第百三十九話 黒いローブの集団

 「う……ぷぷ……」  「リンゴ女、言いたいことがあったらハッキリ言う」  「い、いや……すごくよく似合ってるわよ……その子供服……」  アンリエッタがレムルの見立てた囮用の服を見て笑いを噛み殺しながら言う。もちろんトレーネが黙っているはずもなく、襲いかかった。  「……!」  「……!」  「あーもう、喧嘩はおよしなさい! それでグランツさん、本当にトレーネを囮に?」  「ええ、このままでは被害が増える一方ですし、我々がこの町に来たことで警戒されている可能性は高いと思います」  「そうかもしれませんけど……」  冒険者としてのトレーネは地味ではあるが、やはり冒険者として町を歩いている以上、目立ってしまう。そうなれば誘拐犯は引っかからないであろうということで、パッと見トレーネに見えないコーディネイトを、トレーネがユニオンを使って呼び寄せたレムルに頼んだのだった。  仲が悪そうに見えて、レムルとトレーネは意外とウマが合い、一人っ子のレムルは妹が出来たように接していたので、呼び出しにも応じていたりする。  それはさておき、今のトレーネは貴族の子供が着る豪華なドレスに、いつもの黒縁の眼鏡を小さめに変更。頭にはリボンをつけて三つ編みを解いてストレートに。……すると立派な貴族のお嬢様へと変身していた。  が、体が小さいため、アンリエッタの言うように子供服しか入らなかったのだった。  「ふーふー。レムル、リンゴ女にも着せて」  「ええ? どうしましたの?」  レムルが鼻息を荒くしたトレーネを羽交い絞めにすると妙なことを言いだした。落ち着いたトレーネを放すと、エリンが耳打ちをしてきた。  「(あの子もカケルさんに助けられたことがあるっぽいの。で、どうも惚れているらしく、喧嘩に……)」  ああ……と、納得するレムル。自身も気になっていない訳ではないが、この場に居ないので浮ついた気持ちにはなれず、少し羨ましいとも思った。  「あなた、お名前は?」  「え? アンリエッタ……です。もしかして、貴族の方、でしょうか……?」  トレーネと争いボロボロになったアンリエッタが、レムルの話し方、所作を見て顔を引きつらせる。  「そうです。が、ここでは、気にしなくても構いませんわ! わたくしは心が広いですからね! おーっほっほっほ!」  得意の高笑いをしたと思った瞬間、ピタリと止まり、アンリエッタの腕を取って服屋の奥へと入っていく。  「ちょ、何ですか!?」  「よく見ればあなた、中々可愛い顔立ちをしているわね。囮とか関係なく、ちょっと着せ替えを……」  「あ、嘘!? ちょ、助けて!?」  「フフフ……」  手を伸ばすアンリエッタ。しかし、ニヤリと笑うトレーネはそれを助けず、見送ったのだった……。  「楽しそうだなぁ」  「ふふ、こういうのもいいですね♪」  感覚が違うのに戸惑うニドと、女の子が多いので少し楽しいコトハがポツリと呟いていた。ちなみにブルーゲイルの他のメンバーはユニオンで待機中である。  ◆ ◇ ◆  そして夕方――    「人が少なくなってきたな……」  「こうやって見ると可愛いんだけどねえ」  建物の影に隠れてベンチに座って話すアンリエッタとトレーネを見守るグランツとエリンが口を開く。そこから見える別の場所にはあちこちにブルーゲイルの面々も二人を見張っていた。  「これで来なかったら?」  「その時はその時だ。カケルさんのことを知るニドさん達がここに来たのも縁だと思う。カケルさんを見習って、色々やって損はないはずさ」  「しかしアンリエッタちゃんも参加するとはねえ……」  服屋での一件で服を着替えさせられたアンリエッタ。トレーネが笑い、一悶着があった後トレーネが囮になる計画を話していると、アンリエッタが自分から志願したのだった。  「一人でそんなドレスを着ていたら怪しさ大爆発じゃない? いいわ、死んでいたかもしれない命だもの。私が一緒に囮になるわ。一般人が紛れ込んでいた方がいいでしょ?」  と、強引にトレーネを引き連れて公園で待機を始めたのだ。  グランツはかなり焦ったが、あまりにも食い下がるので、何かあったらすぐ逃げるようにと渋々了承した。二人から目を離さずじっと待ち構えて早数時間……ついに公園に動きがあった。  「……! 黒ローブの集団……?」  「い、今どこから出てきたの!? まばたきした瞬間出て来てたわよ!」  「分からない、だけどチャンスだ!」  トレーネとアンリエッタの二人を囲むように4人の黒いローブを纏った人影が現れた。グランツが飛び出したその時、ブルーゲイルも動く。だが、それよりも早く、公園に小さな三つの影が躍り出て黒ローブの背後に立った!  「ででで! 出たな誘拐犯! み、みんなを返せよ!」  「ですですー! まーちゃんを返してくださいー!」  「この木の剣で叩いてやる……!」  なんと、オッソ、スィー、ゴルの三人だった! 驚いたのはトレーネで、すぐに三人へ叫ぶ。  「ダメ! こいつらはヤバイ感じがする! 早く逃げる!」  「で、でも、こいつらがみんなを!」  「あ! みんなが来てくれたわ」  「グランツのあんちゃん!」  「早く逃げて!」  アンリエッタが叫ぶと黒ローブの一人がぼそり、と呟く。視線の先にはグランツが見えていた。  「罠、だったか。だが、丁度いい、五人いれば生贄は最後で良かろう」  言うが早いか、いつの間にかスィーが黒ローブの手の内にあった。  「あ、あれー? わああー!?」  「スィー! ≪炎だ……≫」  スィーを助けようと、トレーネが魔法を放とうとするが、黒ローブがトレーネの懐に飛び込み、腹を殴って気絶させる。  「トレーネ!? あ! ちょっと何するのよ変……態……!」  「放せ!! 放せよ!」  アンリエッタがトレーネを助けようとしたが、黒ローブに捕まり眠らされる。だが、その背後ではニドが剣を振りかぶっていた!  「その子達を放せ!」  「できん相談だな ≪茨の網≫」  「む!? 絡みつくだと!?」  「ニド! ならこれはどう? ≪人形傀儡≫」  すでにゴルとオッソを眠らせて両肩に抱えた黒ローブへ呪術を唱えるコトハ!  「……呪術士か!」  「ここは私が引き受けた。ぬぐ……!」  「呪術を庇ったですって!? くっ『我が意のままに魅入られし者よ』」  コトハが操ろうとしているところで、アルとグランツがスィーを捕えた黒ローブへ飛びかかる。  「はっ! っほ!」  「こっちもだ!」  「チッ、面倒な。流石に馬鹿でも警戒していたか。まあ、どうせ人数は揃った。後は逃げるだけ……」  「それをさせないってんだよ! うお、マジか!?」  アルがダガーで顔面を突こうとするが、黒ローブはスィーを盾にしてきた! 慌ててダガーを引っ込めたアルの腹に蹴りが刺さる!  「アルさん! ……卑怯な……」  「何とでもいえ。おい、ボルド、ここはサビンガに任せて撤退するぞ」  「そうだなガルド。ここで死んでもエアモルベーゼ様の加護があろう……ゴルヘックス、準備はいいか?」  「……」  ゴルヘックスと呼ばれた男は無言で頷き、トレーネを担いで片手を空へ掲げた。  「ふふふ、お別れだ。少し手違いがあったが、いい土産をありがとう。……サビンガ!」  「う、ぐうう……だあ!」  「きゃあ!?」  「傀儡を振り切った!? ぐあ!?」  「ニド! コトハ! くそ、手がだせねぇ……!」  コトハを吹き飛ばし、捨て身で向かってくるサビンガ。アルとグランツはスィーを人質にした男の前から動けなかった。  「せいや!」  「ぬぐ……!」  それをドアールが剣で斬り伏せたが、その時、ゴルヘックスの『何か』が完成し、ふわりと黒ローブ達が宙へ浮きはじめる。  「飛んだ!?」  「そうか、こいつら空から子供達を攫っていたんだ! 暗くなれば黒いローブは見えにくいから目撃者も早々居ない!」  「答え合わせは終わったかな? では、いただいていくよ」  ボルドと呼ばれていた男が笑いながら空へ上がっていくのを見ているしかなかったグランツ達。  だがその時――  ドシュ!  「うぐあ!? な、何だ? 矢だと……!」  ボルドの腹に隠れていたエリンの矢が突き刺さった!  「しぶとい!? 落ちてきなさいよ!」  「ぐぐ……そ、そうはいかん……生贄を連れて帰らねば……≪漆黒の魔弾≫」  「きゃ!?」  「ヘマしたな、ボルドよ。まあ死ぬなら帰ってから死んでくれ……ぐあ!?」  ガルドと呼ばれた男がヘラヘラしながら瀕死のボルドへ声をかけていると、氷の矢が肩に突き刺さった!  「本当にしぶといですわね! 死にたくなければその子達を放しなさい!」  「くそ、この程度で諦めるか! サビンガ!」  ガルドが叫ぶと、斬り伏せられていたサビンガが二発目を放とうとしたレムルに体当たりを食らわせた!  「うおおお!」  「ああ!?」  「レムル!」  「わたくしはいいから矢をあいつらに! ≪氷傷≫!」  「ぐああああ!?」  レムルがサビンガに氷魔法を使いながらエリンに言う。たまらず地面に伏すサビンガ。  そしてエリンが頷いて空を見上げると――  「そ、そっか! ……い、いない!?」  「まさか!? 俺はずっと見ていたのに!」  「後だ! まだ遠くへは行っていまい!」  ニドが叫ぶと、シーフのアルが駆け出した! それを追って、グランツとニド、エリンも走り黒ローブを追う。  「……さっき倒れた黒ローブに話を聞いてみましょう」  「そうですわね……え!?」  サンがレムルを回復し、提案をしていると足元で倒れていたサビンガが土くれになって崩れ去った。  「どういうことですの……?」  「……何らかの口封じ、もしくは魔法生物だった……?」    薄気味悪いものを感じたレムルとサン。  ――捜索も虚しく、黒ローブ達はトレーネ達を連れてまんまと逃げ去った。彼等は『最後の生贄』と言った。恐らくもう誘拐をすることはない。  手がかりを失った。  それに一般人も巻き込まれてしまったと、唇を噛むグランツ。今は現状報告をするため、ユニオンに戻ってきていた。  「……今から付近を捜索する。このままじゃ攫われた五人が危ない」  「俺も手伝うぜ。イレギュラーごときで不覚を取った……すまない」  ニド達も険しい顔でグランツに賛同し、頷く。  そこにミルコットが慌ててパーティへ声をかけてきた。  「み、みなさん! トーベンさんから伝達です! 『海底洞窟にアウロラ様の封印があると王子から伝言があった。王家の別荘の近く、と言えば分かるだろう、これを燃える瞳とブルーゲイルに伝えてくれ。ペリッティが先行しているから合流を頼む』だそうです」  「ペリッティさんが動いているのか……しかし、アンリエッタさん達も放っては……」  グランツがそう言うと、ニドが肩を叩いてグランツへ言う。  「いや、あいつらは『生贄』と言ったな? ……エリアランドでアウロラの封印が解けた時は一人犠牲になりそうなヤツがいた。もしかすると攫った子供で封印を解こうとしているのかもしれん」  「なら、海底洞窟に行けば助けられる……?」  「闇雲に探すよりはマシかもしれん程度だがな。別荘とやらの場所を教えてくれ、すぐに向かう。封印が解かれて化け物が出る危険もあるしな」  ニドがミルコットへ尋ねると、グランツが顔を上げて口を開いた。  「俺が案内する。一か八かだけど、その策に乗ろう!」

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