03話. GAME

 さて、警察に捕まる前に、さっさとここを立ち去ろう。  それにしても、何だって俺は跳び箱なんかに閉じ込めていたんだか…。  タチの悪い|悪戯《いたずら》にしてはやり過ぎだ。  跳び箱からゆっくりと脱け出し、ひっくり返った跳び箱の1段目を足場にして外に降り立った。  跳び箱の裏に足を乗せた時、クシャッという音がしたので、足元を見ると、跳び箱の裏には何やら紙が貼り付けてあった。  紙には『ゲーム説明』と、手書きで書かれていた。 「…ゲーム?」  紙を拾い上げると、二つ折りにされた紙の内側には手書きではない、印刷された長ったらしい文章が書かれていた。  パソコンの『メモ帳』で作成した文書をそのまま印刷したのだろうか。左上に「03_跳び箱.txt」と印字されている。  03_跳び箱.txt  ◇◇◇◇◇◇◇  おめでとうございます。あなたは死にました。  そして新たな世界で、戸籍を持たない存在として生まれ変わりました。  あなたは、この世界では何者でもありません。あなたの存在を証明するものは何もありません。  あなたがこの世界で与えられたのはここにある『跳び箱』というアーティファクトだけです。  あなたはこれから、あなたを含む25人の参加者同士でゲームを行います。  参加者には皆、それぞれ異なるアーティファクト(体育用具)が与えられています。  このアーティファクトを用いて戦闘を行い、最後の一人になるまで勝ち残れば『優勝』となります。  優勝者には賞金450万円と、この世界での新たな戸籍が与えられ、自由を得ることができます。  あなたのご健闘をお祈り申し上げます。  ◇◇◇◇◇◇◇ 「何だこれ?アーティ…ファクト?」  紙に書かれている「あなた」ってのは俺のことか?  この紙は俺に宛てたものなのか。  2つのワードに思い当たる節があった。 「死にました…?生まれ変わりました…?」 「あっ、転生…!」  そう、あの気色の悪い声の変態ヤローが言っていた言葉を思い出した。  そして自宅でトラックに轢かれて死んだ事も。  そうだ、やはりあの時、俺は死んだんだ。トラックに轢かれて無事でいる筈がない。  じゃあ、まさか、本当に転生したのか?  この世界は一体…新たな世界だと?ここが異世界とでもいうのか?  よくある西洋ファンタジーの世界か?それとも別の惑星?  いや、さっきの女子高生は一見普通に見えた。喋っている言葉も日本語だったな。たぶん。  それにこの風景、住んでた街とは異なるが、ごく平凡な住宅街だ。どう見てもファンタジーじゃない。  ふと向かいの家並みに目をやると、塀の端に街区表示板が貼られているのを見つけた。  街区表示板には「豊島区 千早◯丁目42」と書かれていた。  豊島区って…まさか東京!?俺は東京にいるのか?  博多から東京まで運ばれたのか、それとも生まれ変わって東京から人生スタートしたのか。  そもそも転生ってのは、こういう感じなのか?  生まれ変わるんなら普通は赤ん坊からじゃないのか。あ、でも漫画やアニメだと、そのままの姿で異世界ってのが普通か。  それにしても、東京にしては全然都会って感じじゃないぞ?  豊島区って言えば、23区だろ?確か、池袋とかデカい街があったはずだ。  高層ビルが1つも見えないし、本当にここは東京か?住宅街の細い路地とはいえ、あまりに人通りが少ない。  もしや…ここはパラレルワールドって奴か?  何らかの理由で東京が発展しなかった平行世界に来てしまったのかもしれない。  現実の東京は、隅から隅まで人がぎっしり敷き詰められて、隣の奴の鼻息が常に自分の耳に当たり続ける毎日だ。って、東京出張に行ってた営業の勝山さんが言ってたしな。  想像していた東京のイメージとはかけ離れた姿を目の当たりにし、この紙に書かれている内容の信憑性がますます高まってきた。  手に取った紙をもう一度見返すと、二つ折りにされたもう片面にはゲームのルールが記載されていた。  03_跳び箱(2).txt  ◇◇◇ゲームルール◇◇◇  ・ゲーム参加者は必ず与えられたアーティファクト(体育用具)を用いて戦闘を行うこと。それ以外の手段で他の参加者に危害を加えてはならない。  ・ゲーム参加者は与えられたアーティファクト内で寝泊まりを行うこと。  ・ゲーム参加者は毎日深夜2時〜4時の間はアーティファクト内から体を出してはならない。  ・ゲーム参加者はゲームエリア(豊島区千早◯丁目内)から外に出てはならない。  ・戦闘の勝敗は、一方が負けを認めた場合、もしくは死亡を含む行動不能な状態となった場合。  ・戦闘の勝者は、敗者のアーティファクトを自由に使うことができる。  ・戦闘の敗者は、ゲーム終了後も引き続きアーティファクト内での生活を強制される。  ・上記についてルール違反が確認された場合、違反者は死を以て罰せられる。  ◇◇◇◇◇◇◇ 「死を以て…って、無茶苦茶な。」  |仰々《ぎょうぎょう》しい一文に一瞬、気を取られたが、すぐに冷静になれた。 「ああ、またトラックで轢き殺すつもりか?」  これまで起きた事を考えれば、無茶苦茶な話だが、むしろ納得がいく。  要するに「ここに書いてある通りにしなきゃ、また殺すぞ。」っていう脅し文句な訳だ。  生き残りたければゲームに参加しろってことだ。  次またトラックで轢かれたらどうなる?  跳び箱の中からやり直しか?いや、次も転生できる保証なんてない。  まあ、素直に言われた通りにしてやるかは別にして、ある程度このゲームとやらに付き合わなきゃ、今のこの状況を理解することも出来ない。  金もなければ、身分を証明するものもない、頼れる知り合いもこの世界には居ないだろうし。  いや、現実世界にも、そんな存在は居なかったけど。  それにゲームの参加者が25人ってのが本当なら、俺と同じ状況の奴が20人以上もこの近くに居るってことになる。  まずは、そいつらに接触してみることから始めてみるか。  うまくいけば協力して貰えるかもしれないが、逆に運が悪ければそいつらに襲われることになるのか…?  丸腰で接触するのは危険かもしれない。  戦闘はアーティ…アーティファクト?を用いて、と書いてあるが…。  『アーティファクト』ってのは、この跳び箱のことを言ってるのか?  何なんだよ『アーティファクト』って、大層な名前付けやがって。  体育用具を英語に翻訳してもそうはならんだろ。  足元でひっくり返った跳び箱の1段目を持ち上げてみた。 「重いな…これ、つまりコイツで、他の奴を殴る、と。」  この角をぶつければ、当たりどころが悪ければ死ぬかもしれない。  重くて使い勝手は悪いが、確かに凶器にはなる。  それと、戦闘よりも問題になるのが「寝泊まりすること」というルールだろう。  この跳び箱の中でか?  あまりに馬鹿げたことだ。普通なら、やってられるかって感じだろう。  だが、実際にさっきまで跳び箱の中に入っていた俺の考えは違っていた。 「これは、案外イケるかも。」  跳び箱に大人用、子供用があるのか知らないが、目の前にある跳び箱は子供の頃に見ていたものよりも、ずっと大きいものだった。  全部で8段ある跳び箱は、手に持ってる1段目を足すと身長178cmある俺の胸元に届くほどの高さがある。  130cmくらいはあるだろうか。大人の俺でも飛び越えるのは難しいだろう。  そして高さより大事なのは内部の広さだ。  さっきまで中に居た時には、真ん中で体育座りをしていたが、背中を付けて座ると足を伸ばせるほどの奥行きがあるのだ。  幅は上に行くほど狭くなるが、座っている分には肩を丸める必要もない。  座布団でも敷ければ、軽自動車の運転席よりも快適に過ごせるだろう。  まして、ヤドカリになりたいとさえ思っていた俺にとっては、贅沢すぎる物件だ。  何より足を伸ばせるというのがいい。エコノミークラス症候群の心配もないかもしれない。  なるほど、「チートなヤドカリ」か。ケツにはフィットしないが、この若さで夢のマイホームだぜ。

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