「オタク仲間?」

「お前、まだそんなの付けてるのかよ」 友達がオレのカバンに付いているストラップを見て言った。 ぶら下げていたのはオレが好きなゲームのキャラクターものだ。 「いいだろ別に。好きなんだから」 「そんなんだとモテないぞ」 そう言う友達のカバンには、ストラップにしては大き目なクマのぬいぐるみがぶら下がっている。しかも色はピンクだ。 「お前だってカワイイの付けてるじゃないか」 「これか?」 友達がニヤケて言う。 「彼女とお揃いなんだ。それぞれ色違いを付けてて、オレがピンク。彼女が青。いいだろ?」 「ハッ!のろけかよ」 鼻で笑い飛ばしたが、正直羨ましく思った。 友達は悟ったように言った。 「俺、もうアニメとかゲームとかそういうの卒業したから」 ついこの前まで一緒にアニメの話で盛り上がり「今期の嫁はあのキャラ」だとか言って、オレ以上にグッツを買い漁っていたヤツの言葉とは思えない。 カバンにだってクマのぬいぐるみなんかじゃなく、前は美少女キャラの缶バッチを人目をはばかることなく付けていたのに・・・・・・彼女が出来た途端その変わり様に驚きつつ、さみしさを感じた。 友達とは次第に疎遠になっていった。 そりゃそうだ。オレなんかといるより、彼女と一緒に居たいはずだから。 のめり込んでいた対象が2次元から3次元へと変わっただけかもしれない。 大人になっていくというのは、こういう事だろうか? 学校の帰り、バス停で一人バスを待ちながら考えた。 (好きなものを好きなままでいちゃダメなのか?) 今までそんな事、気にも止めていなかった。 気にしてこなかったのは2次元のキャラにばかりにうつつを抜かしてきたからだろうか。周りを気にする必要がないほどのめり込んでいたからもしれない。 友達に言われたからというのもシャクな気もしたが、オレはカバンからストラップを外した。 「私、ソレ好き」 いきなり後ろから声がした。 振り向くと同じ学校の女子が立っていて、いま外したストラップを指さした。 「そのゲーム、好きなの?」 (なんか、馴れ馴れしいな) その子はオレより一つ下の学年の子だ。学校が同じというだけで、知り合いという訳でもないし名前も知らない。なのに何の脈略も無く、喋りかけてきている。 「ああ・・・・・・知ってるの?このゲーム」 「うん、大好き!」 「良かったらコレあげるよ」 「いいの!?ありがとう!」 ストラップを受け取ると、その子は無邪気な笑顔を見せた。 話してみると彼女はいつも登校の時に、オレと同じバスに乗っていたそうだ。彼女もオタク気質な所があり、カバンに付いているストラップを見て同じ仲間だと思っていたらしい。 妙に馴れ馴れしかったのはオレの事を同類だと認めていた為の様だ。 少し話しただけで意気投合した。同じ趣味を持っているのだから当然だ。オレの方もゲームの話が通じる知り合いが出来たのが嬉しかった。 オタクを卒業してしまった友達の穴を埋めるように、その子がすっぽりとオレの心に入り込んだ。 (そうだよ!オレは同じ趣味を語り合える同士が欲しかったんだよ!) 彼女とはゲームやアニメといった同じ趣味のオタク仲間ではあったが、ジャンルは微妙にずれていた。 オレの方はゲーム中心。それに付随してアニメもかじっている程度だ。 彼女の方はコミック中心。そこから派生してアニメに詳しかった。 お互い好きなジャンルの事を教え合った。アニメの事はそれ程詳しくなかったが元々興味はあった為、彼女に詳しく教えてもらえるのは楽しい。オレの方もゲームについて熱く語った。 ただ、困った事もある。彼女は主に恋愛ものが好きで、BLもいける口だった。正直そっち方面はまったく理解できない。オレは対応に苦慮した。 しかし、せっかくできた同士を失う訳にはいかない。オレだって美少女モノが好きだ。彼女の方からしたら受け入れがたい事かもしれない。だからといって譲るつもりなどなかった。 お互いの趣向が分かってくると、そのうち相手の好きなジャンルをけなさない事が暗黙のルールになった。 ゲームオタクのオレは完全インドア派だが、彼女の方はアニメイベントにもよく参加し、オレもそのうち連れ回される事となった。 部屋に籠ってゲームをする事に至上の喜びを感じていたはずなのに、いつの間にかイベントに参加することも悪くないと思い始めている自分がいた。 (でもこれって、デート・・・・・・だよな) 彼女は同じ趣味のオタク仲間なのか?それとも恋人なのか?曖昧な関係が続いた。 恋人同士の様にいつも帰りのバスは待ち合わせして、一緒に帰るようになった。だが、帰り道に話す事といえばやはりアニメやゲームの話ばかりだ。 「先輩。今日、ゲームしに遊びに行ってもいいですか?」 「はぁ?お前なぁ、男の部屋にのこのこ付いてくるなよ」 「え~っ、別にいいじゃないですかぁ。私は気にしないし、そういう事。それとも先輩は意識してるの?私の事」 「バカか、何言ってんだよ・・・・・・」 意識しない訳がない。 ただ、彼女は見た目が好みのタイプじゃない。オレの好きな2次元キャラと比べること自体間違っているかもしれないが、特別美人というわけではないし、オタクであるという点を除けば至って普通の子だ。いや、どちらかといえば地味な方だろうか? しかし、先輩、先輩と犬っころの様に付いて回るところに可愛さを感じるし、何より共通の趣味を持っているので一緒にいると楽しく、同時に妙に落ち着く。 一度部屋に上げてしまうと、彼女は入り浸る様になってしまった。元々”オタク仲間は皆、同類”みたいな考えの子だ。人付き合いの距離感がおかしい。男の部屋だというのに遠慮がなかった。 「先輩っ、対戦ゲームやりましょうよぉ。負けた方は罰ゲームってことで」 「いいのか?そんな罰ゲームなんて決めて。ゲームをやり込んでるオレに勝てるとでも?」 本気でやるつもりなど無かった。機嫌を損ねて同士を失う訳にはいかないからだ。程々に負けてあげて花を持たせ、楽しくゲームできればそれでいい。 「お前、強いなーぁ。オレの負けだよ」 「なに言ってるんですかぁ?先輩が弱すぎなんですよ。フフフッ・・・・・・じゃあ、罰ゲームですよ」 「あんまり無茶なこと言うなよ?出来る範囲だからな」 「大丈夫ですって」 彼女は携帯を取り出し、何かを検索し始めた。 「これがいいかな・・・・・・ハイ!先輩」 見せられた画面に映っていたのは、彼女の好きな作品の主人公がキメ台詞を言っている場面だった。 「なんだよ?」 「このセリフを言うんですよ。恥ずかしがっちゃダメですからね?ちゃんと心を込めて言ってください」 「はぁ!?バカか!そんなクサイ台詞言えるわけないだろ!」 「ダメですよぉ、罰ゲームなんですからっ!」 (くそっ・・・・・・なんだよこのプレイ) 友達同士でふざけあってアニメのセリフを言う事はある。だが、彼女が選んだセリフは恋愛ものに出てくるイケメン主人公が告白する時のセリフだ。オレなんかが言っても歯が浮いてしょうがない! 「ほら、早く」 彼女はニヤニヤしながら待っている。 こういうのは恥ずかしがって長引かせるほど、余計に気まずくなるだけだ。オレは意を決して言った! 「こんな気持ちになったの、お前が初めてなんだ。」 「私もです。」 彼女からはその作品に書かれていない言葉が返ってきた。

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