幕間4

 農業とは、人類の文明を開化させ、格差社会の幕引きを導いた悪魔の所行である。  悪魔はその手を魔力というものにまで伸ばしたことがあるのをご存じだろうか。  本著では、人類の歴史において黒い噂の絶えない魔力について、実際の事象や歴史を紐解きつつ、最新の研究や検証により明らかになった事実と証拠を精査し、流布されている噂を論証しつつ、正しい情報、誤った情報、不確定な情報とに分類していきたい。  この書籍が真実を突き止めるための証拠となれば幸いである。 (中略)  魔法の行使に必要な魔力は、適宜自然物から入手するか、元となる自然物を携帯する、魔法結晶から得るなどの方法で摂取することができる。人が生活を営む上で必須となる魔力の歴史を語るにおいて、大きな転換期として示すべきは、やはり魔法結晶が発明された三世紀後半以降といえる。  緻密な技術の研鑽と膨大な魔力の蓄積の結果として生まれたこの発明品の秘密は、自然物が持つ複雑なつくりの魔力が、最大限、人間の肉体が解釈するべく単純化されていることにある。もちろん、この単純化というのは人間の独善的な視点であって、大人の親指大に加工された魔力結晶の完成品は自然界において一切の分解を許さないほど複雑な機構をしていることを忘れてはならない。  さて、魔法技術の転換期を生み出した魔法結晶であるが、その大規模工場的生産法については十三世紀も終わりが見えてきた頃にようやく確立されたばかりで、歴史も浅く実現の目処も立っていない。さらに、技術や安全性の問題、費用に見合う利益の少なさ、結晶の普及や価格の安定などの問題から、民間に委託すべきか公的な産業にするべきか、ロイヤリティや結晶の商取引のためにどう分配するかなどの議論は、未だに収束の片鱗を見せていない。これらの議題は十四世紀中期現在において進行中のものであり、ここでは述べられない。一個人の見解としては、すでに普遍的貨幣価値を持ってしまった魔法結晶の大規模普及は経済活動に混乱を招く因子でしかなく、軽率な大量生産は自粛すべきだと考えられる。  本題に入るが、先に述べた大規模工場的生産法というのは現在に即した便宜上の呼称であって、本著では以降、これを大規模農業的生産法と表記する。  由来は、魔法の歴史における結晶時代の黎明期、最初期の魔法結晶の生産法に依る。  結晶の苗床、つまり当時の大衆が示す魔法結晶の農場とは、生存権を剥奪された奴隷たちのことを指していた。 あるときより歴史から消えた奴隷(AGC.1344 ダン・バートン編著)より冒頭を抜粋

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