ケプラー22b | 第1章 査察団の到着
印朱 凜

ヘーベ

 船内が急にあわただしくなってきた。回転していた居住区も今、静かに止まったようだ。しまったな、飲み残したコーヒーが疑似重力を失い、ふわふわと宙を舞っているかもしれない。 「……ケプラー22b開拓移民団のコロニー都市は中央大陸の南方にあるオーミモリヤマ市ですが、一週間以上前から様々な通信を試みても全くと言っていい程、応答がありませんね」    何気ないスケさんの言葉に瞬間、心がぞわぞわし、青天に暗雲がたちこめるように不安感が首をもたげてきた。  過酷な異星の環境に耐えきれず、人類の植民は失敗してしまったのだろうか。だとしたら我々は、大量の白骨が転がる遺跡のような廃墟都市の第一発見者となる。  ここでマイナス思考の本領発揮!  ……行けども行けども、白いモヤの中から浮かび上がってくるのは、うつろで崩れかかった無人のビル群。カビ臭い埃が風に乗って舞い上がり、僕の白いツナギ服をこれでもかと灰色に染めあげてゆく。  生きている人間を探すのはもう諦めた。SF映画みたく、どこかに生き残った人々が、カプセルの中で眠っていると考えたものだが……。  白骨を集めて墓に埋めることも無駄な労力と断念する。一生かかっても全部処理することは、できるかどうか……。    拾い上げし少女のものと思われるドクロが、涙に濡れた両手の狭間から滑り落ちると、骨よりも白いコンクリートにキスをして数十の断片に砕け散った。  乾いた音が、誰もいない街に響き渡り、耳を塞ぎたくなるような砂嵐の悲鳴にかき消されていったのだ。      何らかの理由により全ての人類が死に絶えてしまった世界で、これからずっと永遠に一人と二頭だけで生きてゆかねばならないのか……。  補陀落渡宙なんか決心するんじゃなかったよ……。 「うわあ!」  カクさんの太い尻尾で顔を撫でつけられた。 「おーい、どこに行ってたんだオカダ君。うわの空になってたぜ」 「ちょっと近所まで……」  パック入りの水を飲んで一息ついた。心臓の鼓動と呼吸が競争を始めたように乱れまくる。  目の前を横切るスケさんは、無重力空間を犬かきで器用に移動しながら僕を一瞥するのだ。 「あまり考えすぎないようにね!」

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