3章:二人の話①

1. 【尾毛貴美雄】東京 /9月4日8時15分 僕が外に出るために扉を開けようとすると、予想外なことに外側からドアが開いてひどく驚いた。 誰かがちょうどドアを開けたのだと一瞬のちに気づき、顔を上げる。 そこには、僕の捜し人である響の顔があった。 「捜したんだぞ」 「遅かったじゃないか」 つい口を衝いて零れた台詞。お互いに噛み合っているようで噛み合っていない。捜しに行こうとしたのは僕なのに。 どうやら響は僕を捜していたらしい。変な台詞だ。引っ越し先にいるのは変なことじゃないんだから。 「僕のことを君が忘れてしまっていたんじゃないかと心配していたよ」 響に対して少し皮肉げに微笑んでみた。普段意識しない表情だからうまい具合に口角が上がっているか自信がない。 そんな風にちょっとふざけていると、響からの思わぬ台詞に目を瞬くことになった。 「お前のことを忘れる?腐れ縁もあるが、同居人をそこまで軽々しくは思わねーよ貴美雄。で、どうしてここにいるんだお前」 心配そうな響の顔。改めて見ると走ってでもきたのか汗が滲んでいる。 言われた言葉の裏を読もうとしたけれど、言葉通り以外の受け取り方ができず、当たり前のことを言うしかなかった。 「どうしてって、そりゃ決まってるじゃないか。引っ越し先にいるだけさ。もしかして本当に忘れてしまっていたのかい?」 しっかり者の君らしくない。一体どうしてしまったんだい。

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