アニマルセラピー

馴染みの店員の詩歩ちゃんと一ヶ月ぶりに再会を果たし、みさの士気はギシギシ音が鳴るほど上がったみたい。詩歩さんは田舎の両親に会い、しばらく2歳の息子といたようだ。 もちろん旦那はいない。いてほしいがいない。 「あの、ここの猫カフェすごく好きなんですよ!!」  みさが店内じゅうに響くほどの声で言うから、申し訳ない気分になる。 「ありがとうございます。そんなにはしゃいでしまうくらいなんですね」 「もっとカフェのこと知りたいんですけど、どこまで教えてくれます?」  弾んだ調子でみさは聞いた。 「今日たまたまオーナーが来てるんですが、会ってくれると思います。休憩室でお待ちしていただけますか?」  トントン拍子に話が進み、私が置いてかれっぱなしのままで盛り上がっていった。  その時、左斜め後ろから猫のうなり声が聞こえた気がしたので、振り返った。  虹色のキノコ型の足場がいくつも連なったキャットタワーの二段目と五段目に似た模様の三毛の姉妹がいた。足場を黒い猫が昇ろうとしたところ、不満げに二段目の猫が唸った。 きしゃあと強く鳴き、猫パンチをお見舞いし、黒猫は反撃に出た。  ケンカを止めようと猫じゃらしを持ったメガネの男の店員がやってきたのだけど、猫たちに全く無視されてしまっている。  おろおろと困り顔で立ち尽くしている。  すると、茶髪のシニヨンの女の子がぱっと現れ、 「ここは私がやっておくから裏からトイレの砂持ってきてくれない?」と言った。  オーナーが来るまで、休憩室で待たせてもらう。  休憩室では来原くんが人の赤ちゃんを精いっぱいの猫なで声であやしつつ、ミルクを与えていた。  先ほどの店員が 「集都くん、君のママ仕事中だけど、おとなしくしててね」と言った。  私たちは互いに自己紹介しあった。  メガネの店員は来原くんで、シニヨンの店員はリナちゃん。  来原くんはニート生活を3年間ほど続けて、ある日喉の異物感を感じて病院に行ったが身体に異常は全くなく、ストレスが原因と言われたらしい。 「私は高校途中で辞めて彼氏とくっついたけど、シブい未来が待ってるとは思わなかった」  リナちゃんは言った後に身震いした。 「一番元気がない頃、店にもほとんど出れる状況じゃなかったッスもんね」 「あいつったら、しょっちゅう嘘もつくし、待ち合わせにも遅れてくるし、お金貸してって言って、ギャンブルに使うし、ろくな人じゃなかった」  思い出したら怒りが再燃したのか、リナちゃんの顔が睨むような表情に変わった。 「またたびで猫を引き寄せるように、良い出会いを引き寄せられたら生きやすくなるんですかね」  そう私が願望を口にしたところ、沈黙が広がった。スベってしまった。 「なんか来原くんって彼氏と対極すぎて、外国の猫を見てる気分になる」  言い得て妙な例えをするものだ。 「変なこといいますね。どこらへんでそう思ったの」 「優雅でのんびりした感じ」  リナちゃんはぷっと吹き出して笑った。 「でも来原くんも最初の頃はクレーマーにガチヘコミして、小声でぼく遠吠えしたい気分ですよって妙な愚痴を言ってた頃が懐かしいな」  リナチャンの言葉を聞いて、来原くんはすごく恥ずかしそうな顔をした。 「うっ、恥ずかしい昔話をするなあ。今まで何やってもあまり長続きしなかったけど、これはけっこう続いてる。バイト中に失敗しても猫見てると疲れも悲しみも吹き飛ぶ」  来原くんは猫の顔を眺めながらつぶやくように言った。 「わたし、小さい娘に延々と愚痴を垂れ流していたけど、猫を飼うようになってから和やかな雰囲気の時間が増えた気がする」  打ち明け話をしていると、詩歩さんが現れた。 「だいたいこの時間帯にオーナーが来るんです。お待たせしました」  詩歩さんは私たちにそれを知らせると休憩室から出ていき、再び店に戻った。

ブックマーク

この作品の評価

0pt

Loading...