猫に小判

「当たったぞ!」  声を上げたのはトノサマガエルでした。彼はロールキャベツの中から出てきた小判を高々と掲げました。  アラシとナギがパチパチと拍手をおくります。 「おめでとうございます。あなたが次のお殿様です」  がっかりしたのは他のカエルたちです。けれど文句を言うことはありませんでした。だって、アラシたちは誰がお殿様になったって構わないし、ズルをするような猫ではないとわかっていたからです。 「仕方ない。これも天の思し召し」と、ダルマガエル。 「また来年があるでしょう」と、アマガエル。 「まったくだ。それにしても、このロールキャベツは美味しいぞ」と、ウシガエル。 トノサマガエルが「はっはっは」と高らかに笑いました。 「あっぱれ、あっぱれ! これにて一件落着」  カエルたちは晴れ晴れとした顔で、ロールキャベツを綺麗にたいらげました。白ワインをあけて乾杯です。 「我らがお殿様に乾杯!」  店の中はカエルの大合唱で賑やかになりました。  ほろ酔いになったカエルたちは「ごちそうさま」と口々に言い、席を立ちます。ヒキガエルが深々とお辞儀をしました。 「おかげで助かりました。これで私とお殿様がズルをしたわけではないと信じてもらえました」  すると、トノサマガエルが言います。 「ありがたや。心から礼を言う。疑いが晴れて嬉しく思うぞ。それにたいそう美味であった!」  そしてロールキャベツの中から出てきた小判を差し出しました。 「これはお礼として渡したもの。とっておきなさい」  ナギが受け取ると、トノサマガエルは満足そうです。 「これからは毎年、ここでくじ引きをお願いしよう。欲しい褒美があれば、なんなりと申してみよ」 「それではお殿様」と、アラシが進み出ます。 「僕たちは小判ではなく鰹節が欲しいのです。この小判は来年の当たりとしてまた使わせていただきます」 「なに、鰹節とな?」 「はい。それで美味しい出汁をとって、お正月にお雑煮とお煮しめを作れますからね」  トノサマガエルは目を丸くし、そして高らかに笑い出しました。 「なるほど、猫に小判とはよく言ったものだ。あいわかった! とっておきの鰹節を用意しよう」  こうして、カエルたちはトノサマガエルを神輿に乗せて帰って行きました。  ゲロゲロ、ゲゲゲッ、モーモー、ゲロロ。  ゲロゲロ、ゲゲゲッ、モーモー、ゲロロ。  アラシとナギのくじ引きで、殿様決まった、ゲロゲロゲ。  やっぱりトノサマガエルがお殿様、鳴いて祝えよ、ゲロゲロゲ。  愉快な歌声がどんどん遠ざかる中、アラシとナギは食器を洗い始めました。 「ねぇ、お兄ちゃん。どうしていつもトノサマガエルが当たるのかな?」 「ああいうものはなるべくしてなるんじゃないかな。でも、僕はよかったと思うよ。だってトノサマガエルが一番礼儀正しいからね」 「また来年もロールキャベツを作らなくちゃね。今度はコンソメ味にしたらどう?」 「ナギ、それはいいね。でも、肉まんにしてみるのもいいよ」 「お兄ちゃん、それはいいわね。おにぎりって手もあるわよ」 そして二匹はあのカエルたちを真似して歌い出しました。  ゲロゲロ、ゲゲゲッ、モーモー、ゲロロ。  ゲロゲロ、ゲゲゲッ、モーモー、ゲロロ。  年の初めのくじ引きの、メニューはいろいろ、ゲロゲロゲ。  餃子にパイに、饅頭も、食べて祝おう、ゲロゲロゲ。  この歌を口ずさみながらの食器洗いは、不思議なほどはかどるのでした。  それ以来、毎年お正月になると『うみのねこ』にはカエルたちがやってくるようになりました。行列をつくり、あの歌を口ずさみながら、ぴょんぴょんはねてくるのです。  カエルたちは鰹節の入った袋を背負っているものですから、はねるたびに鰹節がカツンカツンとカスタネットのような音をたてます。その音を聞くと、アラシとナギは「ああ、今年もお正月がきたな」と思うのでした。  そうそう、ヒキガエルがくれた残り二枚の小判はどうなったと思いますか? アラシとナギはチョーカーに小判をつけて首飾りにしたんです。ほら、今日も首元で小判がキラリと光っています。それを見た客は口々に「ほら、あの綺麗な小判の首飾りをごらん。カエルのお殿様を決める猫の証だよ」と、褒めそやすのでした。  今日もまた、アラシとナギはエプロンをつけて忙しそうにしています。トントンと何かを切る音がしますね。お湯がぼこぼこ沸き、油がジュワッと弾けています。ほうら、二匹の笑い声とともに、なんだかいい匂いが流れてきました。次はどんなお客さんなんでしょうね。

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この作品の評価

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すごく可愛らしいお話でした。 ねこのきょうだいや、カエルたちの様子が目に浮かぶようです。 擬音や、カエルたちの歌声も、ちょど良い感じで入ってきます。 『うみのねこ』で繰り広げられる物語を、もっと読んでみたいと思いました。 猫に小判にも思わず笑いました。すごい伏線ですね。 小判のチョーカーを首につけた猫のきょうだい。見てみたい! 絶対可愛い。 素敵なお話、ありがとうございました。

2019.08.04 09:51

観月

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