世界で一番罪深い男

♢  その日、男は定年を迎えるに至った。  男は、墓園に残されていた最後の墓に、名も知らぬ誰かの骨を納め、丁重に弔った。男の管理する墓園に、もはや空き室はなくなったのだ。男は、あまりの達成感にしばらく墓の前にうずくまり、声も出せずに静かに泣いた。   随分、不摂生な生活をしていたというのに、男は随分と長い時間生きていた。何十年もの長き時間が、男の体を老いさせた。男の顔は、深い皺に覆われており、またあちこちに黒いシミが浮き上がっている。本来であれば、このまま墓園を維持管理するのが男の務めだ。だが、既に男は自らの死期を悟っていた。ならば、手前勝手ではあるが定年とさせてもらおうという魂胆だった。  男は、最後の力を振り絞り穴を掘った。墓園の片隅にある男の姓が刻まれた墓、そう男の家族たちが眠るの墓の前にだ。男は、息をぜえぜえと吐きながら、普通の大人であれば2,3人は収まるであろうだけの広さを掘り上げた。そう、その穴は、男の暴食の産物である巨躯を納めるに足る墓穴であったのだ。  男は、穴の中に布団やクッションを敷き詰め、周りには長年愛でてきたコレクションを添え、遂には床についた。なに、万が一、目覚めれば、また仕事をすればいいさ、もし寝坊しても通勤時間を考慮しなくていいから楽だ。そんな不遜なことを考えているうちに、男はうとうとと睡魔に襲われ、いつのまにか眠りに落ちていた。  その日、世界で一番罪深い男は、静かに息を引き取った。  男の死に顔は、その罪深さとは裏腹に穏やかで優しいものであった。 おわり 

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