第百十一話 帰ってきたあの人

   「とりあえずクロウ達は一緒に戻るってことでいいのか?」  「ああ、僕達はエリアランドの封印を解くということを依頼されていただけだからね。戻れるなら一緒に戻りたいところだよ」  「こっちとしても死にかけたわけだし、聖女様にお話を聞かないと納得はできないしね」  レオッタが肩を竦めて言う。  「まったくだ……知っていたなら最神官様も教えてくれれば良かったものを……」  大男……名前を聞いてないなそう言えば……が、ぶつぶつと呟いていた。  ……気絶している男ですらトロベルという名前を知っているのに。  まあ別に気にならないのでいいか。今更聞くのも恥ずかしいし、そのうち誰か言うだろ。  「で、エルニーに着いたらどうするんですか?」  ルルカが御者台にいる俺に近づいて来て尋ねてくる。そうだな、今言っておいた方が後々楽になるか。  「ティリア」  「はい。まずは私達が出発した港町フルスへ向かいます。そこから出ている船でアウグゼスト行きの船に乗り換え、リファとルルカはそこから城へ行き、国王様へ状況を報告しに戻ってください」  「は……? え!? も、戻るんですか!? 私達も行きますよ!」  「リファ、手綱手綱!?」  びっくりして立ち上がるリファを慌てて座らせると、ルルカも横から口を尖らせて言ってくる。  「ボクはカケルさんと一緒に行くって言いましたよね? それにリファと戻ったらボクがあの兄上に怒られるじゃありませんか!」  そこかよ……よほどか? と、思いながら俺がティリアに代わり説明をする。  「リファは王女だ。国王に今回の件を話すのはうってつけだろ? それに封印について探すなら賢者であるルルカの人脈を期待すると考えれば最適だと思う」  「まあ確かにそうだけど……」  「世界の危機なら仕方ない……いや、しかし……!」  渋々と納得しつつある二人をよそに一旦野営を挟む。  食事は俺の記憶から作った野菜たっぷりの豚汁とライスを振る舞った。  「これも美味しい……やはりカケルと離れるのは……」  「(お嬢様もいつカケルさんに惚れるか分からないし二人にさせるのは危険だよねえ)」  リファがぶつぶつと、ルルカが俺とティリアを交互に見つつ、とりあえずは大人しくしてくれているようで何よりだ。  「……僕はもう一杯欲しい」  「お、食え食え。食材はあるからな。ティリアを見習え」  「はい! やっぱりカケルさんのご飯は美味しいですね!」  そう言うティリアはもう6杯目である。食いしん坊魔王は容赦がなかった。  一応、トロベルは目を覚ましてご飯に参加したものの、死にかけた以外の情報は無かったので割愛しておく!    そして久しぶりに港町へと戻ってきた。  「やっぱ行ってたか」  「仕方ないです。とりあえずフルス行きの便の時刻を調べましょう」  「あ、それなら任せていいか? 俺はちょっとユニオンに用事がある」  「分かりました。それでは私達も後からユニオンへ向かいます。リファ、ルルカ、行きましょう」  「はーい……」  「……さて、どうする……密航……ぶつぶつ……」  覇気のない二人を連れてティリアは船着き場へと向かい、俺とデヴァイン教徒でユニオンを目指す。  「……ふう……やっと居なくなったか……」  「どうしたクロウ?」  「……なぜかボクに構いたがるんだよあの人達は……おかげでおっぱいが……お、おっぱいが……」  羨ましそうな悩みだが、13歳には刺激が強すぎたのかもしれない。しばらくそっとしておいた方がいいような気がする。ユニオンの扉を開けると、出発の時に居た受付のお姉さんを見つけた。  「帰って来たよ。イクシルは?」  「あ! お久しぶりです! マスターですね、少々お待ちください」  「あんた、ユニオンマスターとも知り合いなの? もしかして凄い人?」  「凄くは無いと思うけどな。お、来た来た」  レオッタの言葉を受け流しながら奥を見ていると、相変わらずの仏頂面でイクシルが歩いてきた。  「戻ったか、新い……いや、カケル。異種族狩りのオーダーが流れなくなったがお前達の仕業だな?」  「ま、そんなところだ。色々と面倒があったけど何とかチェルも親元に帰ったよ」  「……そうか、まあ私は恨まれているだろうから別にどうでもいいさ」  「本当は助けたかったんだろ?」  実際檻を仕掛ける際に複雑な表情を見せていたからな。仕事とはいえやりたくなかったのだろうと思っていた。  「さあな。それより、報酬だ。デブリンの素材を含めて10万セラだ」  俺に封筒を差し出し、中身を確認するとお札が10枚入っていた。ハインツ国王から50万もらってるから少なく感じるなあ……いつか大出費する時まできちんと取っておこう。  「で、イクシルだけに話したいことがある」    俺は今回の経緯を話しておくことにした。他言は必要ならばしてもいいという約束で。  そして女神の封印と破壊神については情報を集めて欲しいことを伝えて、ニド達にもお願いしていることを告げた。  「了解した。厄介ごとだが、見ぬふりも出来ん。何か分かれば伝えよう」  イクシルが忙しくなる、と、呟きながら引っ込んだのと入れ替わりにティリア達がユニオンに入ってきた。適当なテーブルとイスに腰掛けて船の時間を聞くことにした。  「どうだった? すぐ行けそうなのはあったか?」  「それが……三日後まで船がありませんでした」  三日か……たかが三日、されど三日。できれば急いでおきたいところにこれは痛い情報だ。とはいえ、船以外の方法は無いので待つ以外にないのだが……。  「仕方ない、とりあえずチケットだけ買って待つとしよう。お前達お金はあ「お兄さん、お困りのようですね……? るのか?」  と、俺がクロウ達に聞こうとした矢先、俺達の後ろに座っていた女性が割り込んできた。  「困っているけど、大した悩みじゃない。船がすぐに出ないだけだからな。よし、とりあえず宿も取るか」  俺はそう言って席を立とうとしたが、その女性に制された。  「船なら私が用意しましょう!」  「……はあ?」  俺が間の抜けた声を出すと、リファが女性に話しかけていた。  「個人で船を持つのは難しいはずだぞ? どうして貴女のような人が持っているのだ? カケル、行こう、めちゃくちゃ怪しい」  「あ、ああ」  全員立ち上がり、ユニオンを出て行こうとする  「あ、あー!? 怪しい者ではありませんよ! ……ですよねカケルさん」  「俺の名前を……?」  俺が振り返ると、女性はニヤリと笑いながら口上を始めた。  「ある時はドジっ子メイド……またある時は怪しい船の仲介人……しかしてその正体は!!」  自分で怪しいって言っちゃったよこの人!? そしてバサ! と、スカートをまくり上げた! 周りからおおー! と言った声があがる!   「お、お前!?」  「そう! 美少女大盗賊! その名もレヴナントちゃんです!」  出てきたその人物は、メリーヌ師匠との一件で敵かと思えば、俺の逃走を手助けしてくれたレヴナントだった! 相変わらず顔は隠していた。  「お前……!」  「ふふふ、驚いて声も出ませんか、お久しぶりで……」  「女だったのか」  ガクっと膝を崩すレヴナント。胸ないし、俺はてっきり男だと思っていた。  「どこを見てるんですか?」  「別に」  レヴナントがさっと胸を隠す動作をしながら言うが、俺はスルーした。そこにティリアが声をかけてきた。  「お知り合い、ですか?」  「知り合いといえばそうだな。自分で名乗ったから紹介は要らないと思う」  「してくださいよ!? ……まあ、これから一緒に行動するわけですし、その辺りは後々で」  「そういや船を持っているのか?」  俺が聞くと、レヴナントは待ってましたとばかりに  「ええ! 盗賊稼業だけではやはり難しいので、次は海賊かなと思い、買ったんですよ! ダーリンなら特別価格10万セラでレンタルしましょう!」  「あ、金はとるんだ」  テントとか一式を調達してもらった時にも請求して来たし特に違和感はない。しかし渡りに船とはこのことか、直行できるなら10万セラくらい安いものだ。  「ダーリン……?」  「気にするな、あいつの冗談だ」  「んふふ♪」  若干何名か不穏な空気に陥るが、ややこしくなる前に宥めておく。そのまま俺はレヴナントへ告げる。  「10万セラ払おう。行き先は……」  「アウグゼスト、ですね?」  「む……」  「実は最初に送ったメリーヌ女史と連絡がつかなくなりましてね。部下を通じて連絡はもらっていたんですけど、丁度、一週間前にぷつりと。カケルさんにお知らせしようと思いましてね。で、フエーゴ行きの船がぽしゃったと聞いたのでカケルさんがここに居るかもと思ってきたらビンゴというわけです。そして連れているのはデヴァイン教徒……となると次の目標はアウグゼストですよね?」  口元をニコリとさせてレヴナントが笑う。どこかで見ていたのか、というくらい予想がしっかりできていた。  「お前の予想通りだ。メリーヌ師匠と連絡が取れなくなったというのも気になる、急げるか?」  「はいはいー♪ 勿論ですよ! 港には停泊できませんからボートで船まで行きましょう、こちらです」  俺達を案内しようとしていた矢先、よく見れば冒険者達がこっちを見ていることに気付く。何やらぼそぼそと喋っているのを耳を澄ませて聞いてみると……  (今、あいつ大盗賊とか言わなかったか?)  (マジで? 手配中の?)  (捕まえたら100万セラじゃなかったっけ……?)  (間違いならそれはそれで……とりあえず捕まえてみないか)  俺はスッとレブナントから離れた。  「あれ? どうしたんですかカケルさん?」  「……いや、とりあえず外に出たら何か変装した方がいいぞ」  「? そうですか? やっぱり美少女は目立ちますからね!」    ――その後は大変だった。  外に出た途端、冒険者がレヴナントに襲いかかり阿鼻叫喚の地獄絵図。もちろんレヴナントが捕まるわけはないのだが、俺達が仲間だと認定され、俺達も追われる羽目になったりした。イクシルが諫めてくれてその場は何とかなったのはまた別の話。  何はともあれ、俺達は船を手に入れることができたのである!

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