風とちょうちょとシャボン玉

 きょうはとってもいい天気です。  ヤマボウシの|新《あたら》しい|葉《は》っぱは、|黄緑色《きみどり》にピカピカとひかっています。  まっ白なお花も、ぽっ、ぽっ、と、|咲《さ》きはじめたところです。  ヤマボウシの上を、|七色《なないろ》のシャボン玉が一つ、とんでいきました。 「わあ! いっぱいでたよ!」  マサキくんの|声《こえ》といっしょに、たくさんの小さなシャボン玉が、いっせいにヤマボウシの上をこえていきました。 「カレンも! カレンも!」  カレンちゃんは、パンダのシャボン玉セットを|取《と》り出します。  えんがわで、|小学校《しょうがっこう》からかえってきたマサキくんと、|幼稚園《ようちえん》からかえってきたカレンちゃんが、シャボン玉であそんでいるのです。  ママは|洗濯物《せんたくもの》をたたみながら、にこにこ二人を見ています。  |太陽《たいよう》は、カンカンとてりつけて、マサキくんとカレンちゃんのひたいに汗をにじませます。  すると|風《かぜ》さんが、二人のかみのけの|間《あいだ》に、すずしい風を|送《おく》ってくれました。  ピリリリリリ ピリリリリリ ピリリリリ  お|部屋《へや》のなかから|電話《でんわ》の音が|聞《き》こえてきました。 「おにいちゃん!」  ママがマサキくんに声をかけます。  ママが「マサキ」ではなく「おにいちゃん」と|呼《よ》ぶときは、だいたいおねがいごとがあるときです。 「ちょっと、カレンちゃんをおねがいね!」  ほらね。  ママはそういうと、あわててお家の中へ、入って行ってしまいました。 「わかった!」  と、マサキくんがお|返事《へんじ》したときにはもう、ママの|姿《すがた》はありませんでした。  マサキくんとカレンちゃんは、シャボン玉が大好きでした。  ですから、シャボン玉を作るための|道具《どうぐ》を、たくさん持っているのです。  |水鉄砲《みずでっぽう》みたいな形をしていて、引き金を引くだけで、たくさんシャボン玉が出てくる|道具《どうぐ》もあります。小さな丸がいっぱいついていて、|息《いき》を吹きかけると、シャボン玉がお団子みたいにくっついて出てくる|道具《どうぐ》もあります。  ママがいなくたって、ふたりでいくらでもあそべます。  ふたりはいろんな|道具《どうぐ》をつかって、さまざまなシャボン玉を作りました。  そうしたら、|風《かぜ》さんも|仲間《なかま》に入りたくなったのでしょう。つよい|風《かぜ》が吹いたかと思うと、シャボン玉がいっせいに向きを変え、お家の中へと入っていきました。 「あっ!」  二人は|声《こえ》を上げて、お家の中へ入っていったシャボン玉を目で|追《お》いました。  きゃー、あはははは。  |風《かぜ》さんのいたずらに、カレンちゃんはおおよろこびです。 「みろよ、カレン」  マサキくんが|指《ゆび》さしたのは、|縁側《えんがわ》におかれたままのせんたくものの入ったかごです。 「あ! カレンのパンツ!」  せんたくものの|一番上《いちばんうえ》には、カレンちゃんとマサキくんのとっておきのパンツがのっていました。  |二枚《にまい》のパンツの上で、シャボン玉が一つ、ふわふわとゆれています。 「シャボン玉も、ぼくのゴーゴージャーのパンツ、かっこいいって!」 「カレンのパンツのほうがかわいいよ。だって、ひらひらがいっぱいついてるもん。おにいちゃんのは、なんにもついてないじゃん」 「ばか! ゴーゴージャーがかいてあるだろ。カレンのパンツなんか、ただのまっしろじゃんか」  二人がケンカをはじめると、シャボン玉がぱちんと|弾《はじ》けてわれました。  二人はまたシャボン玉を作ります。  |今度《こんど》はちょうちょさんもいっしょにあそびたくなったのでしょう、黄色いちょうちょがひらひらと、シャボン玉と一緒に空をとんでいました。  しばらくするとちょうちょさんは、マサキくんのゴーゴーパンツにとまりました。  二人はちょうちょさんをおどろかさないように、目だけでパンツの上に乗るちょうちょさんを見てみました。 「ほらみろ、ちょうちょも、ゴーゴージャーのパンツがすきなんだぞ」  サマキくんは小さな|声《こえ》でいいました。 「ちがうもん! ちょうちょさんは、カレンのひらひらパンツとお|話《はなし》してるんだもん。そうだ、カレンのパンツはひらひらだから、ちょうちょさんといっしょにとべるんじゃないかな?」  カレンちゃんもいっしょうけんめい小さな声で言いました。でも、ついつい大きな声になってしまいます。 「へーんだ、パンツが空をとんだりするもんか」 「するもん! ひらひらおパンツだもん!」  その時です。  今までで|一番強《いちばんつよ》い|風《かぜ》が|吹《ふ》いてきたと思ったら、くるくるとつむじを|巻《ま》いて、ママのたたんだおせんたくものを引っかき回し始めました。 「ああっ!」  一番上に乗っていたゴーゴーパンツとひらひらパンツがくるくるくるっと空にとばされました。 「うわああああ、とんだあああ!」  二人のパンツはくるくるしたと思ったらひらひらひらっと落っこちてヤマボウシの木にとまりました。 「まあああぁぁ! たいへーん!」  |電話《でんわ》を|終《お》えたママの大きな声が、お|家《うち》の中からから聞こえました。 「ママ、ママ! カレンのひらひらパンツが、お空をとんだんだよ! ちょうちょさんと|一緒《いっしょ》にとんだんだよ!」  ママは「はいはい」と言いながら、お|庭《にわ》に出ると、ヤマボウシの木におっこちたパンツをひろっています。 「マサキ、とばされた洗濯物は、パンツだけ?」  マサキくんは「うん」と答えました。  ママは「汚れてないわね、よかったわ」とつぶやきながら、パンツをひっくり返したり、光に|透《す》かしたりして、じっくりながめています。  パンツが汚れていないことをかくにんすると「ふぅ」と、|肩《かた》をすぼめて、マサキくんとカレンちゃんをふりかえりました。 「ふたりとも、今日は暑いからおやつはアイスクリームよ。シャボン玉を|片付《かたづ》けて、手を洗ってらっしゃい!」  パンツをまた、おせんたくものの|一番上《いちばんうえ》にのせて、ママはお家の中へと|戻《もど》っていきます。  カレンちゃんは「おにいちゃんと、カレンのおパンツ、とんだんだもんね? ね?」  と、マサキくんを見上げます。  どう答えたらいいんだろう。  マサキくんはちょっとだけ考えました。  さっきはカレンちゃんと一緒にさわいでましたが、マサキくんはもう、パンツが一人で空をとんだりしないことを|知《し》ってます。  でも、カレンちゃんのキラキラの目が、みつめています。 「うん。でもさカレン、これはおにいちゃんとかれんの、ひみつ。な?」  マサキくんは|唇《くちびる》に|人差指《ひとさしゆび》を当ててみせました。  カレンちゃんは「ヒミツ!」というと、うれしそうに、お兄ちゃんのマネをしました。 「ふたりとも、アイスクリームとけちゃうわよぅ!」  ママの声がして、二人はあわてておかたづけをすると、家の中へと入っていきました。  おわり。

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