少女たちは夢をみる | マリーゴールド
kuma

「ほとんど全部話しちゃったけど、あの子見込みでもあったの?」 「いや、ないよ。だからこそ話した」 マリが帰ったあと、冷めた紅茶をマユが入れなおした。この時間に飲むマユのいれた紅茶がユリは大好きなのだ。 「あの子の”少女”である時間はそう長くない。すぐにSも必要なくなる」 「そうなんだ」 マユは庭の手入れをしている。ユリが座っている窓辺から庭は一望でき、窓辺でこうして語らう時間が2人にとっては安らぎの時間だった。 「そういえば、マリーゴールドって意外な名前だったなあ。マリちゃんって育ちも良さそうだしもっと可憐って感じのイメージの名前想像してた」 「あの子は育ちがいい、確かに」 ユリは目を細めて言った、それが鼻につくと。 「私は男を虫に例えたんじゃない。私自身が虫なのさ」 自分のような人間には鼻につくにおい。近寄りたくない。 「なんの不自由もしてこなかったんだろうな、親にも愛されて友達にも恵まれて。勉強もほどほどにできて、家も裕福すぎず貧乏すぎず」 「うらやましい?」 「羨ましい、か。そうかもな、誰もが理想とする人生だ。でも私は今の私が好きだから」 とても綺麗なマリーゴールド。大きな花を咲かせ、見た目にはとても色鮮やかでさわやかな華々しさがある。しかしその独特の香りを好まない人も多い。花の根などにも虫よけの作用があり、害虫除けとしてガーデニングの花に選ばれる。 「昔とある植物学者がこう言ったそうだ。その見た目の美しさがなければ庭に植えることはないだろうと」 私にはその気持ちがとてもわかるよ。と言うユリに、マユは小さく笑った。 「今あの子の情緒が不安定なのは、受験のせいで周りの精神バランスが崩れているし本人も受験の当事者だからだろ。その影響にすぎない。その精神バランスを保てる理由さえできればあの子はすぐ日常へと戻れるさ」 「綺麗に咲くといいね」 「咲けば長い花だ。よく手入れして育ててやらないとな」 マリーゴールド、マリはそれから毎日のようにSの家に訪れるようになった。Sの家には少女としての目覚めが早い者だと小学生の者もいる、中学生に入ったばかりの少女たちもいた為マリはよく勉強を教えた。 そんなに入り浸って家族や塾は大丈夫なのかと尋ねると、話はつけてあるし勉強にも問題はないと言う。マリーゴールドの花は植えることで周りの植物へ良い影響があるとされている。その名にふさわしい少女だと周りは喜んだ。 「ほんま、マリちゃんはええコやなあ」 夜8時。今日はSの家にはユリ、マユ、マリ、そして食事係のウォンがいた。 「私が見込んだだけある」 「あんたはただみえるからって連れてきただけやろ」 呆れたように言うセリだがそんなこと全く気にはしないユリ。2人の会話に残りの2人もくすくすと笑う。 「ユリさんって、ずっとこんな感じなんですか?」 「そやねん。私がここに通い始めたのは2年ぐらい前なんやけど、もうその時にはこんなんやったわ」 「私も会った時にはもうこんな感じだったかな」 3人の視線もなんのその、ユリはいつも通り窓辺でパソコンを見ていた。 「ユリってあんな話方じゃない?やっぱりとっつきにくいっていうか、ものすごく変わり者なの」 「そんな所が好きなんだろ」 「はいはいそうですねー、ごちそうさまやわ。全くこの2人はいつもいつも…あ、ところでマリちゃん所の夢ってどないなっとん?もう2週間くらいになるやんか」 「ああ、まだ鎮めていない。私の存在を知ったからな、迂闊に顔を出せんのだろうよ」 実はマリとユリが出会ってからそこそこの日数が経っていた。ユリの計画では次にあの夢が顔を出したときに片を付ける予定だったのだが、夢が警戒してなかなか出てこないでいた。 「こっちからは干渉できないんですか?」 「できん事もないが余計な体力を消耗する、私はそんな無駄なことはしたくない」 「めんどくさがり屋っちゅーこっちゃ」 しかしそろそろそこにばかり手を焼いているほど暇でもない。他のところも手は打っているが、集中して潰したいところもいくつか出てきたので諦めて本腰を入れるべきかとユリはため息をついた。 「あ、」 その時、不意に携帯が鳴った。マリのものだ。 「迎えが来たので、今日はこの辺でお暇しますね」 「お母さん?ここまで迎えにきてくれてるの?」 「いえ、これから塾なので同じ塾に通う子が迎えに来てくれてて」 「さよかー、気ぃつけていかなあかんで」 「はい」 身支度を済ませるマリだったが、思いついたようにユリが問いかけた。 「なあ、最近夢を見たか?」 「え?あー、えっと、あれっきり見てません」 「気配は?」 「そういえば、感じません…けど」 その何気ない会話に不安に思ったマリの様子を見てユリは気にするなと言う。 「静かすぎると思ってな。夢が何か考えてるかもしれん、念のため気ぃ張ってろ」 「は、はいっ」 最初の頃、マリは学校や塾の周辺で夢の気配を感じると言っていた。真面目な性格ゆえ、夢の気配には近づくなという言いつけを守っていた為その姿を見ることはなかったようだが今週に入ってからそんな話をぱったりとしなくなった。代わりに少し雰囲気が変わったのだ。 マリが帰ったあと、なにかおかしいの?とマユが聞くと首を振る。 「そうじゃない。どちらかといえばいい方向に行ってるのかもしれない」 そこへドタドタと大げさな足音を立てながら見送りに行った筈のウォンが帰ってきた。 「ちょ、男が迎えに来とったんやけど!」 その言葉に”いい方向”の意味を理解したのか、マユがいぶかしげな表情でユリを見る。 「…ユリ」 「マリは大人の階段をのぼりつつあるのさ」

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