第百五十三話 ナイスバディと行き倒れの猫

 「まさか闇狼の魔王が負けたのでしょうか……怖い顔をしていたのに……」  「多分それは関係ないと思うよお嬢様」  ルルカがツッコミを入れていると、羊角の獣人が俺達を見渡して話し出す。  「まあそういうことで、今は人間に対してピリピリしている状況だ。あんた達は何しに来たんだ? 冒険者ならユニオンの人間を連れてくるが――」  そこまで聞いてから、レヴナントが前へ出てきて二人の獣人にことのあらましを尋ねていた。  「もうちょっと詳しく聞きたいね、魔王が行方不明ってどういうことだい? ちなみにこっちの二人は魔王だから、もしかすると君達の問題が解決できるかもしれないよ?」  「お、おい、レヴナント! 勝手にバラすんじゃない!?」  あっさりと俺達の正体をバラしてくれるレヴなんとかさん! しかし、獣人達はその言葉に歓喜していた。  「ほ、本当か!? お、俺、ユニオンマスターを連れてくる! これで何とかなるかもしれん……!」  「ここでまごまごするより、ささっと言った方がいいのよ。魔王が行方不明なのにウェスティリアさんが城の方角で感知できる……結構まずいかもしれないしね。で、どうなの?」  「あ、ああ。城から逃げてきたやつから聞いた話だけどいいか? ある日、黒いローブの集団が城を訪ねて来たそうだ。ヘルーガ教徒だったらしい。勧誘だったようだが、民を大事にされる闇狼の魔王……ベアグラート様が世界の混沌に耳を貸すはずもない。子供を連れて、説得をしようとしていたらしいが、逆に説教をしていたそうだ」  なるほど、顔は怖いのかもしれないがまっとうな性格のようだな。さらに続きを聞く。  「その後、子供がいるのに暗い山の中へ放りだすのも可哀相だとその日は城へ泊めた。だが、それがいけなかったんだ……」  「ドラゴンを駆る賊が襲ってきた、と?」  師匠が腕組みをして呟くと、羊角をした獣人が頷いた。  「ああ。どうも勧誘よりも、そいつらを招き入れるために城に入ったみたいだったそうで、手際が良かったとか。そして妙な玉をローブの人物が掲げると、ベアグラート様が膝をついて戦える状態じゃなくなったらしい。その後はみんなあちこちに散って逃げた。シーフの獣人が城を偵察に行った時には魔王様の姿は見えず、変な人間が玉座に座っていたらしい」  「なるほど……というかやっぱりヘルーガ教が関わっていたのか。あいつらどこにでも現れるな……!」  クロウが憤慨していると、レヴナントがまあまあ、と抑えながら口を開く。  「となると城に幽閉されているのが有力かな……? お、どうやらお迎えが来たみたいだよ」  「す、すげぇ……!」  俺がゴクリと喉を鳴らし、声をあげたのも無理はない。ヤギ角獣人が連れてきたのは、超ナイスバディをした、白い犬耳と尻尾をもったお姉さんだったからだ……!  「ふん!」  「とお!」  「え、えい!」  「そりゃ!」  「ぐあああああ!?」  「……自業自得だと思う……」  さっと俺の後ろに隠れて、おっぱいから逃れようとするクロウ。リファよりも全然上だし、ティリアとレヴナントに至っては比べるのがあほらしくなるレベルだから仕方ない。  「後でカケルさんには話があるから♪」  「……」  レヴナントが俺の肩を叩きながら笑顔だった。それはともかく、ナイスバディのお姉さんが俺達の前へ来て話しかけてくる。  「あなた達が魔王様ご一行?」  「ああ、主にこの子がそうだ」  ずいっとティリアを前に出してやる。  「二人いると聞いていたけど……」  「それはこの人です」  今度はルルカが俺をずいっと前へ出してくれた。いいのに……  「なるほど。こちらのお嬢さんは見たことがあります。光翼の魔王様ですね? 私はこの”シュピーゲルの町”のユニオンマスターをしている、ミリティアと言います。お見知りおきを、魔王様」  ミリティアがニコリと微笑みながら握手をし、次に俺も握手を促された。  「とりあえず立ち話もなんですし、ユニオンまでお願いできますか?」  「ああ、宜しく頼むよ」  ミリティアが門をくぐり、俺達もそれに続く。少し歩いた所でいい匂いがしてきた。  ぐう……  「あ、す、すみません!?」  「そういや即座に飯を要求していたな。ミリティアさん、申し訳ないんだけど、先にご飯を食べてもいいか? 港から歩き通しで飲まず食わずだったんだよ」  そういうと、クスリと笑ってミリティアさんが言う。  「そうでしたか。魔王様のお口に合うか分かりませんが、ユニオンに出前を用意させましょう。それでいいでしょうか?」  「あ、はい! それで大丈夫です!」    「……ちょっと恥ずかしいですよ、お嬢様……」  リファが顔を赤くしてティリアの袖を引っ張っていた。そのまま、俺達はユニオンへ行き、羊角獣人から聞いた経緯から先の話を聞くことになった。  「城がおそふぁれふぁまでふぁ聞いたふぇど」  「カケル、ちゃんと飲みこんでから喋るのじゃ」  元貴族の師匠に怒られ、飲みこんでから再度聞き直すと、お茶を飲みながら口を開く。ティリアの食べっぷりに顔は笑っているが冷や汗が一滴流れていた。  「……そうです。城が薄汚い人間達に乗っ取られ、さらに城に近い村が襲われました。その内、一つの村は全滅……生き残りも居なかったとか……」  「ええー……酷過ぎるよ……」  ルルカが顔をしかめて呟くと、クロウがミリティアさんへ尋ねる。  「この町は大丈夫なんですか?」  「とりあえずは、というところですね。何日かは襲ってきましたけど、ここは冒険者や戦闘ができるものが多いので、手を出してこないようです。他にやることがあるのか、黒いローブの集団は森の中でウロウロしているのをみかけるみたいです」  「やっぱりアウロラの封印だろうな……」  「そうだね。どうする? 素直に城へ向かうのは美味しくないと思うんだけど」  俺がスライスされたハムを口にほおりこみながら呟くと、レヴナントが意見を聞いてくる。すぐに行こうと言いださなかったのは正直意外だ。リファとルルカ、師匠が居るからだろうか?  「他の村が襲われないとも限らないし、急ぎたいところですね」  「口の周りを拭け」  コーンスープで口のまわりを汚しながらキリッとした顔でそんなことを言うティリア。するとミリティアさんが頭を下げて懇願してきた。  「不躾なお願いとは思いますが、あの憎き人間どもを城から追い出してはいただけないでしょうか。我々も攻めるときにはお手伝いいたします!」  「うーん、とりあえず向かってみるよ。魔王が不在というのも気になるし、どちらにせよヘルーガ教が関わっているならそいつらを捕まえて聞くことがあるしな」  「ああ……ありがとうございます……! ……えっと、何の魔王様でしたでしょうか……?」  「……回復の魔王だ。連絡を取りたいときは?」  「村に簡易セフィロトの通信装置を設置していますから、それを使って頂ければ。これがあれば村長は協力してくれるはずです」  一枚のプレートを渡され、俺達は食事を終えるとユニオンを後にした。到着早々面倒ごととは、と考えていると、師匠が口を開く。  「……やはり人間に対して、不信感を持っておるようじゃのう。早いところ町にわしらのことを通達してもらわねば、視線が痛いわい」  「そうですね。人間も居ない訳ではないですが、元からここに住んでいるか、町を防衛した冒険者ですから、私達のように事件の後から訪問した人は辛いかもしれませんね」  リファが師匠が歩きながら周囲を見るが、苦い顔か、明らかに不機嫌そうな視線が刺さる。  「まあ、ミリティアさんに期待だな……ん?」  ふと、俺が建物と建物の間……路地に気配を感じ、立ち止まってそっちを見ると、ボロボロになった猫が横たわっていた。  「すまん、ちょっと待っててくれ」  「カケルさん?」  ルルカが首を傾げて声をかけてくるが、構わず進み、猫を抱き上げる。酷いけがをして、虫の息だった。  「猫ですか? ……血だらけですね……」  「まだ死んでいないなら大丈夫か『ハイヒール』で」  パァァァ……  還元の光を使うまでもないと思い、猫にハイヒールをかける。血は落ちなかったが、ケガはあっという間に塞がり、呼吸も正常に戻ったようだ。  「これで大丈夫だろう。しかし何でまたこんなところに?」  抱いたまま俺が呟くと、猫が目をうっすらと開け、直後俺達を驚かせた。  「……わ、吾輩は……助かったのか……?」  「喋ったぁ!?」  そう、血だらけの猫は、人語を介したのだった。

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