幕間①シルフィドの投擲……その先へ

 両者の間に緊張が走る。  シルフィドが手にしたナイフ。  太陽の光に反射して白刀の輝きを放つソレ。  ずっしりとした投擲用のナイフは肉厚の刃。  斧や鉞のように切れ味と有した鈍器の如く敵をなぎ払う事すら可能だろう。  ただ、泥棒を捕まえるだけ……そのはずが命のやり取りへ舞台ステージが変わった。  一瞬の静寂。両者共に汗が流れ落ち―――― 先に動いたの獣人だった。  蹴り上げるような動作。 ワンテンポ遅れ、屋根から蹴り飛ばされた瓦がシルフィドを襲う。  それをシルフィドは白馬ごと飛翔して避けると同時に間合いを詰める。  だが、着地したシルフィドの目には何かが迫ってくるのが見えた。  それは獣人の爪。 五本の指から爪を発射させたのだ。  「クッ……」とシルフィドは切り払う。  しかし、その隙に獣人は距離を取り、そのまま駆け出した。  「アタイには、ここで捕まっちゃいけない理由があるんだにゃ!」  その言葉に秘めた決意は彼女にしかわからない物だろう。  何が何でも生き延びてやるという決死の覚悟。  対して、シルフィドが抱く殺めるかもしれないと恐怖からくる技の鈍り。  それらが、2人の実力差レベルを超えて、さらなる逃走劇を開幕させる。  獣人を追いかけながらもシルフィドは手にしたナイフから重さを感じる。  それは人の命の重さそのもの……  その迷いの差だろうか? 両者の距離はさらに広がりを見せる。  「――――ッ 狙いは末端。手か足を――――」  シルフィドは覚悟を決める。  ここで避けれれば逃げ切れられる。  ならば、獣人に最小限の怪我を負わせて……  だが――――  (ダメだ。そんな気持ちじゃ当たらない)   決めたつもりの覚悟が霧散していく感覚。  まるで精神が檻に囚われたようようだ。  自身と言うものが消失して……気がつけば手が震えている。  気がつけば「どうすれば……どうすればいいんだ」と力なく呟いていた。  (ししょー、私は……)  シルフィドは自身の胸からガラスが割れたような音を聞いた。  何かが……いや、心が砕ける音。  心が負けを認めてしまった音を聞いたのだ。  だが―――― しかし―――― それでも――――  「投げろ!」  声が聞こえてきた。  それは、その声は――――  紛れもなく、助けを求めていた師匠――――ベルトの声だった。  しかし、声をするが姿は見えない。  一瞬、幻聴だろうか? と再び不安に襲われかける。  だが、今度はしっかりとした口調で――――  「投げるんだ。俺を信じて!」  その言葉に体内の血液が一気に巡る感覚。体温が上昇していくのわかる。  そして光を失っていたシルフィドの目に光が――――炎の如く爛々と輝きが灯った。  「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」  彼女らしからぬ咆哮のような雄たけび。  渾身の力を込めて投擲。 その手から、長い指からナイフが放たれた。  シルフィド、初めての投擲。  それは狙い通り一直線の軌道を通り、獣人へ向っていく。  しかし――――  「甘いにゃ!」  僅かに頭を下げるだけで軽々と獣人は投擲を避けてみせた。  「そんな大声をあげて、来るタイミングが見え見えにゃ。避けるなんて軽い軽いにゃ」  振り向いた彼女はニンマリと笑う。  だが――――  「いい投擲だ。狙い通りだぞ」  避けたナイフが進んだ先。そこに1人の男が立っていた。  見間違う事のない黒装束。 グリム・ベルトが立っていた。  そして、彼の手はナイフが握られていた。

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