第八十八話 王都への道と待ち受ける者

 バウムさん達への挨拶もそこそこに、王都オルカンへと旅立つ俺達。メンバーは俺、ティリア、リファ、ルルカ、そしてクリューゲルと非戦闘員のチェルだ。  「さあ、悪を滅ぼしに行きますよ!」  「その意気ですお嬢様!」  と、ティリアとリファは意気込んでいるが、俺は今後の展開をどうするつもりなのかをクリューゲルへと尋ねた。  「なあ、王都へ行った後、どうするか考えているのか?」  「はは、流石にその辺は押さえてある。まずは俺の屋敷へ来てもらい、そこで城の動向を探るつもりだ」  そこでルルカが俺に乗っかるようにしながら追加でクリューゲルへ質問を投げかける。近いな!?  「一つ聞きたいんだけど、君は竜の騎士の団長さんだよね? 城へ行くのは簡単だから探るのは難しくないよね?」  「……いや、俺は異種族狩りに反対した時に騎士団長の座を降ろされた。今はしがない冒険者さ」  なるほど、それでニドがなんでこんなところに、と漏らしていたのか。  「なら城の動向を探るのはどうやるんだ? 俺達が出向くとかか?」  「俺の元部下に、国王の政策に反対しているのが何人かいる。そこを使ってみるつもりだ。騎士団長を辞めただけで反逆者ではないから城下町を歩いていても咎められることはないし、俺の目的はあくまでもローブを纏った奴らだ。それ以外に危害を加えるつもりも無い」  ローブの人物なら危害を加えると言っているようなものだが、果たして大丈夫だろうか……? 国王がそいつらに操られているのであればヘタをすれば戦いになるだろう。  「……どちらにせよ行ってみるしかないってことか。チェルの家はどの辺にあるんだ?」  「は、はい! まだ変わっていなかったら南の居住区にあります」  「なら、母親に無事な姿を見せてやろう。というかこの国出身なのに入国の税金を取るとはとはとんでもないな」  俺はイクシルがチェルを捕えた時のことを思い出す。  「本当は王都で生活している時に払わないと行けなかった税金なんです。けど、お金が無いからお母さんに黙って出てきました。人間のフリをしてお金を稼げば……そう思って宿で働いていたんですけど……」  「どこからか密告があったってわけか」  俺が言うと、チェルはコクリと頷き、申し訳なさそうに口を開く。  「私は宿で耳を見たご主人様だとおもってたんです。でも、命がけで助けてくれ、それは間違いだと気付きました。今もこうして奴隷のような扱いをせず連れてきてくれて……本当にありがとうございます」  「まあ、乗りかかった船だしな。とはいえ、密告したやつが気になるな……」  俺がそう言うとルルカが喋りはじめる。  「予想だけどローブの集団、結構な数が居たりするんじゃないかな。 町に相当数がいて、常に監視をしているとか」  「そんなことをして意味があるのか?」  リファがルルカに訪ねると、肩をすくめて答えていた。  「お嬢様や、リファみたいに真っ直ぐな考えだと思いつかないと思うけど、異種族をチェルの時みたいに弾圧し続けているとどうなるかな? 答えは簡単、それを良しとしない異種族と人間が戦いを始めるよ、きっと」  「なら戦争を作為的に誘発しようとしているのか!? いくらなんでも……」  リファが驚くが、クリューゲルは真面目な声で同意していた。  「有り得なくはない。俺が城から出るときは我がもの顔で城の内部を歩き回っていたからな」  「となると、容易には近づけないか?」  「そうでもない。風斬の魔王でなければ、魔王が訪問することは気にしない、と思う。だが、風斬の魔王と同じという意味で、『魔王』という存在を異種族と捉えているかどうかまでは分からないけどな」  そういう意味ではティリアが名乗りをあげたのはあながち無茶でも無いのか? それはそれとしてもう一つ、俺はこの件で気になっていることを全員に向かって聞く。  「しかしそうまでして異種族を排除する意味はなんなんだろうな? 戦争が起きてローブの集団は何か得することがあるのかねえ」  「言われてみれば……エルフ達も決して弱くありませんし、手を貸している国王が負けたらどうするつもりなのでしょう……」  ティリアも首を傾げて考え込むが、全員唸った所で答えが出ることは無かった。何となく沈黙し、しばらくすると、ぐぅ~という音が馬車内に響いた。  「……お腹すきましたね」  ティリアだった。誰かのせいにしないのは好感が持てるが、出発前に昼ごはんを結構食べていたので俺は驚愕する。  「少し休憩を挟むか。クリューゲルさん、問題ないか?」  「クリューゲルでいい。俺もカケルと呼ばせてくれ。休憩は問題ない、もう少し先に湖があるからそこで一息つこう。馬たちも喜ぶと思う」  「分かった。そしたら俺が何か作るとするかな……」  「たこやき……!」  「鉄板はあるが……時間的におやつがいいかな」  俺は材料を確認して、作るものを早々に決めていた。  ◆ ◇ ◆  ――王都オルカン 城内:執務室    「まだ、見つかりませんか?」  「ええ、もしかして城には無いんじゃないかしらね」  「国王は何と言っている?」  「何も。薬は効いていると思うけど、どうしても隠したいことは中々口を割らないからね。国王の精神力を甘く見ていたよ」  「薬の量を増やしてみたらどうだ?」  「廃人になっちゃうわ。残念だけど、自力で探すしかないわねー操り人形になっただけでも儲けものでしょ? 自由に動けるんだし」  黒いローブに身を包んだ五人の男女が、薄暗い部屋の中で話をしていた。どうやら何かを探しているようだが、芳しくない様子を醸し出していた。  「そっちはどうなの? フィアム」  ローブを目深に被り、口元だけでている女性が、長い耳にリングをつけている男に尋ねると、静かに口を開いた。  「……ぬかりはない。毒は仕込んだし、体調を崩すのもこの目で確認した。魔王様さえいなければエルフと五分で戦えるハズだ」  「でもエルフって長寿ですよね? すぐには死なないでしょう」  丁寧な口調の男が人差し指を立てフィアムへと尋ねるが、大きな体躯をした他の男が代わりに答えた。  「なあに、弱っているならやりようはあるさ。こっちは団長のクリューゲルを欠いたのは痛いけどな」  「今の団長は欲があるから御しやすいけど、強さは今一つだもんねー」  「それは俺へのあてつけか?」  「まっさかー! まああなたも自分の目的を果たすために協力している訳だから気になるかしら? あは♪」  フィアムが腰のダガーに手をかけた瞬間、丁寧な口調の男がそれを制した。  「まあまあ、口が悪いのは私から謝りますよ。すいません。クリューゲルさんは仕方ありませんよ、そのために魔物を大量発生させたじゃありませんか」  「(こいつ……いつの間に……)分かればいい」  ダガーから手を離すと、丁寧な口調の男は口元をにっこりとさせてから手を叩き、全員に告げた。  「それじゃ、今日の集会は終わりだ。頑張って封印を探そう。女神アウロラ様のために」  「「「「「アウロラ様のために!」」」」  「……」  怪しい集団だが使い道はある、とフィアムは腕を組んで彼等が団結する様子を横目で見るのだった。彼等の目的とは? 封印とは何なのか? それに答える者は誰もいなかった。  ◆ ◇ ◆  「ほわあ……」  「あ、ああ……こ、これは……!」  湖のほとりに到着した俺達は、早速休憩をすることにした。馬達は美味しそうに水を飲み喉を潤し、ティリアとチェルは俺の作った『ホットケーキ』に感動を覚えていた。  「ホットケーキはありそうだけど、どうなんだ?」  「似たようなものはあるけど、小麦をこんなふうに甘くして食べるのは初めてかな。それにバターとハチミツ……贅沢すぎるよ……異世界すごい……」  冷静な会話だが、ルルカの顔もにやけており、女の子だなと思わせる。リファもニコニコとホットケーキを口に運びながら俺に質問を投げかける。  「たこやきと同じ生地で全然違うものができるのだな。これも売り物にするのか?」  「どっちでもいいけどな。金に困ったり、旅の目的もなくなったら店をするのもいいかなとは思うな」  「はい! はい! 私、その時はお手伝いします!」  チェルがホットケーキを咥えながら手をあげてぴょんぴょん跳ねる。そして静かなクリューゲルへと目を向ける。一口一口が凄く遅いので気になっていたのだ。  「どうした、口に合わないか?」  すると、くわっと目を見開いて俺に叫んだ。  「逆だ! 俺は甘いものが好きなんだが、これは今まで食べたどんなものよりも美味い! 勿体なくて少しずつし食べられん!」  「あー、そう言ってくれると嬉しいが……結構簡単だし、材料もあるから食っていいぞ」  すると「分かった!」とがつがつ食べ始めるクリューゲル。ルルカの『異世界』発言も聞いていなかったくらいの勢いだった。  「さて、俺も一枚……」    ガサガサ……  と、フライパンに手をかけたところで草むらがざわついた。  「みんな、お客さんだみたいだ」  ギャギャギャ!  グフフ……  「ひゃあ!? ゴ、ゴブリン……!」  チェルが慌てて俺の後ろに引っ込む。言うとおり、ゴブリンの集団だった。  「数は15匹か。大したことないな」  「さっさと終わらせよう」  ギャギャー!  俺が槍を、リファが剣を抜いた所で後ろにいた弓をもったゴブリンが矢を放ってきた!  ヒュン!  「おっと、下手くそだな。さっさと終わらせるか」  と、俺が声をあげたところで後ろから殺気が広がるのを感じ、俺が振りむくと……  「私のホットケーキが……!」  ティリアの皿に矢が刺さり、皿は真っ二つ。そしてホットケーキ(焼きたて)は、無残にも地面へと落ちた。  「覚悟はいいですね?」  そして魔王様が大人げない怒りをあらわにしていた。

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