第百七十二話 ファライディのこと

 「そこに封印があるのか?」  「ああ……私の部下が探し当てた。フフフ、まだここに戻ってきていない仲間がいるのだ……そいつらが私の異変に気づけば帰ってくる……」  俺達は朝食後、ギルドラへの尋問を行っていた。封印の場所についてアニスに話していたので、場所の特定のため呼び出した。  「結構あっさり吐いたよね。世界の破滅とか言いながら命は惜しいんだ?」  と、ルルカがやれやれと肩を竦めるが、その言葉にギルドラが激昂する。  「当たり前だろうが!? 瀕死に近いダメージを受けた後、完全回復。それを何度の繰り返しているのだぞ貴様等!?」  「これくらいやらないと罰にならないからな。アニスを騙していた罪は重い」  「ぐ……くそ……まあいい、封印を解くつもりなら私は構わん。復活したエアモルベーゼ様に屈するがいいわ……」  「……」  そのままギルドラは牢へ戻し、隅っこに寝転がった。こいつらは何も知らないようだが、フェイクかもしれない。まだ仲間が封印の場所にいるなら要注意か。  「とりあえず封印のある場所へ行きませんか? ギルドラが捕まったことを知ったら他の仲間が何をしでかすかわかりませんし」  「そうだな。後はファライディの様子も見ておかないと」  俺達は部屋に戻り、支度をする。すぐに出発をしようと思ったが――  「うぉぉぉーい!? 俺の活躍は!?」  ――というわけで、出発前に、置手紙を読んだらしい冒険者の一団が城へと参上し、開口一番、すごくがっかりした顔で顎をがくーんと下げたのはシャッテン村の宿にいたワイルドなウサギ耳の兄ちゃんだった。そういえば、戦いになったら呼んでくれとか言っていたな。  「悪い、急ぎで全滅させた」  「急ぎで片付けられるのかよ!? ……まあ、終わったんならいいけどよ……で、魔王様は?」  「城にはいないみたいだ。とりあえず、兵士たちと冒険者を使って総出で探すらしい」  「そうか。なら俺も手を上げてみるかな、ありがとよ、違う土地の魔王様」  ウサ耳男はウインクして去っていく。顔はかっこいいのにウサ耳で威厳が半分以下だと思った。入れ違いにミリティアさんがやってくる。  「カケル様、ウェスティリア様、城を解放していただきありがとうございます!」  「いえ、町の人達も無事で良かったですね!」  「ええ、あのまま幽閉されていたら衰弱死は免れなかったでしょう」  そう、町が静かだったのは雨のせいではなく城に押し込められていたからだった。城下町は決して狭くないので、牢や部屋をいっぱいに使ってぎゅうぎゅうに詰めていたのだ。城が落とされてから今まで、飲まず食わずを強いられていたのだ。もう少し遅かったら倒れていた者もいるくらいには衰弱していた。  「乗りかかった船だし問題ないよ。それより、ベアグラートの行方は結局分からないままだ。悪いが、俺達はアウロラの封印を解きに今から洞窟へ出向くから、そっちは任せていいか?」  「分かりました。城を奪還してもらったあげく魔王様の探索までさせては恐れ多いので、こちらはお任せを。……そちらの少年、いえ、現魔王様はどうされますか?」  「僕も封印へ向かうよ。今後のことは帰ってからドルバッグさんと話したいかな」  「畏まりました。では……」  そう言ってミリティアさんが一礼をして踵を返し歩き出す。  「見つかるといいのう。この国の者は心が立派じゃ。人間は憎かろうに、普通に接しておる」  「そうね。クロウ君のこともあるし、ベアグラートは強さ的にも六人の中じゃかなり高いわ。エアモルベーゼと戦うなら必要な人よ」  「ま、そのあたりは任せようぜ。今はファライディだ」  「久しぶりだよねファラちゃん」  師匠と芙蓉が話す中、俺は屋上へ行くためみんなを誘導する。金髪が白髪になるほどのショックを受けたイグニスタを尋問するとあっさり居場所を吐いたからだ。あいつらはこの国の掟に従って処罰を下すのだそうだ。  そして城の屋上……テラスみたいな場所で、緑のドラゴンが目を瞑っていた。  「……おい、お前ファライディだろ? 起きろ」  ペチペチと鼻の頭を叩くと、むずむずと鼻が動く。だが、起きる気配が無い。  グォォォォ……  「くそ、起きん!」  べちこん! と、もう一度力強く鼻を叩くがぶるりと身を震わせただけでいびきを再開する。  「うーん。疲れてるのかな? この前町を襲ったばかりだしね」  ルルカが鼻の頭をそっとなでると、カッ! と、目を見開き、叫びだす!  【ガオォォォン!(今、女の子の匂いがしたっ!)】  こいつは……  だが、洗脳は解けているようだな。俺は鼻の頭に乗って挨拶をする。  「よう、久しぶりだな。目が覚めたか?」  【ガルォン!?(旦那!? 旅に出たんじゃなかったんですかい? 戻ってきてくれたなら嬉しいや! 空の散歩でもどうですかい?)】  中々嬉しいことを言ってくれるファライディだが、事態を把握しては居なさそうなので、ここまでの経緯を語ると、ずーんと目に見えて落ち込んだ。  【ガウ……(あっしがイグニスタの野郎にいいように使われた……それに町を襲うなんて……もう死ぬしか……)】  「いや、お前が悪いわけじゃないし、そこまで深刻にならんでも……」  俺がそう言い、チャーさんがぴょんと寝そべっているファライディに乗り話し出す。  「竜よ、死ぬのは簡単だが、どうせならカケル殿達の力になぬか? かくいう吾輩もご主人の仇を取って、いや、一撃でも食らわせられれば死ぬつもりだったが、助けられたのだ。ご主人の遺言もあるが、吾輩は彼等のために命を使うと誓ったのだよ」  【ガウ……(猫……)】  チャーさんは動物同士、声が分かっているみたいで、普通に会話していた。するとアニスもファライディの頬を撫でながら言う。  「ドラゴンさんが何を言っているか分からないけど、チャーさんの言葉からすると死にたいとかそういうことだと思う。わたしも色々嫌になったし、おじさんのために死ぬつもりだったけど、やめることにしたの。おじさんの嘘が分かったのもあるけど……みんな優しいから」  「アニスちゃん……」  そんな泣かせるようなことを言うアニスを、ルルカがぎゅっとアニスを抱きしめていた。それを聞いたファライディがふんすと鼻息を荒くする。  【ガオ……ガオォォン! (うおおおん! お嬢ちゃんと猫に何があったのかわかんねぇけど、みんな苦労してるんだなあ……よし、あっしも腐っちゃいられねぇや! カケルの兄貴、あっしも一緒に行くぜ!)】  「なんて言ってるんだ?」  「うん、まあ単純なやつだなと思うかもしれないが……一緒に行くってさ」  「それはいいな。頼もしい限りだ! でも、戻らなくて大丈夫なのか?」  リファが首を傾げて誰にともなく呟くと、芙蓉が口を開く。  「エリアランドのドラゴンは外の国に出さない決まりがあるんだけどね。今回は操られていたし、不可抗力ってことで! 後、国王に突っ込まれたら『監督不行き届きです』って、光の勇者と回復の魔王からから言えばだいじょうVよ♪」  「い、いいのか?」  かなり古臭い言い回しは無視し、クロウが困惑しているが、ファライディの足の速さを考えるとこれはラッキーだろう。  「本人がいいって言ってんだ、一緒に行こうぜ。知らない仲じゃないしな」  【ガオォォ!(流石は旦那! 話しが早い! そしていつの間にかこんなに女の子を……うひひ、早く背中に乗せたいっすわ)】  「こいつは……ま、いいか。それじゃ早速で悪いが。アウロラの封印がある洞窟までひとっ走り頼む」  【ガオウ!(お安いご用でさ! ささ、乗って乗って……)】  ファライディは女の子達が背中に乗りやすいよう体を縮めて尻尾を振る。  「やけに親切なドラゴンじゃのう……」  「あまり調子に乗ると、しっぽ切るからね♪」  「久しぶりだな、また頼むぞ」  それぞれが挨拶しながら乗り込み、最後に俺が乗る。手綱もついたままなので、特に違和感なく乗れそうだ。  「それじゃ、出発ー!」  「おー!」  【ガウ!】  俺達はギルドラから聞いた洞窟へと向かうのだった。

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