5.進出

「放送開始と同時に飛び出す」曹長が正面玄関へ移動しながら、「〝エコー〟と〝フォックストロット〟、それぞれSWATのティーグルを1台づつ拝借して突入する」 「4人で突撃ですか」冗談めかして〝フォックストロット1〟。  曹長が背後へ眼を投げる――ゲリラになりすました部下と自分、合わせて2班4名。 「ティーグルに乗せられるのはそれぞれ8名。バックアップも考え合わせりゃ、どこをどうしたって2輌要る」 「運転とバックアップを考えたら、」苦く呈して〝ゴルフ1〟。「ろくに弾幕も張れませんよ?」 「そこは〝ゴルフ〟と〝ホテル〟に任せる」曹長に苦笑一つ、「突っ切りながら一人二人が撃ち散らしたところで焼け石に水にしかならん。なら、狙撃で警察の頭を押さえた方が得ってもんだ」 「RPGは?」〝ゴルフ1〟。 「まだ残弾はあったはずだ」曹長が指鉄砲を天井へ。「使え。タイミングは作戦開始と同時に1発、後は任せる――ただし」 「『ただし』?」〝ゴルフ1〟が首を傾げた。 「現地警察に死人を出すな」曹長が釘を刺し、「逆上されるとかえって面倒なことになる」 「回線は?」〝フォックストロット1〟が問う。 「放送開始と同時にオープン、」曹長がゲリラの通信端末をかざし、「ただしゲリラの通信を装え」 「第1分隊への接触は?」こちらは〝エコー2〟。「放送と回線、双方で呼びかける」曹長の手にまた通信端末、ただしこちらは味方のもの。「撃ち込まれちゃかなわんからな、手は尽くす――他に質問は?」  沈黙。 「よし!」曹長が両の掌を打ち合わせ、「猶予はない。1分で配置に就け。突入用意!!」 『配置に就いた』曹長の声が女に伝わる。『そっちの用意は?』 「用意も何も、」女に呆れ声。「要するにアドリブじゃないですか」 『出たとこ勝負はお互い様だ』曹長の声は動じない。『それどころか、こっちはこれから硝煙弾雨を突っ切るんでね、励ましの一つももらいたいところだ』 「帰ったら殊勲章の推薦を出しますよ」 『花より団子だ』曹長が突き返す。『女日照りの野郎どもに酒でも奢ってやってくれ』 「私が!?」 『そうそう、』曹長の声が軽くなった。『たまに崩れるところがいい』 「それって口説いてます?」女が口を尖らせた。 『否定はしないさ』曹長に素知らぬ声。『場所はわきまえるがね』 「セクハラ案件で訴えますよ」 『生きて帰ってのお楽しみだな』曹長の声が苦笑を含む。『緊張はほぐれたか?』 「……どこで見てたんです?」 『これも人生経験だ』曹長に余裕の一声。『そのうちあんたにも解る』 「それはどうも」 『〝ゴルフ1〟、用意よし』 『さて時間だ』曹長が一言、『これより回線オープン、放送開始と同時にぶち上げろ!』 『こちら〝エマノン独立評議会〟』マスク越しに女がカメラへ声。『〝ENB放送〟マルガナ支局から声明を発する』 「よし、」曹長から号令。「作戦開始!」 『〝ゴルフ〟了解』すかさず応答。『カウント3!』 『我々はここに宣言する』カメラを正面から見据えて女。 『3!』 『放送局内の介入勢力は制圧した』 『2!』 『これより我々は、』 『1!』 『介入勢力の〝回収〟に移る』 『ゼロ!!』  号令一下、正面玄関から躍り出た。視界の端、屋上からのロケット弾が曳いて光の尾――着弾。爆炎。闇に穴。  輸送車ティーグル、その鼻先が残像に眩む。 「行け! 行け! 行け!!」無線に叫びながら曹長が駆ける。  掩護は屋上の〝ゴルフ〟と〝フォックストロット〟に丸投げ、ひたすらインパクトに任せての力押し。目指すは正門――の前で止まったティーグル2輌。 『エマノン暫定政府は、』放送に女の声が続く。『対立する勢力を片っ端から弾圧している。そう、』  地面に伏せたSWAT隊員には眼もくれず、曹長はこちらに尻を向けた1輌、その運転席へと飛び込んだ。  続いて助手席に頭目、後方の乗員席に〝エコー2〟。 『例えるなら――』そこで女が間を一つ、『――〝野良犬〟を駆除でもするかのように』 「行くぞ!」  曹長がエンジンに火を入れた。直列6気筒、排気量5.9リッターのディーゼル・ターボ・エンジンに再び息吹――と。  包囲網から思い出したように銃火。曳光弾が視界を間近にかすめ飛ぶ。  ギアを1段へ。サイド・ブレーキ解除。アクセルを開け――エンジンに咆哮。  猛然、〝エコー〟を乗せたティーグルが加速する。 『この蛮行を看過することは、』女の声がトーンを上げた。『即ち暴政に膝を折るにも等しい』  後方、横腹を晒していた〝フォックストロット〟のティーグルも生き返る。加速――からのスピン・ターン、鼻先を第1分隊へ向け直して加速。  銃火が閃く。包囲網。押し寄せる。曳光弾、その緑。 『然るに、』女が肩をすくめる、その音。『国連の態度はどうか?』  狙点の全てを振り払って加速、ティーグルは弾道を置き去りに駆け抜ける。  着弾――がいくつか。装甲が短く悲鳴を上げる。 『曹長!』〝エコー2〟から回線越しに声。『牽制を!!』 「構うな!」ハンドルを握る曹長は斬って捨てた。「それより頭下げろ!!」 『平和維持など』女の声が低く――しかし大きく。『名目ばかり』  ティーグルの頭上を追い越してロケット弾、2発目――包囲網の寸前、地に火柱。  怯えたような――間。曹長がギアを掻き上げた。さらに加速。 『その実は、』怒りの色が女に兆す。『暫定政府の後ろ盾、その機嫌を窺うだけではないか!』  包囲網、パトカーの群れ成すバリケード。視界に迫り――、  突き飛ばす。打ち弾く。総質量7.2トンを乗せた突撃を前に、パトカーごときのバリケードなど玩具にも等しい。 『我々は、』耳を打って女の声。『これら惰弱な風見鶏どもとは――違う!』  そこへ――、  〝フォックストロット〟。追い討ち。さらにパトカーを押しのける。 『断じて違う!』女が声を通らせる。  呆けたような――間。 『暫定政府の蛮行、』女が断じる。  抜けた。眼前。〝ゴスホーク1〟。 『その数々を白日の下へと晒し!』空隙を打つ女の声。  クラッチを切る。サイド・ブレーキ全開――スピン・ターン。ティーグルが〝ゴスホーク1〟へ尻を振り向け、機体へぶつから――んばかりに迫って停まる。 『然るべき制裁を加えるのだ!』 「〝エコー2〟!」曹長が指示を飛ばす。「いいぞ、撃ちまくれ!!」  天井の軽装甲ハッチを跳ね上げて、〝エコー2〟がAK-47を撃ち散らす。 「弾幕でなくていい!」曹長が背後へ眼を向けつつ、「第1分隊から見えれば構わん!!」 『戯言だと甘く見るか?』女の声が静かに挑む。  警察から命中弾――が装甲に跳ねる。それが複数。  その隣、〝フォックストロット〟のティーグルがスピン・ターン。 『なら』笑みを声に含ませて女。『眼を逸らせなくしてみせよう』 『あの女!』後部ハッチへ手をかける頭目に感心声。『スカウトしたくなるな!』 「憂さが溜まってるんだろ」応じた曹長が自前の無線端末へ、「第1分隊、コード〝ロメオ〟! コード〝ロメオ〟! 救助する! 繰り返す、救助する! 乗り移れ!!」 『まずこれをご覧に入れよう――解説が要るかな?』  爆砕ボルトの作動音――がオスプレイ機尾から。眼をやれば、後部ハッチを落とした第1分隊が背を低めて駆けてくる。 『左に暫定政府副大統領、握手を交わしているのは某国の――ここではあえて〝某国〟と呼ぶに留めるが――外相だな』 「撃つな、第1分隊!」曹長が念を押すまでもなく、第1分隊に銃火はない。「繰り返す。撃つな!!」  一方で、地元警察からの着弾は増えつつある。 『こちら〝アルファ1〟、了解』回線に第1分隊長。『ティーグル2輌を視認。オスプレイの爆破処理装置を起動して移乗する』 『ここで、興味深い映像を』  まず2名、機尾に近い〝フォックストロット〟のティーグルへ――と。  ひときわ高く金属音――に続いティーグル正面が白煙を噴く。 「ラジエータが!」曹長が後部ハッチへ声を向けた。「対物狙撃銃!!」 『くだんの副首相へ歩み寄っていく人物――そう、その人相にご注目いただきたい』  次に3名、こちらは曹長の背後から。 『被弾!』〝フォックストロット1〟から鋭く声。  またも白煙、2輌とも。 「時間がない!」曹長が飛ばして声。「エンジンが焼き付く前にずらかるぞ!!」 「〝ゴスホーク2〟!」さらに曹長、「離陸用意!」 『放送は?!』〝エコー2〟の問いがすっぽ抜ける。 「カメラは回しっ放しにすればいい! それより、」曹長の声に切迫。「ヤツら、〝ゴスホーク2〟のエンジンを狙ってくるぞ!」 『くっそ……!』〝エコー2〟が反論を呑み込む。 「〝ホテル〟、誘導と見張りに当たれ! 〝ゴルフ〟は引き続き掩護! 時間が惜しい、すぐかかれ!!」 『そう、この顔だ』意味ありげに、女に間。『このあと再びご覧に入れる――さてこの手配書、こちらの顔に見覚えは?』 『〝アルファ1〟了解!』無線の声にも緊迫。『時限信管、10秒にセット!』  言う間に4名が〝フォックストロット〟のティーグルへ。 「残りは!?」曹長が確かめる。 『残りは』〝アルファ1〟。『我々2名』 「〝フォックストロット〟!」すかさず曹長。「先に行け!!」 『そう、』教師めかして女。『先ほど暫定副大統領に接近していた人物だ』 『時限信管、作動確認!』追うように〝アルファ1〟。『移乗する!!』  〝フォックストロット〟のティーグルに咆哮。警察の眼を惹きながら放送局へと加速する。 『これは国際刑事警察機構の手配文書――つまりこの人物は、』 「今のうちだ!」曹長が促した。「警察の射線がバラけてる!!」  後部ハッチへ人影――2つ。 『――国際指名手配犯、ということになるな』 『よし!』頭目がハッチを閉じ、 「捕まれ!」曹長がアクセルを踏み込――んだところで。  再び、甲高い金属音――。  さらに音。弾けた――と見る間もなくエンジンが息を失う。さらにアクセル――無反応。

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