困り果てたお客さん

 広い海が見渡せる岬の上に、『うみのねこ』という料理店があります。  お店を切り盛りするのは、アラシとナギという双子の猫です。  兄のアラシは長いかぎしっぽ。妹のナギは短いポンポンのようなしっぽ。  『うみのねこ』にはメニューがありません。お客さんが食べたいものを作って出すのです。  さあ、今日はどんなお客さんが来るのでしょう。  お正月がすぎたばかりの、しとしとと小雨の降る朝でした。 「失礼、ここが『うみのねこ』という店でしょうか」  そう言って店に入ってきたのは、ヒキガエルの忍者でした。黒い忍者装束に身を包み、ぎょろりとした目がぬめぬめ光っています。怖そうな顔でしたが、とても丁寧で静かな声でした。 「いらっしゃいませ」  アラシとナギが席に案内しようとすると、カエルは首を横にふりました。 「予約をお願いしたいのです。今夜、お殿様をお連れするので『くじ』を用意していただきたい」 「くじ?」  アラシとナギは思わず顔を見合わせました。 「すみません、僕たち『くじ』なんて料理は知らないんですが、どんなものですか?」 「料理ではありません。くじ引きですよ。当たりが一つだけ入っている、くじです」  ナギが困り果てて言いました。 「ここは料理店なんです。くじなんて作ったこともないわ」 「なんと! 客の欲しいものをなんでも出すという噂を聞いてやってきてみれば、料理店ですって?」  ヒキガエルはナギよりももっと困り果てた顔になってしまいました。見かねたアラシがそっと声をかけます。 「どうしてくじなんですか? よければお聞かせください」  ヒキガエルの忍者は「お恥ずかしい話ですが」と前置きをしてから、話を始めました。  ヒキガエルの話はこうでした。  カエルたちにはお殿様がいて、すべてのカエルを治めているのだそうです。今のお殿様はトノサマガエル。ウサギと相撲をして勝ったという立派なカエルです。  お殿様というのは、お正月のくじ引きで決まります。次のお殿様になりたいカエルはくじを引き、当たりを手にした者が新しいお殿様になるのです。毎年、俳句が得意なダルマガエル、気象予報士のアマガエル、お相撲さんのウシガエルがクジを引きにやってきます。 「ところが、何年やっても、どんな順番で引いても、必ずトノサマガエルが当たるのです」  ナギがきょとんとして言いました。 「やっぱり、トノサマガエルだからお殿様って決まっているの?」 「いいえ、くじは平等です。今年もトノサマガエルがくじを当てました。しかし、あまりにもトノサマガエルが当たり続けるので、他のカエルが『ズルをしているんじゃないか』と文句を言い始めたのです。くじをやり直そうと騒ぎ立てまして、困っています」 「ううん」と、アラシが首をかしげます。 「どんなくじ引きなんですか?」 「箱に木の棒を入れておくのです。そのうち、印のついた一本を引けば当たりです。もちろん、中身は見えないようにできています」  そこでヒキガエルは頭を抱えてしまいました。 「くじを作るのは私の仕事なのです。トノサマガエルに当たりを教えているんじゃないかと疑われてしまいました」 「ははあ」と、ナギが頷きます。 「それで誰がお殿様になってもいい私たちにくじを用意してもらおうとしたのね」 「そうなんです。しかし、まさか料理店だったとは」  しゅんとうなだれたヒキガエルは、かわいそうなほど落ち込んでいました。 「よし、なんとかしましょう」  アラシが長いかぎしっぽをピンと張って言いました。 「僕らがくじを作りましょう。今日の夜、お待ちしておりますよ」 「本当ですか? ありがとうございます!」  ヒキガエルはにっこり笑い、懐から小さな包みを取り出しました。 「これはお礼の品です。どうぞ、よろしくお願いします」  そっとアラシの手にそれを渡し、ヒキガエルは音もなく扉の向こうに消えていきました。 「お兄ちゃん、どうするの?」 「だって、あんなに困っているんだから、放っておけないじゃないか。どうするかはこれから考えるさ」  呑気に言うと、アラシはヒキガエルの置き土産に目を落としました。葉っぱとツルで綺麗な小包のようにしてあります。中を開くと、小判が三枚。どんぐりみたいな大きさです。 「うわぁ、綺麗」  小判を見ていたナギが、ふと顔を輝かせました。 「そうだ、当たりを包んだ料理を作ろうよ」 「ナギ、それはいいね。今日は寒いから、ロールキャベツなんてどう?」 「お兄ちゃん、それはいいわね。トマトソースがいいわね」  さあ、メニューが決まりました。

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この作品の評価

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すごく可愛らしいお話でした。 ねこのきょうだいや、カエルたちの様子が目に浮かぶようです。 擬音や、カエルたちの歌声も、ちょど良い感じで入ってきます。 『うみのねこ』で繰り広げられる物語を、もっと読んでみたいと思いました。 猫に小判にも思わず笑いました。すごい伏線ですね。 小判のチョーカーを首につけた猫のきょうだい。見てみたい! 絶対可愛い。 素敵なお話、ありがとうございました。

2019.08.04 09:51

観月

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