「幼馴染」

「きゃーッ!先輩っがんばってーぇ!!」 男子バスケ部の練習を覗きに来た後輩たちの黄色い声援が体育館にこだまする。 ダンッ!ダンッ! キュ、キュ、 ヒュッ!! 声援を一身に受けた彼は華麗にドリブルをし、相手を抜くと綺麗なシュートを放った。 パスッ! 弧を描いて放たれたボールは吸い込まれるようにゴールへ入り、また得点を重ねた。 「キャー、カッコイイ~!!」 一層、後輩たちの応援が響き渡る。 「お前ら、うるさいっ!練習の邪魔だ!」 声援を受けた彼はそれを嬉しがる様子も無く後輩たちを怒鳴った。 「やだぁ、先輩こわい~ィ」 「怒ってもカッコイイ~」 怒られているのに彼女達に恐がる様子はない。むしろ喜んでいる様に見える。 呆れながら彼がこちらへ向かってきた。 「マネージャー!水っ」 怒りの矛先がこちらに向く。 「は、はいっ!」 私は慌てて用意してあった水を渡した。 「ぼーっとするな!ちゃんと見てたのか?」 「ごめんなさい・・・・・・」 「タオルは?」 「あ、ごめんなさい」 「言わないと分からないのかよ。ほんと、鈍いよなぁお前」 「・・・・・・ごめん、なさい」 遠慮なく言い放つ彼は私の幼なじみだ。 家が隣同士で幼稚園から高校までずっと一緒に育ってきた。 バスケ部のマネージャーになったのも彼に誘われたからだ。その時も私は今までの様に何の迷いも無く彼の側にいる事を選んだ。 「いいなぁ、私もバスケ部のマネージャーになりたかったぁ」 「マネージャーは1人でいいからって、入れなかったんでしょ?」 「なんであの人なの?」 後輩たちがこそこそと話しているのが聞こえてくる。 彼は人気者だ。 中学の頃は私と背丈はそれほど変わらなかったのに、高校でバスケ部に入ると背がグングン伸び、それに伴って急に大人びた顔つきになった。彼は女の子達が放っておかないくらいイケメンに成長してしまった。 私とは不釣り合いなほどに。 「もういいから、向こうに行けよ」 水を飲み終えると、彼は水筒をぶっきらぼうに私に押し付けた。 (昔はもっと優しかったんだけどな・・・・・・) 最近はイライラしている様に見える。幼馴染だからかその苛立ちを私に遠慮なくぶつけてくる。 「おいおい、マネージャーをいじめるなよ」 怒る彼を見かねたチームメイトが助け舟を出してくれた。 「言ってやらないと分からないみたいだし?オレは別にいいんだよ」 「なにイラついてんだよ。ほら、マネージャー、向こうで休んでようぜ」 「お前は休むな!」 どさくさに紛れて一緒に休もうとしたチームメイトを引っ張り戻すと、練習はまた再開された。 私は邪魔にならないよう隅に行き腰を下ろした。 (ハァー、私の何がいけないんだろう?) 彼とはもう昔の様に一緒に笑いあえる事は無いのかもしれない。もう子供じゃないのだから・・・・・・ 「お疲れ様でしたーぁ!」 練習が終わると私の仕事が始まる。クーラーボックスを片付け、用具をしまい、散らばったボールを集める。 皆が疲れた様子で帰って行く中、彼はいつもの様に一緒に残ってくれた。 「早く片付けて、帰るぞ」 前はこの二人きりになれる瞬間が私の唯一の楽しみだった・・・・・・ 「ねえ、私が片付けておくから先に帰っていいよ」 「二人で片付ければそれだけ早く終われるだろ?」 「でも、最近疲れてるみたいだし・・・・・・イライラしているというか」 「は?なんだよそれ」 彼はまた機嫌が悪くなった。 「私の事はいいから、あっ!」 片付けようと拾い上げたボールが手からこぼれ、彼の方へと転がっていった。 「ほんと、鈍いよなお前って」 彼はそのボールを拾い上げるとカゴに向かって放ち、難なく片付けた。 「・・・・・・ごめん、なさい」 「はぁー、」 呆れたように彼が大きくため息をつく。 汗で濡れた髪を掻きあげ、またイラつきながら言った。 「一緒に帰ろうと思って残ってるんだよっ!」 「だから、私の事は気にしなくても」 「気になるから、放っておけないんだろ?」 「え?」 「お前は何とも思わないのかよ」 「何が?」 「なにって、オレがちやほやされてるのを見ても・・・・・・あーっもう!」 怒ったように彼は近づいて来た。私は何か機嫌を損ねたのかと身構えた。 いつの間にか随分と背の高くなった彼が私を見下ろしながら言う。 「ここまで言って分からないのかよ。お前ってほんと、鈍いよな」 すぐ近くで見ると彼の顔は赤く染まっていた。それは怒っているからなのか、キツイ練習の後だからか、それとも・・・・・・ (・・・・・・もしかして) 鈍い鈍いと言われてきた私もようやく気が付いた。 「お前はオレじゃなくてもいいのかよ。オレはお前じゃないと・・・・・・」 「なに?」 「言わせるな!バカっ」 照れて横を向いた彼は私が知っている昔の笑顔に戻っていた。

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