幕間①ベルトとシルフィドのデート

   「……というわけだ。明日、俺をデートしてくれ」  辛うじて棒読みではないものの、感情の起伏が一切ないデートの誘いだった。  当然ながら、シルフィドも――――   「はぁ……どうして私と?」  困惑しながらの返事だった。  「理由としてはノエルが……」と正直にベルトは答えようとしたが、物陰から隠れた実妹からの視線……否。死線とすら言える凄まじい感情がベルトの後頭部に突き刺さった。  「そうだな」とベルトは少し考えてから――――  「マリアの命としてこの村に来てから、まだ間もないからな。町の案内もしなければなるまい」  そのベルトの言葉に「ナイスです!兄さん!」とノエルはご満悦だった。  そして、翌日。  「しかし、どうして同じ場所に住んでいるの、町中で待ち合わせを?」とベルト。  「デートとは、そう言うものなのですよ。兄さん!」とノエル。  それから「その服装は着替えてください」と付け加えた。  「むっ? この服装ではだめなのか?」  そういうベルトの服装は薬局の店舗に立つ時の普段着。  地味な緑色の服。 薬局の前掛けまで外していない。  「冒険に向うときの黒装束が、まだまともに見えるコーディネートですね」  「……そこまで酷いか?」  ノエルは、深々とため息をつく。  それから、「流行に興味がなくなったおじさんを具体化した感じですね」と言った。  「……そこまで酷いのか?」  「いえ、安心してください。いずれ、メイルちゃんかマリアさんとお出かけする時にと兄さんの服を拵えていました」  「なぜ、そこでメイルやマリアが出てくるんだ?」  それじゃ、まるでメイルかマリアのどちらかとデートとやらに行く事を想定していたみたいじゃないか。  その言葉を聞いたノエルはプルプルと震え始めた。  実の兄が朴念仁だという事は理解していた。そうなってしまった経緯もわかる。  家を飛び出し、迷い込んでしまった闇社会。  無骨な修行の日々。血で血を洗う殺人術。   愛し愛されたのは自身の弟子。 しかし、その弟子も結婚と共に失われて――――  しかし、そんな事は関係ない。  思春期の少女にとって恋愛とは神聖なものである。  ――――だから許せぬ。  だから、こそ……このデートは私の手で成功させる。  ノエルの瞳が怪しく光った。  ・・・  ・・・・・・  ・・・・・・・・・  ノエルがベルトに施したコーディネートは黒を基調としたシックな服装。  普段なら10代の少女との初デートに選択する服装ではない。  しかし、ノエルの読みは適格だった。  「あの、お待たせしました」  その声と主に現れたシルフィドの服装。  普段の純白の装備と同様に白を基調にして、それでいてドレスアップしている。  ベルトとシルフィド。 共に舞踏会へ紛れ込んでもおかしくはない格好だった。  「うん、似合っているな」とベルト。  その言葉にシルフィドも少し照れた表情を見せる。  だが――――  そんなベルトたちを背後から、見つめる3つの影があった。  その内の1人がしゃべる。  「服装の相性は完璧。でも、ノエルさん。あの服装でデートプランは大丈夫ですの? ベルトの事ですから、あの格好のまま大衆食堂へ行く可能性も……」  3人の内、1人はマリアだった。  「それはいくら兄さんでも……いえ、失念していました。相手はあのベルト兄さんです!」  3人の内、1人はノエルだった。  「……あの、皆さん。 もう少しだけベルト義兄さんの事を……」  3人の内、1人はメイルだった。  そんな3人の心配を他所へ、ベルトとシルフィドは歩き始めた。  3人は、慌てて後を追った。

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