少女たちは夢をみる | マリーゴールド
kuma

(遅くなっちゃったな) 五月、暑い日もあれば寒い日もある。今日という日はとても蒸し暑い日だった。 彼女は中学三年生、受験も控え塾に通う普通の学生。 両親ともにとても優しいが、近頃母親がとても神経質になってきて自分以上に受験に対して熱が入っている。もちろん嫌いになんてならないし自分の為に考えてくれているのは嬉しいのだが少々彼女は疲れていた。 駅から歩いて団地にある家に向かう。街頭はたくさんあって申し分ないが、時刻はもう11時を過ぎていて辺りは真っ暗だった。 (近いからってお迎え断っちゃったけど、やっぱり来てもらえばよかったかなあ) 10分もかからないし、と思ったが団地に入ると出歩く人影なんてある筈もなく自分だけが歩く道がとても気味悪く感じた。 (ん?) あと数分で家だというところまで来たとき、10mぐらい先の街頭の影の部分で何か動いた気がする。しかしそんなところで誰が何をするというのか。勉強のしすぎで目が疲れてるのかもと思ったが、やはり近づくにつれソレははっきりと動いた。 (人、だけど) 持っていた鞄をぎゅうっと握り、少しずつ歩みが止まる。 「な、に」 それは真っ黒い顔をしていて目がおかしかった。まるで瞼なんてないみたいに真ん丸の目玉がこちらを凝視していて、口からは液体がこぼれている。ひどく猫背でうつむいているようにも見えるけど、目だけは確実にこっちを見ているのだ。髪の毛はあるのかどうかすらわからない、闇が霧のようにかかっていてハッキリみることができなかった。 「ひっ」 完全に止まった足、距離はおおよそ5メートル、逃げなければと思うのに足は震えて動かない。変質者なんかよりずっと危ないものだと頭ではわかっているのに。逃げられない。 ズル、ズル、ズルっ 音を立ててそいつが電柱の影から出てきた。真上や周りの電柱の灯りがチカチカと点滅する。万一、灯りが全て消えてしまったら終わる。そう確信した。 「こ、こないで!」 震えながらもなんとか声を出す。しかしそいつは気にもとめず近寄ってくる、泥のように濁った足で。 (やめて、こないで、お願い、お母さんっ) 何かできる筈もなく、逃げ出すことすらできず、目の前までそいつはやってきてしまった。怖くて直視できず、道路に視線を落として耐えたが遂にそいつは自分のところへ辿り着いてしまったのだ。 あ、あああぁあ… 苦しそうな声、伸ばされてくるその手に抗う勇気などある筈がなく彼女は叫んだ。 「た、助けてっ!!!」 頭を抱えて反射的に我が身を守るようにしゃがみこみ、ぎゅっと目を瞑る。本能的に命の危機だと予感した。しかし、なぜか待てどくらせど痛みや違和感などはかった。 (え?) そろり、と目を開けあの恐ろしいものの姿を見ようとしたが目に前には何もいない。灯りも普通に戻っている。どうして?と周りを見渡し、背後に視線を向けるとそこには人が立っていて驚いて尻もちをついてしまった。 「あんた、みえたの」 それは学生服を着た少女。恐らく自分よりは年上、ボブの髪型に短いスカート、ルーズソックス。髪は黒いが、いで立ちは昔のギャルというのがしっくりくる姿だった。 「あの、」 「みたの?って聞いてるんだけど」 「え、あ、なんか、変なものを…」 突然現れ、なんのことか全くわからないが恐らく今目の前にいたわけのわからないものの事を言っているのだろう。その答えに満足したのか手を差し出して体を起こすのを手伝ってくれた。 「家は?」 「あ、もうすぐそこなんですけど」 「取り合えず家まで送ったげる」 「ありがとうございます、でも」 「いいから」 一度は断ろうとしたが有無言わさない態度とイラっとしたようなその瞳に怖くなり、お言葉に甘えることにした。本当にすぐそこだったから2、3分で着いてしまったが。 「ここです、ありがとうございました」 「ああいうのよくみるの」 「いえ…」 首を振ると少し考えた素振りをみせて彼女はある紙を私に差し出した。 「よければ時間あるときにここにおいで。さっきみたいなこと、また起こるよ。その時に力になれる。時間は何時でもいい、誰かはいるからいる奴に声かけて。そんでゆりに言われたって言えばいいから」 受け取って目を通すとそれはこの町の海沿いにある家を差す地図だった。 「それからさっきのことは誰にも言わない事。あんた、勉強しすぎて頭がおかしくなったか病気になったかと思われるよ」 「はい…」 確かにあんなに怖かったけど、現実味がないし誰かに話してもきっと変質者かなにかと言われるだろう。それどころか言われたように自分の頭がおかしくなったと思われかねない。彼女は「夢でも見たと思いな」と言う。その方が幸せかもしれない。 「名前は?」 「あ、えっと、篠崎麻里です」 「マリ、ね。私はユリ。待ってるから、何か起きる前に必ずおいで」 そう言って彼女は背を向けて歩いて行ってしまった。 暫く麻里は動けずにいた、自分の身に起こった恐ろしく不思議な出来事とユリという少女の存在。それが足の甲にずっしり乗っかっていて、動けない。結局動けたのは外に麻里がいることに気づいた母親が驚いて腕を引きに来てからだった。 翌日、麻里は渡された地図に書かれた家へと向かった。

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