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   4-3  早速、手紙を開くアンナ。 「おい、いいのかよ」とエリオット。野蛮な開け方に驚いた。 「これは私がもらった」 「どう考えてもカレンに宛てた手紙だろうが」 「けど私がもらった。読むぞ」   親愛なるカレンへ  君にこのような便りを出すことが、私にとってどれだけ辛いことかわかって欲しい。  私は知ってのとおり、善良な市民ではなかった。君と出会ってから、そうなろうと努力をしたが、私にはできなかった。私は自分がどこから来て、何をしていた人間が知っている。何もかもを変えるのは遅かった。私は悪人だ。変えることはできない。  ここで君に全てを打ち明けるのは、本当に辛い。だからあえてその全てを書き残したりはしない。私は職人見習いとなり、それから遍歴の職人としていくつもの街を旅してきた、そんな普通の男とは違うんだ。  私は悪人だ。  私は裏社会の住人で、教会の庇護の外にいる。そういう男だった。  カレン、君がこの便りを読んだなら、どうかすぐにこのマリアノフから出ていって欲しい。危険が迫っている。  くれぐれもサウスタークには行くな。私がすでに死んでいるのならば、奴らは君を知っている。可能ならばサンバンス大陸のイズールに行くといい。あそこは温かい。 私には信仰がなかった。だが君のためなら喜んで祈る。カレン、君にラナ様の加護があらんことを。私の子供をよろしく頼む。愛している。  いつかまた、もし叶うならまたいつかどこかで会おう。                          エドゥアール・ウィッグ 「泣ける手紙だな」  アンナは笑う。 「あんたには人情の機微ってもんがないのか」とエリオット。 「お前は泣いてるのか」 「いや、さすがに泣いてはいないけど、感動はしたさ」 「じゃ笑うのはよせ」 「マジかよ」  口元を手で隠した。 「お前は最低だ」 「カレンに渡すんだろ?」 「とりあえずな――、なんだ」  男が近づいてきた。  くすんだシャツによれよれのスボン、汚い靴を履いた男だった。髪は蔦のように丸まって縮れている。 「あんたら知り合いか?」と男はいった。  全く要領を得ない話し方だ。酔っ払いか。小便臭い。歯が黄色いし、歯茎は黒い。 「あっちいけ」とエリオット。  しっしっ、と追い払う仕草。 「エドゥアールの知り合いなんだろ?」  男がもうすぐ手前まで来る。「さっき言ってたのを聞いた。それにあの店から出てきた」 「どうやら私たちは友達になれるみたいだな」  アンナがいった。「何を知ってる。そして何を知りたい」 「酒が飲みたいんだ。買ってきてくれないか」  男はいった。  するとアンナは男の足をかけ、引っくり返し、そのまま地面に顔面を叩きつけた。 「図に乗るなよ」とささやく。「私たちと交渉できると思ったのか」  エリオットはこれに関しては正しいと思った。間に入って仲裁せずになりゆきを見守る。男は鼻血を出している。 「悪かった。ごめん、ごめんよ」  半べそをかいた声。情けない奴。  立たせて、路地に引きずり込んだ。  男はへたり込んで、地べたに座っている。 「あんた、名前は?」  エリオットがきいた。 「エノーだよ。あぁ頬がいてぇ。きっと骨が砕けてる」 「だったら鼻も砕いたほうがいいか?」  アンナが拳をなでた。 「いや、やめてくれ」とエノーはすっかり怯えている。 「エドゥアールについて知ってることをいえ」 「あいつは俺の従兄弟と仕事をしてたんだよ。けどある日、従兄弟は死んだ。殺されたんだ。エドゥアールは知らないかもしれないが、俺は知ってたぜ。俺の従兄弟が奴と仕事をしてたのをよ」 「嗅ぎ回ったのか?」 「借金で首が回ってなかった従兄弟がある日、羽振りがよくなったんだよ。借金も全部返済できたとかいってな。そんな夢のような話があるか。あいつは賭けが弱いし、そのくせ止められない性格だった。なのに借金を全部返済だって。不思議だと思わねぇか? だから俺は奴から色々聞いたのさ。酒をたんまり飲ませたら、よく喋ったよ」  エリオットと全く同じ境遇だった。止められない賭け、増える借金。 「その従兄弟はいつ殺された?」 「去年だよ。ある日、刺されてそのままいっちまった」とエノー。 「お前もこうなる運命だったのかもな」  アンナがエリオットにいう。 「いや、たぶんそうだろうな」  もしエドゥアールと仕事を続けていたら、いつか殺されていたに違いない。背筋がぞっとした。 「エドゥアールは死んだ」  アンナがいった。「どっかの誰かがお前の従兄弟の仇を取った」 「そうか――」  エノーは頷くだけだった。「それをきけてよかったよ。俺の従兄弟はいい奴だったんだ」 「貴重な情報だったぞ」とアンナ。  二人はエノーを置いて、路地を去った。    ■ 「これからの作戦が決まった」とアンナ。  居酒屋へ入った。注文を済まし、温いビールを飲む。 「鍵はなんのものかわかったのか?」  エリオットがそういってからニンニクを齧る。 「いや、まだだ。だがエドゥアールの手口がわかったろ。エノーの従兄弟とお前の共通点はなんだ」 「俺がいうのか?」 「自分でいえ」 「博打を止められない、借金苦ということ。この二点だ」 「ろくでなしの一言でいいだろ」 「説教かよ。勘弁してくれ」 「けど大事だぞ。エドゥアールはろくでなし共から協力者を探していた。だから、他に協力者がいるとしたら、同じろくでなしだ。賭場に出入りしてる負け犬を探す」 「そんなのたくさんいるぞ」 「お前はもう一つ大事なことを忘れてる。エノーの従兄弟は借金を返済したといってたろ? お前もその予定だった。つまりエドゥアールの協力者は借金を返済しているろくでなし、ということだ」 「だいぶ絞られたな」 「借金を返済したやつなら私が調べられる。相当な額を一括返済してきたろくでなしだ」 「組合があるのか?」 「非公式な集まりだよ。教会からの庇護は受けてない」 「待て。一つ疑問がある。エドゥアールはどうして殺す相手の借金を返済してやってる? どうせ殺すなら報酬を払わないほうがいいだろ」 「いい加減、自分を鏡で見てみたらどうだ?」 「どういう意味だよ」 「借金の返済をしてないお前がいることで、どうなってる。エドゥアールは死んだが、奴の裏稼業は私に探られて、全てが暴かれつつある。高利貸しってのは危険な存在だとエドゥアールは知っていた。だからこそ全ての厄介ごとを片付けてから、本人を始末してるんだ。余計な追い込みがかけられないようにな」 「なるほど。怖いな」 「自業自得だ。食ったら出るぞ。仕事だ」  アンナがエリオットのニンニクをひったくった。「高利貸し組合から情報を買う」

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