Milk Shakies〔ミルクシェイキーズ〕 | 第1章 気弱な男子と告白推進委員会の大人たち
こにーびー!

2話 市谷綾乃は困惑する。

「桐弥、おはよう!昨日はありがとう!すごい楽しかった!!」  うお!?びっくりした!? 「一葉《かずは》か。おはよう。」 「ねぇ桐弥。レース用のバイクってすごいね! ブーン!ってやるとさ!なんかこう…お腹の下の方が震えるみたいな感じがして!」  楽しかったか? 俺はその後の、一葉との会話の方が楽しかったけど…。  昇降口付近で、一葉と話をしていると突然、俺の肩に平手打ちが来た。 「邪魔だ嗚咽《おえつ》谷《がや》!」 「痛て! 胡桃《くるみ》テメエ!」 「聞こえなかったか?邪魔だ嗚咽!」  コイツ!市谷《いちがや》の市どころか、谷まで無くなっているじゃねえか! 「おはよう、一葉。嗚咽と一緒にいると、一葉まで嗚咽《おえつ》顔《がお》になるよ。」そう言って、胡桃は 一葉の手を握り、下駄箱へ引っ張っていく。 「ちょっと胡桃!もう…。ごめんね桐弥。」一葉は俺に手を振り、胡桃と下駄箱に向かった。  何で一葉が謝るんだ?悪いのは胡桃だよな…。  上履きに履き替え、教室に向かう俺。  2階に到着すると、バッグを持ったままの一葉が、友達と何やら話をしている。  アイツは確か、化学部の部長をやっている、笠原《かさはら》だったな。1年の時、同じクラスだったけど、テンションのアップダウンの激しいタイプだったような…。  一葉って、笠原と仲がよかったのか?笠原って、ガチのBL好きだったよな…。もしかして、一葉も同じか?  そんな事を思い、二人をチラチラ見ていると「あ!来た!」と言いながら、一葉が俺の所に駆け寄って来た。 「胡桃の事だったら、いつもあんな感じだから、気にしてないぜ。」  俺がそう言うと、「あはは!そうだよね。って、違くて!」 「ん?」  ナニナニ?そんな真っ赤な顔をして。 「今日、一緒に帰れるかな…と思ってさ…。」 「え!?」 「やだ!そんなに驚かないでよ!」 「別に…。驚いていないし…。それじゃ、一緒に帰ろ。」  俺は平静を装ってはいたが、恥ずかしながら、心臓はバクバクだ。  これは来たか?アオハルか?  俺にも来ちゃったか? 「一葉、チャイム鳴るよ。」K組の入り口で、笠原が言った。 「やべ!俺も教室行かねぇと!それじゃ放課後、下駄箱で待ってるよ。」 「うん。ありがとう。」  俺たちは 各々の教室に向かった。  すると。 「市谷君?男女交際は禁止ですよ。」  美梨さんだ…。いちいち、うざったいな…。 「先生…。 別に…交際してませんが?」 「もう…。冗談よ。そんなに嫌な顔をしないで?  さあ、教室に入りなさい。今日は私が、福田先生の代わりです。」  ああ。そう言えば福田が昨日言っていたな。 「はい。」  ** **  放課後…。  ホームルームが終わり、俺は下駄箱に向かう。 「市谷君、ちょっといいかしら?」  美梨さん…。最近、何かと話しかけてくるな…。 「はい。何でしょうか?」 「生徒指導室に来てもらってもいい?」  マジか!? 「あの…。帰宅してからじゃ、ダメでしょうか?」  俺は小声で言った。 「親にお話しをする前に、市谷君、本人から聞きたい事があるんだけど。」  ああ。今週末のレースの事だな。岩手って、嘘ついたからな…。 「わかりました。それでは 一緒に帰る友人に、一声かけてから、すぐに行きます。」 「樋口さんかな?」 「はい。」  何なんだよ!うざいな! 「わかりました。それじゃ私は先に生徒指導室に、行ってますね。」  俺は先生と別れ、一葉のクラスへ向かう。  K組はまだホームルームだ。良かった。  廊下で1人、外を眺める。なんだか、彼女を待っているみたいだな…。  しばらく待つと、椅子を引きずる大音量が聞こえた。  ホームルーム終了だ。引き違いの扉が開く。ざわざわと出てくるK組の連中が、俺を見る。  俺がいる事に、興味《きょうみ》津々《しんしん》な女子たち。そんな中、一葉が、足早に教室から廊下へと出てきた。  そして、俺を見つける。 「桐弥?」  一葉《かずは》が、俺に話しかけると、女子たちのヒソヒソ話が始まる…。 「一葉、悪い。市谷先生に、生徒指導室に呼び出されちった。一緒に帰れねえや。」  教室の入り口から、ニヤニヤと俺たちを見る、K組の女子たち。 「じゃあ、待ってるね。LINE交換しよ。終わったら連絡ちょうだい。」 「え?待っててもらっても、いいの?」 「うん!待ってる!だからスマホだして、はい。ふるふる!」  おおー!初めて女子とLINEでつながった。 「それじゃ、しっかりと先生に指導されてきてね。」 「嫌な事を言うなって…。」  生徒指導室、か…。  マジで嫌だな、と思いつつも、ノックをする。  トントン。 「2-Gの市谷です。」 「どうぞ。」  部屋に入ると、隣の部屋からは 大声というよりも、怒鳴り声が、こちらの部屋まで飛び込んでくる。  隣は 生活指導室。ピアスでも見つかったのか? さすがの先生も、「すごいわね。」と言うくらいだ。  いわゆる、ドン引きのようす。だが、すぐに先生の目つきは変わった。 「ところで。今週末に学校を休むそうね? あと、名古屋なんでしょ?なんで私に嘘を言ったの?」  なんて言おうかな…。何を言ってもダメだろうな…。そんな事を考えていたが、先生の話は続く。 「名古屋での開催は 佐原《さはら》から聞いたんだけどね。たぶん、佐原は 住んでいるアパートの隣の居酒屋。砂川君の所に良く行くみたいだから、開催地は砂川君から聞いたんだろうけど。でも、綾乃《あやの》は知っていたのは 何でかな?」  妹は知っていて、自分が知らなかった事に対して、ムカついたのか? 「綾乃とは話なんてしていないですよ。アイツ、俺にはいつも喧嘩《けんか》腰《ごし》だし…。」 「そうね…。でもあの娘《こ》、お母さんに言ったのよ。あなたの事をね。それで、お母さんが落ち込んでいるの。」  その事か…。 「わかりました、正直に言います。今の俺の走りは 誰にも見られたくないんです。スランプとかじゃないんです。今回のレースで、何かをつかめなかったら、モトクロスを止めようと思っています。母さんにも、この事は近いうちに伝えるつもりでした。」 「そんな…。止めるって…。私じゃ、桐弥君の相談相手になれないの?」  先生、そんなに悲しい顔をしないで下さい。 「さっきも言いましたが、スランプとかじゃないんです。自分でもよくわからないんです。」  あなた達に、本当の事は言えないですよ…。 「わかりました。それでは帰っていいですよ。樋口さんと、帰るんでしょ?」  イラつく言い方をするな…。 「はい。先生の指導が終わるのを待っているそうです。」  俺も少し嫌味を言った。  すると、先生は机に肘をつき、頭を抱えている。 「それでは失礼いたします。」 「はい…。」  なんだよ、その返しは?  俺が悪いみたいじゃん!  というか、先生?もしかして落ち込んでいるのか?  本当にめんどくさい人だな! 「あの、先生。俺の事を気にかけてくれて、その…。こういう事を言うと、恥ずかしいですが、嬉しかったです。美梨さん、ありがとうございます。」  美梨さんは突然立ち上がり、俺の方を見る。俺の一言が嬉しかったのか、笑顔で「うん!」と言った。 「桐弥君。気をつけて帰るのよ。」 「はい、失礼いたします。」  下駄箱に行くと、一葉が笠原と話をしている。  そして、俺が来るのを見ると、「あれ?」そう言って、一葉は自分のスマホを見る。 「違うんだ。下駄箱に着いたら連絡をしようかなって…。」 「良かった…。スルーしたかと思った。」  一葉の、ホッとした顔に、気をつかわせている事がわかる。 「ははは!気にしすぎだよ。」 「だって…。」  下を向く一葉。そんな一葉に、笠原が言う。 「それじゃ、私は部室《ぶしつ》に戻るよ。」 「うん。ありがとう李衣《りえ》。また明日!」  笠原って、リエっていうのか。  笠原は一葉に、後ろ向きのまま、片手を軽く上げながら、部室《ぶしつ》の方へ歩いて行った。  駅のホーム…。  俺たちはホームで電車を待つ。  まだ4月だというのに、今日は蒸し暑い。  まるで梅雨時期のようだ。  まわりを見ると、制服のジャケットを脱いでいる生徒もたくさんいる。 「桐弥は暑くないの?」暑さで少し、赤い顔をした一葉が言った。 「なんだか蒸しているな。背中が大変な事になっている。」 「そうなの?顔は汗が出てないけど?」 「顔は汗があまり出ないな…。」 「なんと!?女子からすると、羨ましい…。キャッ!?」  一葉が話している途中で、下り線の電車が来た。  その風圧で、一葉の髪がフワっとなる。  手櫛《てぐし》で、乱れた髪を直す一葉に、俺は見惚れていた。 「ちょっと…。見すぎだよ…。桐弥…。」 「な!? ごめん…。」  やばい!なんだか今の俺って、変態じゃん!?  電車に乗ると、車内はエアコンが効いていて、涼しい。  さすがに今日はクーラーが無いと厳しいよな。  一葉も、「ふー。」と言っている。  そんな中、俺は嫌な視線を感じた。  隣の乗車口付近にいる女子高の生徒達。  綾乃の通う、学校の制服だ。  嫌な視線の主《ぬし》。それは綾乃だった。  綾乃は俺をジィッと見ている。  見てるんじゃねぇよ!  すると、何を血迷ったか、綾乃は俺たちの方に歩いてきた。  そして、俺を嘲笑うかのように言う。 「もしかして、桐弥の彼女?可愛い娘《こ》ね。」 「なんだよ。外で話しかけるな。って言ったのはそっちだろ?」 「私から話しかけない。なんて言ってないじゃない? まぁいいわ、お姉ちゃんに報告だな。」 「もう知っているよ。」 「へぇ…。そうなんだ。それじゃ、お邪魔しました」  アイツなんなんだ?  綾乃が女子高の友人達の所へ戻ると、「うそー?」や「マジかー!」の連呼。  実際、こういう事態になる事は想像できたので、俺自身も外で綾乃に話しかける事は無かった。 「桐弥…。ごめんね。」 「は?何?こっちこそごめん!ちょっと、ここじゃ言いづらいから、駅に着いたら説明するよ。」 「えっ?いいよ…。大丈夫だから…。」    そう言って、一葉は黙ってしまった。  下車駅の上中里に到着し、扉が開く。  一葉は突然、俺から逃げるように走り出した。 「一葉!?」  俺の呼びかけを無視し、一葉は改札を抜ける。 「待ってくれ!一葉!」  俺は一葉に追いつき、彼女の二の腕をつかんだ。  腕をつかまれ、驚いた顔をする一葉。 「うわ!? ごめん!」咄嗟にやってしまった事だが、女子の腕をつかむなんて…。  だが、振り向いた一葉の瞳からは大粒の涙が、所狭しとこぼれ落ちている。 「一葉、ごめん…。」 「謝らないで…。私、男の子と付き合った事とか無いから、わからないんだよ…。私の方こそごめんね…。桐弥に彼女がいるなんて、知らなかったんだよ…。」 「彼女なんていねぇよ!」 「だって…。さっきの娘…。あやのって、呼びつけしていた…。」 「あー。桐弥が女の子泣かしてる。これこそ、お姉ちゃんに報告だな。」 「綾乃!! お前は来るな!!」  綾乃は不敵な笑みを浮かべて、一葉に近づく。 「一葉さんっていうの?初めまして。妹の綾乃です。  さっきは電車でごめんね。桐弥のデレデレした顔を見たら、イライラしちゃって…。」  鳩が豆鉄砲を喰らう。  今の一葉の顔は 正にそれだ。 「妹?」 「そう、妹。ちなみに、お姉ちゃんはコミュ英の市谷美梨先生。」 「お前!? 何を!?」 「別にいいんじゃない?彼女でしょ?家《うち》に来たら、どうせバレるじゃん。」 「そう言うことを言っているんじゃねぇ!まったく…。 こんなに涙を流しちゃって…。」  俺はバッグからティッシュを出し、一葉の涙を拭おうとした。 「おい!キモメン!?なにやってんだ!女子の涙をティッシュで拭くな!」  綾乃はそう言って、自分のハンカチで一葉の涙を拭ってあげた。  その後、俺たちは駅近のファーストフードでお茶をすることにした。  いわゆる、綾乃からの尋問だ。 「で?いつから付き合っているの?」足を組み、偉そうに俺たちに質問をする綾乃。 「綾乃ちゃん、あのね…。桐弥とは先週の土曜日に初めて話しただけだよ…。」 「は?」と言いながら、眉間に皺《しわ》を寄せる綾乃。 「本当だ。バイトの帰りに、公園で初めて話した。」と言う俺の返しにも、綾乃の表情は変わらない。 「は?」またもや、同じ事を言う綾乃。 「いやいやいや!!無いでしょ!?どこからどうみても、彼氏彼女でしょ!?」綾乃は背もたれにのけぞって、驚いている。  俺たちはというと、綾乃の言葉に照れた?というか、恥ずかしさから、お互いに下を向いてしまった。 「ちょっと!?二人ともマジか!?マジでマジカル!!」綾乃が支離滅裂な言葉を発した。 「あの…。」一葉が話を始めようとすると、綾乃はテーブルに身を乗り出してきた。  さすが女子。恋バナが好きなようである。 「あのね…。桐弥のことは前から知っていたよ。私がフェイレイ…。あっ、うちの犬ね…。夜にフェイレイを連れて公園にいると、桐弥がバイトの帰りに通っていたから…。」 「はあ。」あきれた相づちを入れる綾乃。 「だってさ!同じ学校の制服で、学年カラーも一緒だから!気になるじゃない?」  赤い顔をして、目は焦点あってないし…。もうコクっちゃえよ!   ↑ 綾乃、心の声。 「そ、そうだったんだ!?へー!俺もさ、夜なのにさ。なんか心配じゃん!?的な感じで、一葉のことは見ていたんだよね!アハハ!」  桐弥さん?頭は大丈夫ですか?今、コクってましたよね?一葉ちゃんがコクってたのと、同じ事を言ってましたよね?  ↑ 綾乃、心の声。 「あっ!やべ!そろそろバイトだ!行かなくちゃ!」 桐弥さん?棒読み…。  ↑ 綾乃、心の声。 「そっかー!バイトなんだね!あ、あのさ。今夜も会えるかな?な、なぁんちゃって。えへへ!」  一葉ちゃん?あなたまで棒読みですよ?  ↑ 綾乃、心の声。 「ぜんぜん平気だよ!俺疲れないし?的な?」 「じゃあ、公園にいるね!フェイレイの運動だし?みたいな?アハハ!」 「それじゃ帰ろうか?綾乃は?」 「いい…。も少しいる…。」 「そっ、そか!それじゃお先に!」 「はあ。」 「あ、綾乃ちゃんそれじゃ!」 「はあ。」  なんだ?あの二人は…。  付き合っちゃえよ…。

ブックマーク

この作品の評価

120pt

最後まで読みました! まずは完結までの執筆、お疲れ様でした。 沢山の登場人物たちが織り成す人間(恋愛)模様が、次に何が起こるのか予想がつかず、ハラハラドキドキで面白かったです。 最後は見事に大団円でしたね。

2019.11.19 09:50

皐月原 圭

2

「最終話 #2」読破しました。あまあまあまあまあま甘ですなぁ~b

「最終話 #1」読みました。激甘ですなぁ~

2019.10.25 15:07

皐月原 圭

2

我輩も最新話まで追いついたでありんす、惹きこまれる物語でいつも楽しませてもらっています、続きを楽しみにしていますb

最新話まで、ついに追いつきましたよ。 さて、キャンプは波乱の予感。どうなるのかな? 楽しみです。

2019.10.18 11:24

皐月原 圭

2

Loading...