食事を終えた佐知子は、床が土になっているスペースと、レンガを重ね絨毯を敷いて高くなった段差に腰掛け、ヨウが来るのを待っていた。  看護係の仕事は例外で仕事があるのだが、葬儀がある人は休める。そして昨夜、ヨウに、明日、迎えに行くから待っていろと言われた。 (お葬式か……はじめてだな……)  佐知子は今まで、結婚式の経験もなければ葬式の経験もない。どんな感じなのだろう……と、いまだにアフマドが死んだという実感がつかめず、|宙《ちゅう》を見つめぼうっとしていた。 「!」  すると、開け放たれた入口にかけてある布の向こうに、ちらちらと人影が見えた。おそらく中に声をかけられないヨウだろうと思い、佐知子はあわてて駆け寄る。 「あ、やっぱりヨウだ」  さっと布をよけ、見ると、そこには、今日も午前中からギラギラとまぶしい太陽の中、佐知子と同じように黒いカンラ、黒い革の靴を履いたヨウがいた。  ヨウのカンラ姿はめずらしくて、思わず見入る。だがそれよりも…… (やっぱり痩せたなぁ……)  そして顔の切り傷が痛々しい……腕の包帯も。と、思いながら、佐知子の顔が曇る。 「あ……でてきてくれて助かった……おはよう……」  ヨウは、ほっとした顔であいさつをする。 「おはよう」  佐知子は薄くほほえんだ。 「……アフマドの葬儀……行くか……」 「……うん」  そう言われ、歩き出したヨウに並んで歩く。  道すがら、葬儀の手順やマナーなどがあるかを聞いた。特にないらしく、鐘が鳴ったら埋葬で、順番に柩に横たわる死者に花をたむけ、お別れをするだけらしい。  そして村の入口の大通りを歩き、正門を抜け、左手に曲がり少し歩くと、黄土色の乾いた大地にズラリとたくさんの白い石の墓石が立っていた。 (うわぁ……)  その数の多さに圧倒される。  綺麗に区画分けされ、一本ずつ丁寧に短い墓石が立っていた。その数は数え切れないほど……。  そして今、その中のあちらこちらで黒いカンラを着た人々がかたまり、うずくまり、大声を出して泣いていた。そして、かたわらには、スコップを持った人が立っている。 「…………」  午前中の日差しが、徐々にジリジリと肌を焼く。風はわずかに頬をなで、佐知子はそんな光景を見て、心臓がドクドクと脈打つのを感じた。 「あっちだな……」  ヨウはいつもと変わらない様子で、乾いた大地を歩んでゆく。 「…………」 『もう、なれてるからな』  昨夜のあの笑顔とあの言葉が脳裏をよぎる。  ヨウはいったい今まで何人見送ってきたのだろう……何度こんな思いをしてきたのだろう……早くなる鼓動と、不安にも似たつらいような、苦しいような、悲しいような感情の中、佐知子はぎゅっと両手を体の前で握り、ヨウの後を追った。

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