Slayer of Invisible-光る骨の剣- | 第6章 オーラス着
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オーラスへ

「そろそろ、休息は終わりにしよう。行くぞ。エルゾッコ」    ミコシエは、魔狼の子を連れ単身、暗渠を歩いていた。  龍を倒すべく墓所へ向かったときの暗渠とは、また違う暗渠である。  この砂漠には、暗渠が点在する。  ここはすでに、オーラス地方に近い付近の砂漠だ。    メンバーが揃ったところで一行はテイーテイルを発ち、中継地点であるオアシスを過ぎ、そこから砂漠を越えるまで、あと二日の船旅だった。  その一日目の晩に立ち寄った砂漠の小港で、ミコシエはホリル達と別れたのだ。    小港の宿での、夜……   「えっ。本当ですか。何故、ここからはお一人で……」 「そんなあ。ここでもう、お別れなの? いやだよ……」    勿論、ホリルやクーは引き止めた。   「何故なら、ここからオーラス付近まで通じる暗渠があると聞いたのでな」   「ほ、ほんとに暗渠がお好きなんですね……ミコシエさま、でもここでお別れなんて、いやだよ?」   「いや。少しだけ、一人でいたいだけなのだ。無論オーラスへは私も寄る。ここからならば、歩いてもオーラスまで一日半かそこらと聞いた。  船なら、明日の午前中に経って、昼過ぎに着くだろう。私は、夜が明ける前に歩いて、明後日の昼前後か夕刻くらいまでに、着くつもりだ。勇者の儀式も、ホリルが着いてすぐに始まるわけではなかろう? 私もその晴れ舞台は見れるように着くつもりだ」   「あ、はい。おそらく、細かい日取りを決めて、待機期間があるはずです。その間は、町一帯がお祭みたいな騒ぎになると」   盛大な前夜祭もあるらしいです、とホリルは付け加えて言った。   「はは。お祭騒ぎはそりゃ、かなわんな。ではゆっくり歩いて、少しでもぎりぎりに着かないと」   「ミコシエさんは、お祭はお嫌いなのです?」   「ああ。騒がしいのはどうもだめでな」   「ただでさえ迷ってしまいますよ、ミコシエさまは。そのままテイーテイルまで歩いて逆戻りしちゃったらどうするんですか?」   「大丈夫だ。オアシスで近辺の地図と、方位磁石を買っておいた。オアシス露天商のお墨付きだとさ」   「そんなもの、きっとあてにならないわ」   「……わかりました」   「ホリル!」   「当然、ぼくたちはミコシエさんを引き止める権利はない。クー、少し仲良くしてもらったからって、勘違いしてはいけない。ミコシエさんは、自らの使命を持った聖騎士なのだ」   「ミコシエさまの、使命って……」    沈黙が訪れる。    ヨッド、シシメシは隣のテーブルで、静かに飲んでいる。    ここには、ハガル、レーネの姿もなかった。    時間はまた少し遡り、テイーテイルで、ハガルとレーネが薬草を採って戻ってきた 日のこと。   「あ、ありがとうございます! 何とお礼を言えばいいか……早速、医者のところに薬草を届けてきます」    ホリルらは、仲間シシメシのところに走り、数日ぶりに再会したミコシエとレーネ、ハガルはその間、街の食事所に入り少しくつろぐことにした。  便が再開され、街は本来の人の行き来に戻っている。  それでも元々人の往来の盛んな土地で、オーラスでの勇者の儀式とそれに伴うお祭騒ぎに参加しようという人々が砂漠を越えようと多く訪れていた。  ミコシエは墓所で龍に会ったことを、ハガルらは薬草を採ってきた経緯を、それぞれ話し合った。   「とにかく、レーネ。ハガル。よく無事に戻ってきてくれた」 「でな……ミコシエ。話はもう一つあるんだ」 「何だ?」 「実は……」    豪快なハガルには珍しく、少々もったいぶって話しにくそうに、ハガルはまたエルゾ峠の麓の村へ戻る、と言う。   「そうなのか。一度戻ったら、恋しくなってしまったか。オーラスには行かんのか。いや、止めはせんが……レーネなら、私がオーラスまで送り届けるので」   「ミコシエ。実はね」  そこでレーネが切り出す。   「私、オーラスへは行かない決意をしたの。私……」    ミコシエは思わず、レーネを見る。   「私、どうやら身篭っているらしい、の」    レーネはそう、告げた。  麓の村で一度具合が悪くなり診てもらった。  村の医者がこれはどうも……と言い、産婆を呼んできたところ、産婆が間違いないと判断したのだそうだ。  ミコシエは、言葉も出ずにいたが、はっと思い、ハガルの方を見る。   「いやいや、俺じゃねえ。わかるだろ。俺が種付けたとしても、今の妊娠状態からじゃ、計算が合わないんだ。俺は俺で」  ハガルはそう言い、ミコシエを問い詰めるように見る。   「む?」   「おまえだ、とばかり、てっきり、そう思ったよ。最初、おまえ達はできているのかと思っていたくらいだからな」    ミコシエは一瞬、ユミテ国での一件が頭によぎった。  あれは、幻だったのか。  いずれにしてもあのときは上手くいっていない。   「だが、レーネに聞いたよ」  ハガルは、エルゾ峠の山小屋でのこと……と言いそこで言葉を切る。  ミコシエも、思い出す。  レーネと最初に会ったときのことだ。    あの、モヒ。    ミコシエは、峠での一夜を思い出し、レーネにかける言葉をなくした。   「俺が、麓の村の前で殺っちまったやつらの中の、一人だったんだな」   「仕方ないさ」  とだけミコシエは言い、少しの間沈黙が続いた。    それからレーネは、産むつもり……と小さく、しっかりと言った。  産婆からは、望まぬ命であれば消すこともできると言われたが、レーネはすでに育っている命を消すことはできないから……と断ったとのことだ。   「すでに育っている命だから」  レーネはそう、明るい笑顔で言った。  これからは、勇者の未亡人という自分は捨てて、第二の人生を生きる、と。   「私も、エルゾ峠にもう一度戻る。そこで、暮らすつもり」  ハガルが、レーネを、それに身篭っているその子も、引き取るのだと言った。  麓の村で一緒に暮らして行くよ、と。    ミコシエはもう、何も言わなかった。   「ミコシエ……ありがとう、これまで。私はもう、オーラスへは行けない。でも、それでいいと思っている」    あなたは? ミコシエ、とレーネは聞く。   「私は、気侭な旅だ。このまま、オーラスへ行こう」   「勝手ついでにお願いできれば、あの人の最後をあなたが見てきて」      そうしてテイーテイルでレーネ、ハガルと別れ、オーラスの前でホリル一行とも別れ、ミコシエは一人、彼なりの複雑な心境を抱えて、暗渠を一人歩いた。    暗渠を歩くと、その静けさに心が落ち着き、しかし、暗渠に落ちる影がミコシエの心をいっそう暗い方へ導くようにも思われ、一人で来たことを幾許か後悔してしまう気持ちがないわけでもなかった。    オーラスに近くなると、暗渠の壁に穴が見られるようになって、不思議と、このような暗渠で茶店や、ほんの屋台ほどの小店が営まれているのだった。  テイーテイル側と違い、この付近の暗渠は、ごく少ないが人通りがあり、旅人の通路として機能しているらしい。  ミコシエがそんな茶店の一つに入り、くつろぎ、また、物思いに耽っていると、旅の一行が入ってくる。  驚いたことに、見ればそれはホリルの一行であった。  ミコシエは一瞬まさか、と思い、何故ホリル達がここにいるのか少し戸惑っていると、 「あ。ミコシエさんだ」 「こんにちはー。元気でやってますかぁ?」  と口々に、隣のテーブルに着く。  ヨッド、シシメシらはミコシエを気に留めるでもなく早速品書きを見て注文をしている。  クーは、にこやかに笑っている。  ミコシエが尚、怪訝な顔をしていると、ホリルが口を開き、 「一応ですね、軽く説明しますと、僕らも僕らで、ここからは徒歩でオーラスまで行くことにしただけなんです。ま、何せ一日程度の違いですし、どうせあちらは、ぼくらが着かない限りは日取りも決められないんです」   「ミコシエさまに付いてきたわけじゃないからね。船旅にも飽きちゃったし、あたし達も、ちょっと歩きたくなった、ってだけ」    ヨッドは、船で行けばいいものをわざわざ……とぶつぶつ呟き、シシメシは腹減ったでござる、とパフェを三つも注文している。   「まさか、こんなとこでミコシエさまと偶然居合わせるなんてね。やっぱり、ご縁があるのかも」  「僕らは僕らで、行きますから。お気になさらず、ミコシエさんも旅を続けてくださいな」    ホリルらは、にこやかにそう言った。    ミコシエは、しばらくあっけに取られたが、微笑し、 「好きに行けばいいさ」  と呟き、それを聞いてホリル達も笑った。    その後も、立ち寄った宿や休息所で、ホリル一行とミコシエは鉢合わせた。  暗渠には幾つかのそうした場所があったものの限られているため、必然的に泊まる宿などは一緒になることになったわけだが。  その度、軽く会釈を交わしたり、言葉をかけてくれたが、食事を相席することまではしなかった。    宿の夜、通路で一度クーと顔を合わせたとき、 「ミコシエさま。元気を出して?」  とクーは声をかけてくれた。    ミコシエは「ああ、大丈夫さ」とだけ答えた。    やがて、暗渠は、オーラスの方角への一本道になる。その空の果てに、幾つかの建物の尖塔が見える。  オーラスは、城塔や寺院が立ち並ぶ巨大商業都市だ。    間もなく、オーラスに到着する。

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