳴と言っても、小さく。親を刺激しないように、小さく。そうしないと、また殴られるから。 「もうやめて!殴らないで!」 ドタドタと、フローリングの床を走る音と一緒に、お母さんの声が聞こえる。 「うるせえんだよ!叫ぶんじゃねえ!」 床を走る音が一つ増える。叫び声も。 「第一、俺は殴ってねえぞ!」 喚き散らすようにお父さんが言う。でもこの声は、ただ叫んでいるだけじゃないような気がする。なんか、悲痛だ。まるで、寂しさを感じている子供の声みたいな響きがする。 それに、殴ってないってのは嘘だ。お母さんはもう何回も殴られてる。それも、お腹を。なぜかはわからないけど、お父さんは決して顔を殴らない。殴るのは、決まっていつもお腹だ。 そして、僕も殴られたことがある。ビンタするみたいに顔を殴られた。まあ、僕は一回だけだけど。赤く腫れたであろう僕の頰を見た瞬間、しまった、というような顔をしたお父さんが、僕の肩を掴んでいた手を離したからだ。でも、大きな声を出したらまた殴られるだろう。だから、静かにする。布団にくるまって、静かに。そうすれば、僕は今だけ、この家の住人じゃなくなる。殴られなくて済むんだ。 また、いつものことだと思った。お母さんが殴られて、殴られて、殴られて。 でも、今日だけは違った。 いきなり、部屋のドアが開いた。 「え、、、」 聞き間違いじゃないよな。 そう思ってドアを見ると、やっぱり開いていた。確かに、聞き間違いじゃなかった。 そして、そこには涙で目を濡らしたお母さんがいた。 「もう、無理!」 そう言うと、お母さんは僕を抱きかかえ家から出て行った。お父さんがお母さんの背中の後ろで何か叫んでいるのが聞こえるけど、怖くて、僕は見れなかった。 ◆ ◆ ◆ そこからは早かった。俺はお母さんの手で大事に、かどうかはわからないが、高校へは今現在行かせてもらっている。中卒で働け、なんて言われなくて良かった。 でも、母の俺を見る目は変わった。まるで、汚物を見るみたいに。まあ、それも当然か。あの男の血が通っているんだから。 そして俺は、素の自分を隠した。殻に閉じこもったんだ。そっちの方が楽だから。本当の自分を出しても母は喜ばないが、母に素直な、偽りの自分を出せば、母は喜ぶんだから。 だから俺は、殻にこもったんだ。

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