第百六十話 白黒の女の子

   ――ローブは黒いのに髪の毛は白。瞳はブルーとミスマッチな容姿をした女の子が雨の中立っていた。よく見ればローブも手も顔も泥だらけだな……。  俺達の馬車が近づくと、音で気付き、こちらを振り向いた。するとチャーさんが    「ご主人では……ない……」  「う……!」  チャーさんがクロウの肩でがっくりしているが、致し方ないだろう。それにしても遺体がどこにもないのが気になる。後、クロウの様子も変だ。  「君はこの村の生き残りか?」  俺が声をかけると、女の子はゆっくりと首を振る。  「違う」  「それじゃ、どうしてこんなところ……雨が強くなってきましたね。どこかお家を借りて雨宿りしましょう」  ティリアがそう言うと、チャーさんがクロウから降りて尻尾を振りながら言う。  「そうだな。吾輩のご主人の家に案内しよう。こっちだ」  「あ、猫」  「ま、待ってよ!」  女の子がチャーさんを追いかけはじめ、クロウが慌てて女の子とチャーさんに追従していく形になった。俺達も馬車を屋根のある場所へ移動させ、馬をから繋いで家へと入った。  「フー!」  ぷるぷるぷる  「うわ……びしょ濡れだ。君、大丈夫? はい、タオル」  「ありがと」  感情の起伏が薄い子だな。歳はクロウと同じか少し下かな? クロウがタオルを女の子に渡しているのを横目で見ながらそんなことを考えつつ、ランタンに火を入れる。  「これは下着までぐしょりだな……隣の部屋で一旦脱いで乾かそう。服はお嬢様のを貸してください」  リファが女の子の髪の毛を拭きながら言うと、ティリアが声を荒げる。  「そ、それは私が小さいと言いたいのですか!」  「あながち間違ってないよね? ほら、風邪ひいちゃうから行きましょ、お嬢様と……えーっと、名前は……?」  「え!?」  「……アニス。猫は?」  「アニスだな。チャーさんは後だ、まずは着替えるぞ」  ルルカが「はいはい、行きますよ」とみんなを引き連れて隣の部屋へと入っていく。残された俺と師匠、レヴナントが扉を見ながら声をかけあう。  「……どう思う?」  「城の乗っ取り話の後で、黒いローブ……間違いなくヘルーガ教徒じゃろうな」  「そうだね。メリーヌ女史の意見に賛成だ。問題は、こんなところで何をしていたか、ということだけど」  「ぼー」  「クロウ? どうしたんだ」  アニスが入って行った扉を見ながら、クロウがそっちを見ながら、文字通りぼーっとしていた。  「あの子……アニスって名前なのか……」  「……お前、ああいう子が好みなのか?」  「ハッ!? な、なにを言いだんすだカケルは!?」  「『言いだすんだ』だろうが。動揺し過ぎだぞ? 一目ぼれとは、つい昨日こんな話をしていたばかりなのになあ……」    俺がにやにやとクロウの頭をタオルでぐしゃぐしゃしていると、顔を赤くして呻いていた。  「う……!? い、いいだろ別に……」  「ふぉっふぉ、男の子は素直な方がいいぞ。と、着替えたようじゃな」    ガチャ、と隣の部屋の扉が開き、四人が戻ってきた。  「へえ、クロウ君はお目が高いね」  レヴナントが言うのももっともで、髪が白いが、肌も白い。泥がついていた顔もきれいになり、どこかのお嬢様みたいになっていた。  「くっ……私の下着から服まで全て入るなんて……」  がっくりと肩を落とすティリア。まあティリアは小さいから仕方ない。見たところティリアと頭半分くらいしか変わらないし。  「ありがとう。猫、かわいい」  「む、吾輩は濡れているから手が気持ち悪くなるぞ」  感情のない声で礼を言うと、チャーさんを構いだす。  「髪の毛を二つ結びにしてあげたよ! かわいいでしょ? ……クロウ君?」  ニヤリとルルカが意地の悪い顔でクロウを見ると、クロウは口をへの字にしてそっぽを向いた。苦笑しながらルルカがアニスへ質問を  「あらら、意地になっちゃった。それはそれとして、アニスはここで何をしていたのかな?」  するとチャーさんを撫でながら、アニスは俺達を見上げながらポツリと呟く。  「ここの人達を埋めていたの。みんな死んでいたから」  「……死んでいた中に、三つ編みをした赤毛の女性はいただろうか」  「うん、いた。大きな木の根元で眠りたいって言うからそこに埋めてきた」  「そうか……」  「うん。羨ましい」  やはりこの村は全滅させられていたようだ。だが、最後に呟いた一言をクロウは聞き逃さなかった。  「羨ましいってどういうことだよ。みんな死んでいるのに……」  「わたしは早く死にたいから。だからここの人達は羨ましい」  アニスはクロウに面と向かって答えると、クロウは顔を逸らして椅子に腰かける。  「……どうして、死にたいんだ? まだ僕と同じくらいの歳だろ?」  「(さりげなく歳を聞いているぞ)」  「(やるね。どこかのカケルさんにも見習ってほしいね)」  ぶすっとしてクロウが尋ねると、リファとルルカがひそひそと聞こえるように話していた。  「聞こえているぞ!? ……事情は分からないが、死にたいなんて言うもんじゃない」  「ううん。わたしは気持ち悪いんだって。ほら髪も白いし、肌もこんなに。普通じゃないってお母さんに捨てられたの」  「なんと……」  師匠が呻く。  「なあ、レヴナント。目が青いから違うかもしれないが、もしかして『アルビノ』みたいな感じか?」  「そうだね。白い髪の人間は見たことが無いかな、青い目は居ない訳でもないけど、珍しいよ」  「そうか……これで確信した。ルルカは『アルビノ』という言葉を知っているか?」  「え!? ううん、ボクは初めて聞いたけど」  「……っ!?」  レヴナントがしまった、という顔をする。今まで疑惑はあったが確証はなかった。だが、これで間違いない。賢者でも知らないことはあるだろうがレヴナントが『珍しい』というのに、ルルカは『まったく知らない』となると結論は一つだと思う。  「まあ、今はその件は置いておこう。で、アニスは捨てられたあとヘルーガ教に拾われた、か?」  すると目を見開いてアニスはコクコクと頷く。なんというか小動物みたいな感じだな。  「そう。わたしはこの白い髪と肌、それと死んだ人の魂を見ることができるの。ギルドラおじさんが『神の巫女』だって言って連れてきたわ。ここの女神の封印を解くのにわたしの命が必要なんだって。わたしは死ぬし、ギルドラおじさんは封印が解けて一石二鳥」  いえーい、と無表情でピースをするアニス。だんだんこの子が分からなくなってきたが、クロウが激怒したことでさらにアニスの秘密が分かった。  「なんでそんなに能天気に言えるんだよ! 死ぬんだよ? もう話したりすることもできなくなるんだぞ!」  「怒ってる……ええっと」  「僕はクロウだ!」  「うん。ありがとう。怒ってくれるのは分かるよ。でも、わたしはどうしていいかわからないの。悲しいとか、嬉しいとか、そういうのがわからないの。お母さんが言ってたよ『何を考えているかわからないって』」  「感情が無いのか? ……どうだ」  「痛ひ」  俺がほっぺをにゅーっとひっぱると、ぺしぺしと俺の手を叩くが、表情は変わらなかった。  「泣いたことは?」  「目から水がでること? ないわ」  この様子だと。恐らく怒ったこともないのだろう。もっと小さいころに何かあったか?  「ま、アニスに関してはもういいだろう。それより聞きたい、ヘルーガ教は城に何人いるんだ? 俺達は城にいるやつらを倒しに来た。そうだな、お前は人質にしよう」  「そうなの? わかった。わたし人質。あ、でもギルドラおじさんに黙って出て来たから帰らなかったら怒られるかも」  「それで何人くらいいるのじゃ?」  「んー、ヘルーガ教のみんなは全部で20人くらいかな。鎧を着た人が8人くらい」  「それくらいならこのメンバーでいけそうな気がする。ただ、俺達がアニスを人質にするのと同様に、向こうも獣人を人質にする可能性が高い。できればボスをぶっ倒してやるのがいいな」  「なら作戦を考えないといけないね。幸いこっちは少人数だ――」  と、レヴナントが俺達を集めて話を始めた時、アニスがふてくされているクロウに話しかけていた。  「まだ怒ってる?」  「……当たり前だ。僕はデヴァイン教徒だぞ、自分から死にたいなんて言うやつは腹が立つ。僕は孤児だったけど必死で生きてきた。だから簡単に死ぬなんて言って欲しくないね」  「ごめんね。わたし、生きていても楽しいとかよくわからないし……デヴァイン教って人を助けるんだよね。クロウ君は誰かを助けたことあるの?」  そう言われて、クロウはビクッと身を震わせる。  「……いいや……それどころか、人を殺したよ……」  「そうなんだ。ごめんね、嫌なこと聞いて」  しばらく無言でいたが、やがてクロウが口を開く。  「……アニスは……アニスは本当に死にたいのかい?」  「うん」  「なら僕が……僕が死んでほしくないって言ったら聞いてくれるかい」  クロウがアニスの目を見ながらぶっきらぼうに言い放つと、少し考えてからアニスは口を開いた。  「クロウ君がそう願うなら、考えてもいい」  「! ……そうか」  「うん。でもやっぱり死んだ方がいいと思った時は……クロウ君が殺してくれる?」  「!?」  決して表情を変えないアニス。クロウは何を思って言ったのだろうか。そして何を感じてアニスは答えたのだろう?  人を殺してしまった罪を持つクロウと、死にたいと願うアニス。初対面とは思えないやりとりの中、二人は邂逅するのだった。

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