ガールズトーク

 ひと笑いして、クラブハウスで現役の将校殿たち(少佐と大尉はリーコン経験者だった)と最近の歩兵戦術についてああでもないこうでもないと話をしていると、キルハウスでストレス発散してた女たちがどやどやと戻ってきた。 「ゴッドスピード、聞いたよ」 「ゴッさんマジでのんびりぶよぶよしすぎだって」  埃も払わないうちから声をかけてきたのはマークワン=ニコラスの奥さん、赤髪ショートヘアのサーシャ元海兵隊曹長。  それにヘルシング=マイケルの奥さんで、プラチナブロンドをピッグテイルに垂らしたケイティ元海兵隊伍長だ。 「ほんとにどんだけ待たせてたんだよ」 「ファーストエイドは鬼神の早さだったのにね」  サーシャはいわゆる美人とは言い難いが、笑顔が実に可愛くて魅力的なヒト女性だ。現役のころからムキムキマッチョだったが、育ち盛りの子供を4人も育てているだけあって、筋肉の量にいささかの衰えもない。  とはいえ年のせいか多少脂も増えたようだ。  マークワンとはお似合いの夫婦。  笑顔が素敵なのはケイティ元伍長も一緒だ。  オークにしては柔らかい印象の面立ちと、全体的にプリプリした体つきで、アフガニスタンにいたころの俺たち|海兵隊歩兵《クレヨンイーター》たちの人気は高かった。CIA職員を経て今は主婦が主な職業。  こっちは現役当時から絞れる部分はさらに絞っているようだ。モデルかアクション俳優みたいにも見えるがさもありなん、副業でモデルもやっている。それでもう一つの副業はCIAのスパイってんだから、属性盛過ぎにもほどがある。  つまるところが二人とも、「ある意味で」種族差別主義者でないものたちからすると、あー、編集さん、なんていったらセクハラじゃなくなるのかな? 普通に「魅力的な」? ううーん、それだと細かいニュアンスが伝わらないなぁ。  まぁいいや。  とにかくそんな感じだったから、カウンターで弾を物色していた少尉候補生(片方はオークで、もう片方は白エルフ)たちが、ちらちらと彼女たちを盗み見ていたってわけ。  当然二人ともそれに気づいて、ケイティなんかは挑発的な視線を送ろうとするんだけど、ヘルシングがケイティの傍に立ってそれを遮った。ちょっと怖い顔。  いやはや妬けちゃうね、とか思いながら、彼女たちの後ろに立つ俺の相棒に目を向けた。  砂まみれの汗まみれ、薄汚れた格好で硝煙の匂いをぷんぷんさせていたが、良い運動をしてすっきりしたその表情は輝かんばかり。  こんな美人が他にいるもんか。心底、マジで、神に誓って。  いやもちろん、ほかの女性にケチを付けるつもりはないけれど。アーメン。    なんて思いながらぼんやり彼女を見ていると、目があった。  目があった拍子にレイザーは急に怒ったような顔になって、「シャワー浴びてくる」と言い残して立ち去った。  俺があっけにとられていると、マークワンの膝の上にでっかい尻を落ち着けたサーシャがニヤつきながら俺をつっついた。 「ごらんよ、あの子もずいぶん女の子らしくなっちゃって」  俺がキョトンとするとケイティが俺の首に腕を回して、エッチな感じに囁いた。 「汚れてるのが恥ずかしくなったのよ。キルハウス回ってるときにエリーが言ってたよ。何もかも終わったら、やっと自分の何もかもが好きになれるんだって。婚約おめでとう、|ゴッドスピード《神の恩寵あれ》!」 ◇  そのあと一回り、元リーコンの将校たちと一緒に少尉候補生の射撃練習に付き合い、閉店作業を手伝った。  帰宅していく従業員たちを見送り、道路を挟んで向かい側のマークワンの家に向かって、俺たちはぞろぞろと連れ立って歩く。  道すがら明日は暇かと聞かれ、特に予定はないと答えた。  マークワン曰く、軍大学の将校連中や基礎学校の教官連中が明日半日、市街地突入~建物制圧までの戦術研究をしに来るそうで、その|仮想敵《アグレッサー》をしてほしいのだとか。  もちろん否応はない。  それに将校士官や教官連中と繋がりを作っておくのも、海兵隊での将来を考えれば、やっておいて損はない。  レイザーを見やるとコイツ、舌なめずりしてやがる。グールの次におエライさんが嫌いだもの、将校たちをこてんぱんにできる機会を逃すようなタマじゃない。レイザーがなついている将校は、中佐殿とスパイディ、アイスマンぐらいのものだ。  夕食の準備が整うまで、俺はマークワンの息子のエリックに遊んでもらった。彼は俺のBMXの先生だ。まだ十一歳だが実に巧みに自転車を操る。才能の塊で、東海岸エックス・ゲームズの予選上位の常連だ。今シーズン中には本戦進出もできるんじゃないかと、俺とマークワンは思っていた。  でもってマークワンの家にはサーシャの母も住んでいる。仕事をしている間は、彼女とシッターさんが子供の面倒を見てくれているというわけ。たまにはケイティもそこに加わるし、今日はレイザーも加わった。  もちろん仕事が終われば、マークワンもサーシャも子供の相手や家事をする。マークワンが海兵を辞めたのも、子供の相手がしたいからだった。  やがて夕食の準備が整い、俺たちは一緒のテーブルについた。マークワンがプロテスタントのお祈りと、自分の部族のお祈りを捧げる。  それから賑やかな夕食が始まった。 ◇ 「ジョニー、そんなに待たせたの!? あたしてっきり夫婦で海兵の前線勤めできる抜け穴があるんだと思ってた!」  膝に二歳のヘレナを抱えたサーシャの母親──エリックはじめチビたちにはおばあちゃんだ──アンナさんは御年70歳を超えようかってのに、ちっともそんな年に見えなかった。せいぜい五〇歳前後ってとこ。気が若い人は外見も若いもんだ。  サーシャとはちょっとばかり顔の作りが違って、もうちょいハッキリと美人だったが、目元のあたりがよく似ている。そしてふたりとも健康さというか、生命力に溢れた雰囲気を持っている。マークワンにはお義母さんも随分魅力的に見えるに違いない。  で、海兵の制度というか内規に話を戻すと、つまりはこうだ。  海兵隊員同士で結婚した場合、通常どちらか──たいていは女性──が後方勤務になる。女性には女性にしかできない仕事があるからな。  それに後方と言っても馬鹿にはできない。  情報分析に作戦立案、指揮に通信、法務に衛生に輸送に給食に整備に訓練に。  膨大な仕事が待っている。  俺たち戦闘部隊がまともに戦えるのは、後方で忙しく働いてる兄弟姉妹たちがいてこそだ。  それに後方勤務なら基地やキャンプ内の保育所に子供を預けることだってできる。サーシャとマークワンはこれにずいぶん助けられた。  ただ、マークワンはそれに頼りすぎたかも知れない。エリックは十一歳にしてはずいぶん大人びた子に育ってしまった。エリックが父親に思う存分甘えるようになるのは、もうあと何年かしてからのことになるだろう。  話が横にそれっぱなしだが、つまるところアンナさんが言いたいのは「十年以上も付き合ってて結婚してないのも、レイザーが後方勤務してないのも、子供がいないのもおかしい」ということだ。  アンナさんや俺の母さんは良くも悪くも昔の人間だ。だからそういう事を言うんだと思った。俺とレイザーの関係は特別なものだ。それで俺は「いやそれは」と言いかけた。  逆襲は初手で頓挫した。  サーシャとケイティが戦列に加わり、お前には甲斐性が足りないだの、いまさら士官を志願するならもっと早くに挑戦しとけとか、レイザーが大事なら無理にでも後方勤務させとけだとか、おっそろしい勢いで言葉を浴びせてきた。  今なら俺も、第一次大戦の西部戦線の歩兵たちの気持ちがよくわかる。  レイザーに救援を乞う視線を送ったが、彼女は困って苦笑した。サーシャとケイティの馬力を知ってるのは、なにも旦那方だけじゃあない。  そんな様子を見てアンナさんはレイザーにも矛先を向けた。 「中身は男でゲイだって言うけど上っ面完璧に完璧な女の子じゃないの、肩肘張ってないで女の子らしい格好をしなさい、化粧ぐらいしたらどうなの」  ってなもんだ。  普通ならこんな言葉を聞いたらレイザーはむっつり黙り込むし、俺も真っ赤になって怒るところだが、相手に悪意がないからたちが悪い。  言葉に詰まった俺たちがあうあう言っていると、アンナさんは女衆と一緒にレイザーを拉致してどっかに行っちまった。ちびの嬢ちゃんたちも一緒だ。  俺がぽかんとしていると、エリックが横から俺の腕を突っついた。 「おじさん、エリザベートさんてさ、おじさんにとって男なの? 女なの?」  ここ何年も、任務のとき以外はずっと考えていたことだ。  だが答えはとっくに出ている。  そのはずだ。 「男か女かは大した問題じゃないよ。頼りになる相棒で、お互い愛し合ってる」  それを聞いたエリックは生意気にも鼻で笑った。 「確かにそれはそのとおりなんだろうけど、あと十分もしないうちに、おじさんは度肝抜かれると思うなぁ」  俺はマークワンを見た。やつは苦笑して肩をすくめてみせただけ。  それから十分そこそこで、エリックの予言は的中した。  ベッドルームから出てきたレイザーはアンナさんたちによって、完璧に完璧で完璧な超絶かわいいウルトラハイパー美人に改造されていたんだ。  普段の男臭い服装はひん剥かれて、六十年代調のカントリースタイルのワンピースにされ、化粧は控え目だが怜悧さをうまく和らげ、きつく巻き上げられていた髪は柔らかくウェーブして……イエー、つまりそんな感じだった。  そもそもが最高に可愛いのにこんなことってあるか?  俺はすごいショックを受けて気絶しちまった。

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この作品の評価

124pt

かわいい……みんなかわいい……

2019.09.05 09:36

榊亮

2

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ああ、ついにお二人が結婚! 13年もなんと一途なこと!(笑)

2019.08.16 15:37

機人レンジ

1

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