Part 23-3 Stealth ステルス

In the Sky NYC NY, U.S. 19:25 Nov. 22th. 11月22日午後7:25 合衆国 ニューヨーク州 ニューヨーク上空  真っ暗な人工血液に肺の中まで満たされると気持ちまで充足された。  いつもならそれで落ち着くのにとパティは心乱れていることを素直に認めた。フローラと違いマリーは私たちを消耗品と考えていない。  本当にアリスや他の人達の命を危惧している。テロリストですら殺すことを否定しているあの新しいチーフが心の奥底に隠しているジェノサイドの刺──あの人はまるでスピアの様に食い込んだそれに抗い続けている。それを知ってしまったからあの人を裏切れない。  期待に答えたい。でも私一人に何が出来るの? 自問を繰り返していたその時、メロディアが液体媒体中を指向性音声で話し掛けてきた。 「パトリシア、お電話です。アリスがセリー(/Celly:携帯電話の俗称)を持って来ました。会長からです」  パティは何だろうと思った。作戦行動中にボスが連絡を入れてきたのは初めてだった。 「取り次いで」  パティがそうつげると軟らかいヘラルドの声が聞こえた。 『パトリシア、手を貸して欲しいんだ。カーチス上院議員からの頼みだ。同席しているローラー・ステージFBI捜査官の話を聞いてくれるか?』 「ヘラルド、その人達の名前は初めて聞くけど私の力を知られてもいいの?」 『大丈夫だよ。彼らはきっと将来我々の為に動いてくれるから』 「わかった」  少女が承諾するとNDC内の外線が切り替わる独特の電子音が軽く鳴りパティは話し始めた。 「初めまして、ローラさん。私、パトリシア・クレウーザといいます。私に頼みたいってどんな事?」 『初めまして、パトリシア。その前に──疑う様で悪いけど、パトリシア、本当に人の考えが分かるの?』  FBI捜査官の疑念に少女は厄介な事でなければと内心不安になった。 「はい、それだけじゃなくてよ。そちらの場所を教えて」  しばらくの間がありローラが場所を教えた。 『ワシントンのマサチューセッツ通り、マウント・バーノン広場|傍《かたわら》を通り過ぎた所です』  ワシントン──南の大都市。パティは何度もその都市の人に干渉していたので場所を直ぐに意識できた。その一瞬、数億の様々な色合いの意識のオーブを飛び越し一際輝く意識を見つけた。だが初めてのはずのその精神を見つけた刹那、パターンが初めてではない事に驚きながら意識に滑り込んだ。  そうしてダイブした一瞬にボストンからワシントンへ向かい、黒いリムジンに空港で出迎えられ、そのFBI捜査官が懇意にしている上院議員ソニー・カーチスへの思いに触れた。 「指がとどいたわ。見つけたわ、ローラさん。あなた黒のリムジンに乗ってるのね。そう──私の話を聞きながら、疑ってらっしゃる。色んな事を当てさせ私を試そうとも」  パティがそう告げると数百マイル先の精神に新たな疑念が沸き起こった。 “それくらいの事は話しの流れから十分に予測可能な範囲。車の色は上院議院である彼と乗っているからと会長から事前に知らされていたのだろう”それを感じて少女はこの人が職業柄疑り深いのだと割り切った。 『それで?』 「私が予想して話してると」 “それすら予想できるだろう”と彼女がさらに疑念を深めた事にパティは仕方のない反応だとさらに暴露を続ける事にした。 「あら、そこまでお疑いになるなら──驚かないで、ローラさん。あなたは、手帳をバッグに入れていて──待って、今めくっているから──マリア? 名前を線で囲んでその頭に大きい星じるしを」  その刹那、ローラ・ステージが息を呑んでどうして手帳の中身を知っているのかと動揺し、予想できる事ではないと判断しながらも同時に彼女が姪のマリーを意識した瞬間パティは驚いた。  マリア・ガーランド──!──この人はチーフのおば様!  それで精神を見つけた瞬間、初めてでない感覚にとまどったんだわ! と少女は驚きが言葉になってしまった。 「えっ!? あなたチーフの──マリア・ガーランドのおば様なの!?」  パティは覗《のぞ》き見て感じている相手が激しく動揺し、問い掛けながらも見も知らずの少女がどうしてそんな事までと混乱し始めマリーがなぜ少女の上司なのだと疑問が爆発的に膨れ上がったのを感じた。 「ごめんなさい。それにはお答え出来ません。今はまだ──マリーに直接お話しを聞くべきですから」 『パトリシア、ならボストンの──』  ローラが本題を意識した瞬間には皆まで少女は理解していた。 「ブルネットの長髪をしたアネット・フラナガンね。ボストン西のレミンスターという小さな田舎町で誘拐されたのね」  ローラが唇を震えだしそうになりながら私がやっている事をもはや当てずっぽうや、推論で言っているのではないと結論づけ、考えを読みきっている! と驚愕しながら結論した状況への順応性までもがマリーにそっくりな事にパティはさらに驚いた。  仲の良い母娘ですらここまで同じパターンを見せないのにとローラとマリーが絶対的な信頼感を抱いて長年影響し合ったせいだと少女は気がついた。 「始めに言っておくわ。ごめんなさい。私が見つけ出せるのはあくまで予備知識が必要なの。だいたいどこにいるかとか。東部に人はたくさんいるから、砂丘から一粒だけ色の違う砂を探す様な難しさがあるの。一度知った人や並外れた思念の持ち主とかはどこにいても直ぐに探しだせるんだけど。ローラ、あなたみたいな」  そうよ。もはやあなたは東海岸のどの都市にいても見つけ出す事が出来るの! チーフという指標があるから!  “東部?──そんな広い範囲を──長距離を? だけど誘拐された女性を見つけ出せないなんて──”深い落胆と新たな捜索の手段をすでに意識し始めたマリーのおば様をパティは手助けしてあげたいと心から感じた。 「ローラ、そんなに気落ちしないで。レミンスターを中心に探してみるから。見つけたらお知らせします」 『ありがとう、パトリシア』  そう言って彼女がモバイル・フォンをソニーに返そうと手渡した瞬間、少女は直接ローラの精神に語り掛けた。  マリーのパパから頼まれたお調べ頑張ってね。  驚いたローラ・ステージの意識を感じながら、今夜はこれ以上彼女を困惑させないほうがいいとパティは深く入り込んだ異空間の接続から身を退くと自分を見守る人工知能に命じた。 「メロディア、通話は終わったわ。セリーにアクセスして通話を切って」 「了解しましたパトリシア。通話を切り──」  液体中を伝播する人工音声が言い終わりきらないその途中でパティはモバイルフォンの呼び出しメロディが微かに聞こえた様な気がした。 「パトリシア、情報第3課のニコル・アルタウスから電話です。作戦指揮室から転送されています」  人工音声がそう告げ少女は繋《つな》ぐ様に即命じた。 『──パティ、ミュウ・エンメ・サロームを見つけた。場所はミッドタウンにある聖マリア病院の集中治療室。だが意識を失っている。いつもの様にスキャン出来るだろうか?』  少女はミッドタウンの病院なら近いし簡単だと思った。 「はい、ニコル。チーフから優先してミュウにダイブするように命じられてます。彼女が核爆弾の場所を知ってるかもしれないと」  パティは彼にマリーから危篤《きとく》状態のミュウにダイブしてはいけないと止められた事を話さなかった。少女は自分にしか出来ない事をしなくてはと思っていた。 『──ああ、そうだ。核爆弾の場所が分かったら、サブチーフと私に──頼んだよ』  通話は直ぐに切れるとパティは間をおかずにミッドタウンの聖マリア病院を意識し、病院職員や入院患者達百名ほどのの精神のオーブを見渡した。そうしてそこに覚えのあるミュウ・エンメ・サロームの意識を探した。  直ぐにニコルの精神を見つけ出せたのにミュウのものを見つけられない事にパティは動揺しかかった。だがニコルのすぐ傍に極めて薄いトパーズの様な赤紫色の精神を見つけ、その見慣れない状態の遥かに小さく感じるオーブに少女はその意味する事を朧気《おぼろげ》なく理解した。  この娘、精神をステルス化している!

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