死にたい

「よっと。ここかな?」  魔女テレサはバーバを見送ると、すぐに移動した。  マティアスが指定した場所はキャクストンの双子が住む小さな家のそばの林で、木立の奥に彼らの家が見える。  テレサが辺りを見回すと、目当ての人物はすぐそばにいた。  新緑に枝を覆われているひときわ大きな楓の木の下に、マティアスは足を伸ばして座っていた。彼はぐったりと脱力しきっていて、とてもこれから真面目な話をしようとする大人の態度には見えない。 「あのう、お膝に蝶々がとまってるよ」 「……本当にいつの間にか来ているんだな」  マティアスの目にはテレサが一瞬で目の前に現れたように見えるはずなのに、彼の反応は薄く、超常の現象に諦めにも似た態度を取る始末である。さすがの魔女も、訝しげに眉をひそめた。 「もうちょっとびっくりしてほしいんだけど?」 「悪いが、そんな気分にはなれないな……」 「えー?」  不満そうに口をとがらせたテレサは、視界の端に丸まった何かを捉えた。 「あれは?」 「…………」  ユイだった。  金髪の少女は木々の間、草むらの中にうずくまり、額を地面につけて頭を抱え、小さく丸まっていた。死んだようにぴくりとも動かない彼女は隠れているようにも見えるが、背の低い草むらの中ではどうしてもその金髪が目立ってしまっていて、隠れようとしてそうしているわけではないことを表している。 「あらま」 「見ての通りさ……。あんたが魔女か? 見たところ、ユイと同い年ぐらいにしか見えないんだが……」 「あたしが魔女のテレサだよ。ちなみに、あの子は栄養失調だったらしいから、多分、あたしよりも年下の身体だね」 「初対面のはずだろう? なぜそんなことを知っている……」 「それはおいおいね。それよりも、なんでこんなことになってるの?」 「む……」 「む?」  魔女の言葉に、マティアスは下唇を噛んだ。 「全てを誰かのせいにしてしまえるなら、それほど楽なことはない。だが現実はそうはいかない。邪悪さは打ち消さなければならない……」  自分に言い聞かせるような声音だった。 「二人の宿命とは、どうしてあれほどまで残酷でなくてはならない?」 「あたし、そのことは全然知らないよ。そこの丸まってるのとウィリアムくんの間の秘密は知ってるけど、双子に何があったかはまったく知らない」 「おれはその逆だ。アンネとウィリアムのことならば納得がゆく。しかし、あの子は? おれは、アンネのあのような……、アンネがあの子とウィルをひどく罵るような姿など見たくなかった……」 「ふうむ」  魔女は顎に手を当てて、憔悴しきったマティアスの顔つきを見た。  確かにバーバの言うとおり、短期間でこけた頬と目の下の隈が目立っている。 「確かにおじさんの言うとおりだね」 「おじさん? バーバのことか……。会ったのか?」 「おっと、これ以上は言えないよ。元気なおじさんに内緒にしろ、さもなくばぶっ殺すぞガキめ、って言われてるからね」 「そうか……ならいいんだ」  幾分か表情は和らいだが、沈痛な面持ちは解けそうにない。  テレサは、マティアスの隣に腰掛けた。 「情報交換といきましょ?」  視線の先には、額を地面に押しつけている少女の姿がある。  少女はぴくりとも動かず、アリの触角は彼女を物言わぬ石だと認識した。蚊も自らが生物の身体に着地しているものとは気づいておらず、冷たい皮膚の上で羽を休めている。カマキリはアリが大きな岩を登っているのに苦心している様子を見て、自らの進路を迂回するものに切り替えた。  少女はそこに、物言わぬ塊として認識されている。  あるいは、目に留まらない認知されないものとして認知されていた。

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